【作品紹介】Foxing、エモリバイバルから変幻自在のスタイルへ

 2011年に結成されたアメリカ・ミズーリ州セントルイス出身のインディー・バンド。Foxingというバンド名は、本の茶色い経年変化を指す言葉から取られています(参照:The Indiependentインタビュー、現象の参照:産経新聞記事)。

 デビュー作である1stアルバム『The Albatross』はエモ・リバイバルの波に乗って注目を集めますが、それ以降は作品毎に変化をしているのが特徴。2nd『Dealer』では静的なムードに傾いた作風となり、続く3rdアルバム『Nearer My God』ではシンセポップやR&Bの要素を取り入れる。以降の作品でも新しい自分達の音楽を探求し続けています。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム全5作品について書いています。2025年3月には待望の初来日ツアーを予定。

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作品紹介

The Albatross(2013)

 1stアルバム。全10曲約32分収録。Count Your Lucky Starsからのリリース。インディーロック/エモのレーベルとして知られる同レーベルですが、Foxingはさらにオーケストラルな色合いを加えたのが特徴です。クリーントーンのアルペジオやタッピングギターを配しながら、小気味良く進行。そこに鍵盤やストリングスにホーンの加勢、合唱的なコーラスを重ねており、にぎやかな演出が効いています。

 エモ/ポストロック、マスロックに足場を置いた音楽性ながらも、Do Make Say ThinkやBroken Social Sceneといったトロント勢の影響は大きそう(こちらのインタビューでDMSTのライヴに影響を受けたことを話す)。また聴かせるパートはなめらかに歌い上げ、ポストハードコアに感化された叫び、ファルセットも入れてくるヴォーカルが魅力。

 その歌詞の内容については、IDIOTEQのインタビューにて”アルバムの大部分は、自分の弱さや欠点と折り合いをつけることについてです“と述べている。そうしたナイーヴな心情を書いているとはいえ、親しみやすさの特許でも取得したかのようなキャッチーさが本作にあります。

 Spotify再生回数1000万回以上を誇る#3「The Medic」や#5「Rory」。そして優雅な歌唱とトレモロの美旋律がホーン隊を呼び込み、歓喜のファンファーレと化していく#7「Bit By A Dead Bee Pt.2」といった曲を収録。

 同時代に出てきたThe World Is a Beautiful Place~と共鳴して後にツアーするのも納得です。なお本作リリース後にTriple Crown Recordsと契約し、本作のリマスター盤をリリースしています。

アルバムタイトルは”The Rime of the Ancient Mariner((サミュエル・テイラー・コールリッジの『老水夫行』)”という詩から来ている。 詩の中のアホウドリは、船長が自分の船にたくさんの不運をもたらしたために、首にかけさせられたものだ。 海事神話では、アホウドリは幸運の印のようなもので、だから私たちは、レコードの内容の多くを、自ら招いた多くの不運と和解することを余儀なくされるようなものとして捉えたんだと思う

The Indiependentインタビューより

Dealer(2015)

 2ndアルバム。全11曲約45分収録。当ブログでは取り上げていることが多くてお馴染みのMatt Bayles(ex-Minus The Bear)によるプロデュース。

 前作の親密さを持ったインディーロック/エモから離れ、本作はずいぶんと落ち着いた作風になりました。ストリングスやホーンの継続、電子音の補強を受け入れながらもアンビエントといえる静の雰囲気に傾倒。歌唱は3rdアルバム以降のPianos Become The Teethを思わせるように端正さと繊細が引き合う。

 冒頭の#1「Weave」は澄んだギターを中心とした繊細な前半からオーケストラルに拡張。水面の上を伝うピアノの音色と優雅な歌い回しで新機軸を進む#3「Night Channels」、シガーロスのように空間の奥ゆかしさを大切にした#6「Winding Cloth」や#9「Eiffel」といった曲でも変化は明らかです。しっとりとしたムードを強調しつつ、感情を動かす瞬間はそこかしこにみられます。

 またアルバム全体を通したテーマの言及は見つけられませんでしたが、ヴォーカルを務めるConor Murphyのカトリック学校育ちによる生活への影響を書いた#2「The Magdalene」、ベーシストのJosh Collのアフガニスタン従軍経験を基にした#5「Indica」など内省的なテーマは散りばめられている。

 #11「Three On A Match」ではアコースティックの曲調と柔らかなファルセットに被せる”私は罪の重さに耐えてきた”が何とも悲痛に響きます。シン・アルバトロスを目指さない方向性は本作でもこれ以降の作品でも顕著であり、Foxingは常に変化を求めるバンドだと示しています。

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Nearer My God(2018)

 3rdアルバム。全12曲約56分収録。引き続きTriple Crown Recordsからのリリース。創設メンバーのひとりであるJosh Collが映像作家を目指して脱退しましたが、本作のベースは彼が担当(参照:BrooklynVeganインタビュー)。また共同プロデューサーに元Death Cab For CutieのギタリストであるChris Wallaを招集しています。

 エモリバイバルの括りに入れられたのはもはや過去の話。本作ではエレクトロニックな質感が増したり、バグパイプを導入したり、シンセポップ〜R&Bテイストが合金されたことでさらに大きく変化しています。

 緊張感あるファルセットと抑制されたサウンドを中心に展開する#1「Grand Paradise」から意表を突かれますが、痛烈なベースラインから始まってダンサブルな躍動感が牽引する#4「Gameshark」、ストリングスと電子音の優雅な雰囲気の上を官能的なヴォーカルが揺れ動く#7「Heartbeats」が驚きと共に飛び込んでくる。

 また表題曲#5「Nearer My God」は複数の言語で音楽をリリースするセリーヌ・ディオンに影響を受けており、5カ国語で公開されてます(英語、スペイン語、日本語、ドイツ語、フランス語)。

 BrooklynVeganのインタビューではFrank Ocean『Blonde』やMitski『Puberty 2』をよく聴いていたと話していますが、RadioheadやBon Iverが引き合いに出されるほどに変化。下述する引用ではラジオでかからないと自虐していますが、放送局の電波に乗る曲調になっています。全体の印象はクール。時流を捉えつつ、Foxing流儀のサウンドにしっかりと落とし込んでいる。

 ”天国は私を受け入れてくれない(#12「Lambert」)”を始め、終末論を中心に据えた歌詞にも注目。そもそもアルバムタイトルがタイタニック号の沈没時に演奏されたという”Nearer My God to Thee:主よ御許に近づかん“からきていますしね。

音楽業界の情勢を考えると、僕たちは経済的に成り立つような音楽はまったく作っていない。 ラジオで流れることもない。 本当のゴールは何か意味のあるアルバムを作ることなんだ。 それはこのアルバムではないかもしれない。 でも、それがこれからのアルバムの目標であることは間違いない。

STEREOGUMインタビューより
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Draw Down The Moon(2021)

 4thアルバム。全10曲約40分収録。2020年夏にギタリストのRicky Sampsonが「音楽業界は安定していない」を理由に脱退。トリオ編成として制作していますが、ツアーを共にしたManchester Orchestraと本作で共演。

  本作のインスピレーション源となったのは、アメリカのコメディアンであるジョー・ペラのYouTube番組『Talks You To Sleep』。そこに出てくる”もし宇宙がこんなに広大で、私たちがこんなに小さな点であるなら、愛する人を見つけたら、その人を傷つけないように全力を尽くすべきではないか?”という概念を基に自分の無意味さと格闘し、宇宙的な重要性と向き合う取り組みを10曲を通して行っているという(NEW NOISEインタビューより)。

 音楽的にはこれまで3作品とも作風が違いましたが、本作は継続路線といえるもの。R&Bやシンセポップに影響を受けた前作から焦点をしぼっており、コンパクトにまとめています。Passion PitやAnimal Collectiveに影響を受けたことをUPROXXで語っていますが、イマドキの音楽で洒落ています。

 4つ打ちのクールなダンス・ナンバー#2「Go Down Together」を始め、さらに親しみやすい方向へ。ポップで躍動感に満ちた#3「Beacons」や#4「Draw Down The Moon」にしてもわかりやすい。Conor Murphyのレンジの広いヴォーカルも進化しており、そこにエフェクトやボコーダーを使った加工も組み込まれる。

 そんな中でアコースティック調から久しぶりの叫び声を含めた騒がしい混沌へ運び込まれる#1「737」は印象的。少し昔の彼等を思い出すという点も含めて。ただ#3「Beacons」では”アホウドリを捨てろ”という詞にて過去の自分達への言及も含んでいます。

 ちなみにkindacoolのインタビューによると、曲順は”現在があって、避けられない死とともに終わるという考え方“を反映しているという。そこでは”順番を無視して聴くのは馬鹿げている“とお気持ちも表明。

Foxing(2024)

 5thアルバム。全13曲約56分収録。”セルフリリースで、セルフプロデュースで、セルフタイトルだったらすごくクールだ。それ以来、これほど理にかなったアルバム名はありませんでした(参照:ourcultureインタビュー)”。またアルバム全体のテーマについては”断片的に作られているが、このバンドを機能させ、存在させるために費やした自己犠牲と個人的な時間に焦点を当てています(参照:STEREOGUMインタビュー)”と述べている。

 ゆえに10年以上に及ぶFoxingの航海をパッケージ化した作品といえます。その上で本作はニューメタルの果実をかじってしまったのか、激しい叫び声と痛烈なリフといったオラつきが目立っており、過去一の攻撃性を発揮。曲によっては3rdアルバムぐらいのBring Me The Horizonっぽいアプローチも懐に収めていて、頭から湯気が出るほどFワードを連呼する#2「Hell 99」の無双っぷりには動悸が乱れます。

 こうした興奮剤をところどころで処方する傍ら、バンドを総括するように幅広いスタイルが顔を出します。アンビエント遊泳を中心とした8分#4「Greyhound」、M83のようなシンセとエネルギッシュな歌が絡む#9「Gratitude」、ピアノバラードによる湿っぽい締めくくり#13「Cry Baby」。単一のジャンルに限定されない鮮やかさとフックがある。

 それは13曲のボリュームに加え、変革を繰り返してきたキャリアからもたらされることです。そして本作においては感情を抑えつけず、解放することを大事にしているように感じられる。前半は何だったのかとどんどんやかましくなる#7「Kentucky Mcdonalds」にしたって痛快じゃないですか。

 ”この10年間、息ができないような気がしていた 自分のピークはもう過去のことのように感じていた(#4「Greyhound」)”を始め、歌詞では自らを追い込んだ感情、厳しい現実を前にした苦悩がこぼれ落ちている。自分自身とバンド、ふたつの不確実な未来の舵取りをしていくことの困難は避けられませんが、Foxingの挑戦と前進は続く。本作はその力強い声明です。

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プレイリスト

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