アメリカ・ウィスコンシン州出身のジャスティン・ヴァーノンを中心としたソロ・プロジェクト、Bon Iver。第54回グラミー賞にて最優秀新人賞を受賞するなど、高い評価を得ています。
本記事では1st~3rdアルバムまでの3作品について書いています。
アルバム紹介
For Emma, Forever Ago(2008)
1stアルバム。プロジェクト名”Bon Iver”には”冬”という意味が含まれているそうですが、静かに胸を打つ切なく感傷的なアコースティック・ギター、ジャスティンの壮麗なファルセットがしんみりと心の澱をほぐします。
基本的にはその歌とアコギによるフォーク・ミュージックとしての佇まい。最小の素材を巧みに料理して、叙情性豊かで自然の荘厳さを感じさせる仕上がり。どこか侘しさ、寂寥感を湛えつつもこの美しいサウンドが肝です。
心に届くシンプルなメロディ、立体感を出す音響的アレンジなどで彼の出身地であるウィスコンシン州の厳しい寒さがそのままパッケージされ、その大自然のパノラマを精妙に描き出す。
繊細な歌とギターの連なりに胸の奥が静かに熱くなる序盤#1~#2の流れは見事だし、神聖な響きも湛えた#3では祝祭感も表出。
大地の躍動のようなドラムスと口笛が昂揚感を高める#7からホーンなどのアレンジも加えたスケールの大きい#8への繋がりもまた素晴らしい。カニエ・ウェストをも魅了したハーモニー、納得の一言。
Bon Iver(2011)
2ndアルバム。この間の2010年にはVolcano Choirとしての来日も行っています。前作での寂寥感あるフォーク・ミュージックを基調にしつつも、本作ではバンド編成となって力強く色鮮やかなサウンドへと前進。
例えば#1に出てくる勇壮なマーチング・ドラムであったり、#2に出てくる艶やかなホーンなどの小規模なオーケストラ風の佇まいが、輝かしいメロディラインと祝祭感を強く浮かび上がらせています。
やはり寂寥感を湛えつつも、その美しいハーモニーに優しく包み込まれるような感覚があり、前作以上にその要素は強く出ているかと。また、ストリングスの閑雅な響き、陰影のある音響アレンジ、そして厚みを増したハーモニーがスケールを一層大きなものとしていて、彼の描き出す風景の雄大さ・荘厳さを物語っています。
歓喜の雄叫びをあげる様な終盤に涙する#4、郷愁を帯びた深遠な時間が紡がれた#8で、彼の歌の成長を実感。
北欧の幻想的な世界を紡ぎ出すようなシガー・ロス、そしてアメリカン・ミュージックの雄大さを物語ったフリート・フォクシーズなどと共振しつつも、粉雪が舞う様なメロディの美しさとダイナミックな力強さが手を取り合って作品を彩っている。
雪解けを迎えたかのような美しいエンディング#10における大きな感動。厳しい冬の情景から、色鮮やかに輝く温かな大地へとその歌声を通じて導かれていくような本作、世界各地で高く評価されるのもうなずけます。
22, A MILLION(2016)
5年ぶりの3rdアルバム。グラミー受賞したりして時の人になったわけですが、名探偵でも解読できなさそうな記号めいたタイトルに曲名がずらっと並んでいます。
音楽的にもこれまでのフォークを中心としたものでなくなり、James Blakeのようにデジタル処理を施した断片を繋ぎ合わせ、そこに自身の歌声を乗せる形。
ここまでエレクトロな感触が強くなり、複雑なイメージを彼に抱くとは。どこに交換留学に行ったかと思うほどですが、そういえばカニエ・ウェストやJames Blakeと共演していることを考えるとこの変化はわからなくもない。
声の加工、ホーン・セクションの使い方、アンビエントの色分けなど実験的な試みがところどころに存在しています。ただ、その中でも立体的でメランコリックに聴かせるのが彼の仕事。
#4「33 “GOD”」が声を重層的なアンサンブルのように用い、生音と電子音が巧みに絡み合って素敵だし、#5「29 #Strafford APTS」は前作路線の良心という形で中盤の要となり、ラストの#10「00000 Million」で雪解けの温かさをもたらします。
彼の特徴はハーモニーにあると思いますが、前衛的であろうとも本作でそれが聴けるのは確か。
i,i (2019)
4thアルバム。