名古屋の外タレ公演で満員になるのは珍しい。それだけ待ち望まれた公演だったのでしょう。デビュー作『ジェイムス・ブレイク』の神通力でもって世界を魅了したJames Blakeのライブへ行ってきました。
オープニング・アクトのキャサリン・オカダを終え、20分程経過した後にジェイムス・ブレイクが単独で出てくる。そのままピアノと美声で綴る「Enough Thunder」を演奏。出足から会場の雰囲気をゆっくりと確かめる様にして一音一音を鳴らし、丁寧に歌いあげてしっとりと会場を包み込んでいく。意表を突くような選曲だが、歌に対する絶対的な信頼がそうさせたのでしょうか。心に染みわたっていく声に導かれて、ライヴにすっと入っていけた。
その後はサポートの2人が登場し、三人編成で1stアルバムの冒頭を飾る「Unluck」へ。予想以上に圧力と重みを感じさせる低音のビートがうなり、浮遊する電子音や歌が混じり合う。空間を慎重かつ大胆に切り分けた独特の間に吸い寄せられる感覚。 「I Never Learnt to Share」では始めに歌声をそのままサンプリングして重ねて聴き手の関心を引き、徐々に歪だが美しい世界が拡がっていく。
ポスト・ダブステップという形容が世界中で躍る中で彼の作品を聴いて、感じるのは”引きの美学”。ですが、少ない音数での圧倒的な説得力はライヴでも健在。ソングライターとして、トラックメイカーとしてその才覚を発揮しつつも内省に響くサウンドは、心をグッと捉えてくる。
その中でダブステップ的な揺さぶりと柔らかなヴォイス・サンプリングが特徴的な「CMYK」は、この日のフロアが一番揺れた瞬間。続けざまの「Limit to Your Love」では冒頭のピアノと歌に感電。予想を遥かに超える重低音に驚きもしたが、それが引いた瞬間に訪れる静かな美というものが素晴らしい。しかも曲が倍ぐらいの長さになっていて、ダブっぽいニュアンスの強い楽曲に進化して表情/機能性を全く変えてしまったのも印象的。
本編ラストの「The Wilhelm Scream」では美しいメロディを奏でるギターと歌声に耳を傾けていると、徐々に頭角を現していくシューゲイザー的なノイズに包まれていく。この儚く幻想的な曲調には、ただただ聴き入ってしまいました。
アンコールは2曲。デジタル・ミスティックズのカヴァー「 Anti-War Dub」が本能に訴えかけるリズムを刻み、そこに深遠な音響が重なる。先の「CMYK」張りの盛り上がり。そして、サポート2人を帰してから新しいEPにも収録されているジョニ・ミッチェルの「Case of You」をJBが一人で弾き語る。自身のパーソナルな面をのぞかせるのと同時に歌の絶大な効力を知らしめて、ライヴは幕を閉じました。
演奏後には深々とお辞儀してステージを去る。そんな彼に対して、一向に鳴りやまない大きな拍手がこのライヴの成功を物語っていました。わたしとしても”斬新”という言葉を刻む貴重な体験でした。
—setlist—
01. Enough Thunder
02. Unluck
03. Tep and the Logic
04. I Never Learnt to Share
05. Lindisfarne
06. To Care(Like You)
07. CMYK
08. Limit to Your Love
09. Klavierwerke
10. Once We All Agree
11. The Wilhelm Scream
—Encore—
12. Anti-War Dub
13. Case of You