アメリカ・コロラド州デンバー出身の3人組。極端に遅くて重いスタイルを中心とし、圧倒的な絶望感を植え付けるスラッジメタルが持ち味。穏やかな瞬間は存在せずに、ただただ地獄のような音を浴びせ続けます。これまでに3枚のフルアルバムをリリース。来日ツアーを2度実施(2016、2019)。
本記事ではフルアルバム3枚、2022年リリースのEP『Insurmountable』について書いています。
Scorn(2013)
1stアルバム。全7曲約40分収録。Scorn(スコーン)とは軽蔑という意。ですが、「頭スコーンと割って、脳みそストローで吸うたろか!」という〇本新喜劇のベテラン座員の某セリフを思い出します。それを音楽でやってるのがPrimitive Manでありますが。
憎悪と絶望に満ちた激重スラッジメタルは容赦なし。密閉された空間に押しこまれてしまったかのように、何倍もの重力で全身が抑えつけられます。
いきなり11分を超える大曲#1「Scorn」から、同系バンドのThouに似た地獄が訪れる。澄んだ美しい自然すらも一瞬で崩壊してしまうぐらいに、リフとリズムはどす黒く重い。ただ、スロウテンポ一辺倒という我慢はきかないのか、5分過ぎたらHis Hero Is Goneばりに疾走するパートも盛り込んでいます。
脳内を汚いノイズで埋め尽くす#3「I Can’t Forget」もあれば、まるで妖しい儀式のような#5「Black Smoke」、さらなるクラスト爆撃#6「Stretched Thin」という曲も用意。妙な美意識を働かせて、聴き手を完膚なきまで叩きのめす。そして、すえた匂いが広がる。Bandcampの説明文にはこう書かれています。
夏の終わりに明るいレコードを必要としているのなら、PRIMTIVE MANの「SCORN」から全速力で逃げろ!これは、最も暗い秩序の中で、憎しみと魂の消滅をもたらす音楽だ。
Primitive Man公式Bandcampより
Caustic(2017)
2ndアルバム。全12曲約78分収録。再び地獄は蘇る。彼等のスラッジメタルは牛歩での撲殺であり、無慈悲な獄門そのもの。海外ではデス・スラッジ、エクストリーム・スラッジなどとも例えられます。前作と比べると楽曲は長尺化し、断片的なインスト曲を除くと5分以下は無し。また、ドス黒スラッジメタルという方面の刃を研ぎ澄ませてきた印象は強いです。
激遅激重はバンドの根幹ですが、絶望をここまで全面的に引き受ける音楽はそうそうない。また、急加速を効果的に入れており、#2「Victim」や#7「Sterility」では遅すぎる速度規制が緩和され、クラスト寄りの疾走が伴う。そして、“吠える”という表現が似合うヴォーカルが負の感情を爆発させています。
その爆発の火種となる歌詞は、”政治的腐敗、個人的闘争、世界が直面する崩壊しつつある社会情勢”について書かれている。
特に#12分にもわたる#4「Commerce」は長&重労働なのに貧困は続く、その矛盾した社会の労働システムについて吠えており、ラストではこらえきれずの爆走と共に「あなたの本質は死んでいるが、奴隷制度は永遠だ」と訴えます。映画監督ケン・ローチの思想を激重音楽で表現したかのよう。
ラストを飾る#12「Absolutes」はインストゥルメンタルで、SUNN O)))ばりのノイズの大群が鼓膜に押し寄せます。人間を嫌い、社会や世界を憎み続ける。本作は、78分という目一杯の収録時間で地獄しか奏でていない。
Immersion(2020)
3rdアルバム。全6曲約36分収録。人生はずっとハードモードだと憎悪をぶちまけた前作からは、半分ぐらいの収録時間に短縮化。10分台の曲は本作にはなく、長いので8分ほどに収めています。長いけど。変わらずに光を拒絶し、動物のような遠吠えがずっとずっと続く。体型も音も無差別級であり、例えるなら曙とボブ・サップをツートップに配置する爆撃スタイル。
#1「The Lifer」から低速リフの反復に次ぐ反復で、ほとんどの人が否応なしに不快感を覚えるような空間を生み出しています。体も精神もひたすら殴打するように、彼等のスラッジメタルは鉄槌を打ち続ける。
#3「Menacing」は解禁されるブラストビートを合図にラッシュを繰り広げます。相変わらず穏やかな瞬間はどこにも存在せず。割れるほどのノイズと本能的な唸り声に支配されながら、底辺という苦汁をなめ続ける。
個人が抱える闇、他人への不信、矛盾した社会への怒り等のたまった膿を吐き出している歌詞は、暗い時代への抵抗というよりは嘆きという表現の方が近い。”人間の本性は毒であり、クソ汚い”と#5「Foul」で言ってしまい、”死にゆく世界に生きる”と吠える#6「Consumption」で諦めの花を咲かせている。
36分と短縮しようが、Primitive Manは絶望を心の中に残していくのです。
Insurmountable(2022)
3曲+スマッシング・パンプキンズのカバー「Quiet」を収録した全4曲入りEP。10分を超える曲を2つ収録しており、EPだけど前フルアルバムより尺が長い約38分収録。Insurmountableは、(困難などが)乗り越えれないという意。卑屈になるなと慰めても、Primitive Manの表現は変わりません。
初っ端からいきなり12分という耐えがたい試練を課す#1「This Life」で幕開け。忌まわしき人生を振り返っては闇落ちし、ドゥーム/スラッジの巨大な壁が立ちふさがる中、終盤はノイズも加わって絶望感に拍車をかけます。
続く#2「Boiled」は歌なしの過酷なノイズ・トラックであり、ホラー映画のような呪われた世界に取り残されていく感覚がある。EPというフォーマットだからかフル作とはまた違った実験がみられます。
MVが制作されている#3「Cage Intimacy」は11分を超えますが、彼等お得意の急速展開を用いた激しい揺さぶりをかけ、どんよりと湿った重い空気と過酷な圧が襲い掛かる。この曲では高音域のノイズを多用するなどの変化もあり。
スマパンのカバー#4「Quiet」は原型がわからないほどに暗黒重武装。何回か聴き比べましたが、やはり別物という答えに落ち着く。
バンド結成から10周年を迎えても、希望を全く書かない辺り、Primitive Manはブレてません。”ライフハック?そんなの知らねえ。人生にドラマなんてありゃしねえ。ただ、苦しみを抱えて生きるだけ”とヘヴィな音は語る。