ライブ感想
25年。その長きに渡って途方もない音楽の旅路を続けてきたMONO。1999年の活動初期、まだ一般的ではなかったインスト・バンドは日本で演奏する場所がほとんどない状況でした。その理由をもとにアメリカに渡って公演を行うも、観客はたったの数人。そんなどん底のスタートから彼等はもがきながら音楽を作り続け、世界中を冒険してきました。今や世界でも有数のインスト・バンドとして各国の人々から待ち望まれる存在です。
本公演は2024年6月にリリースされた12thアルバム『OATH』を引っ提げ、現地のオーケストラと共演するワールド・ツアーの日本編。MONOの日本単独公演は約5年ぶり。そしてオーケストラと共演する日本公演はこれで3度目。1回目が15年前の12月に行われた同じSpotify O-EASTでの公演は10周年記念。そして2回目が2012年のフジロック。私は両公演に参加しており、特別な公演として胸に刻まれています(ちなみに私がMONOを体感するのは本日で通算14回目 ※勘違いでXの投稿で1回盛ってしまったことを反省)。
VIPスタンディングチケットで入場すると、場内ではShellacの曲が繰り返し流れていました。約4ヶ月前に開催された【三国演義】ではひたすらShellacの最新作『To All Trains』が会場内のBGMと流れていたのですが、本日も5月に亡くなったスティーヴ・アルビニ氏と共に、その想いが伝わってきます。
ステージを見渡すと共演するおーけすとら・ぴとれ座は先にスタンバイ済み。壇上の両サイドに6名ずつ配置し(手前に管楽器2名、弦楽器4名)、合計12名が本公演を彩ります。その中にはコンサートマスターとして各国を一緒にまわっているシカゴのトランペット奏者、チャド・マカロー氏が含まれる。
15年前はMONOの後ろにオーケストラ(この時はN響)が一列ずらっと並んでいた記憶があり、もっとクラシックのコンサートといえる雰囲気がありました。とはいえライヴを体感すれば”インストゥルメンタル・ロック”を浴びている。そう強く感じる公演でしたが。
開演時間が押すこと20分。19時50分に場内が暗転。SEが「Us, Then」に切り替わり、ステージ上にMONOの4人が登場します。のどかなホーンセクションや柔らかなストリングスに導かれるよう、SEから地続きに演奏がスタートしたのは最新作の表題曲「Oath」。そのうちにTamakiさんのベースが太く鳴り響き、繊細なギターフレーズが乗り、ドラムが息吹を吹き込む。そしてオーケストラと共にサウンドは時間をかけて壮大化していく。
続くアルバムのリード曲「Run On」はGotoさんとYODAさんの奏でる旋律を皮切りに、電子音のループとストリングスが折り重なる。音楽を携えた冒険者として、また音楽の求道者として長年活動を続けてきたMONOがこれからも勇敢に走り続ける決意が、同曲で高らかに鳴っていました。
会場内は神聖な体験をしているという雰囲気はある。それでも曲が終わるごとに拍手が起こったり、歓声が上がったりとバンドのライブであるという根底は変わっていない。そして、いつもは着座して演奏する2人のギタリストが、今宵はずっと立って演奏しているのも驚きのひとつでした(アンコールの「Ashes in the Snow」をのぞいて)。
その後も本編を締めくくる「Time Goes By」に至るまで『OATH』を曲順通りの演奏が続く。同作には哀しみや怒りの感情や闇といったものではなく、これまでにないほどの希望や感謝、そして愛が込められていると言います(BelongやLIVEAGE A.D.といったインタビューによる)。
15年前のオーケストラ公演では希望と絶望、光と闇といった二元性の表現が勝っていた覚えがあるのですが、本公演においては25年を経た今だからこそ表れてくる人を労わる温かさや包容力が強く感じられました。その上で一瞬一瞬のかけがえのなさや儚さ、生きていることへの尊さを思い直させるように音符のひとつひとつが沁みてくる。
音源とライヴは別物とはよく言われることですが、こんなにも感情的で魂の一片を注ぎ込むような演奏を体感できるバンドはそうはいません。心を直に揺さぶってくるようにそのギターは鳴っている。
特に本編終盤に演奏された「We All Shine On」には思わず涙腺がゆるみました。MONOの代名詞である静から動へのダイナミクスが堪能できる楽曲なのですが、Dahm氏の生命の胎動を思わせる力強いドラムを先導役に、壇上の16名全員が圧倒的な光と音をもたらす様は圧巻。それこそSoundsVeganのインタビューで語っていた”The Noise of Joy:歓喜のノイズ”が全身に降り注ぐかのようでした。
アンコールは2曲。いずれもバンドの方向性を決定づけた最高傑作と評される5thアルバム『Hymn to the Immortal Wind』から。まずはメンバー4名だけが登場し、代表曲「Ashes in the Snow」を披露されます。孤独も悲哀も怒りも内包した音楽、それでも人生の苦難を乗り越えて一筋の希望に向かうような轟音に圧倒される。
曲が終わると最初で最後のMC。「25周年をこうして東京で迎えられて夢のようです。最後にこの曲を親愛なるパートナー、スティーヴ・アルビニに捧げます」とGotoさんが話し、再びおーけすとら・ぴとれ座と共に最後の曲「Everlasting Light」へ。全ての人に歓喜と祝福をもたらすようなラストに胸を打たれ、公演は大きな拍手と共に幕を閉じました。
日々の巡り、季節の巡り、人生の巡り。わたしのその傍らにはMONOの音楽があった。MONOを聴き続ける人生、体感し続ける人生。今までもこれからも変わらないでしょう。本日の公演を体感してその想いを強くした次第です。本公演もグランドフィナーレではなく、まだまだ続くMONOの旅路の途中。ですが、特別な夜として語り継ぎたくなる。そんな公演だったのは間違いないです。
セットリスト
— setlist—
SE. Us, Then
01. Oath
02. Run On
03. Reflection
04. Hear the Wind Sing
05. Hourglass
06. Moonlight Drawing
07. Holy Winter
08. We All Shine On
09. Time Goes By
–Encore–
10. Ashes in the Snow(Band only)
11. Everlasting Light
※演奏時間 19:50~21:33