1995年~2016年まで活動したフォークメタル/ブラックメタル・バンド、Agalloch(アガロク)。アメリカ・オレゴン州ポートランドを拠点に活動。ブラックメタルとフォーキーなサウンドを融合させたスタイルを持ち味とした。
バンドのテーマは自然の美しさ、哀愁、先祖伝来のペイガニズムへの言及(Wikipedia参照)。解散までの約21年に及ぶ活動の中で5枚のフルアルバムを発表しました。
本記事は4thアルバム『Marrow of the Spirit』、5thアルバム『The Serpent & The Sphere』について書いています。
アルバム紹介
Marrow of the Spirit(2010)
4thアルバム。トラッド/フォークとブラックメタルの邂逅を果たしたAgallochの音楽。
雄大なる大自然を闇のヴェールで包み込んでいくような不思議さがあり、悲哀と絶望を背負いながら掻き鳴らされるメロディに胸の奥がヒリヒリと痛む。
寂寥感のこもった切ないアルペジオ、温かなアコギの調べ、ゆったりとしたリズムによる叙情的なパートは柔らかく穏やかな表情を見せます。
一方で邪悪なヴォーカルに冷徹なトレモロ、炸裂するブラストビートが精神崩壊の因子を振りまく。どちらのパートもあくまで音楽要素の一部として捉えらていて、サウンドの緩急・美醜に細心の注意を払っています。
場面場面での聴かせ方にひねりが効いていますし、ピアノやストリングス、サンプリングでの効果的な演出も巧み。枠に収まりきらないスケール感とアート感覚を持っています。
Ulverとはリンクする部分が多いかも。冷雪降り積もる闇夜の森の深奥には、緊迫した空気感と悲哀が漂っている。ほぼ10分を越える楽曲ばかりですが、全6曲65分は聴けば聴くほど深みにはまってしまいます。
The Serpent & The Sphere(2014)
5thアルバム。キャリア約20年にして、Daymare Recordingsから初の国内盤リリース。プロデュースはビリー・アンダーソンを迎えています。
Wolves In The Throne Roomに端を発した”カスカディアン・ブラックメタル”というサブジャンル。カスカディアの自然景観を崇拝したブラックメタルを指しますが、Agallochは一応その先駆け的な存在に位置し、本作でもその本領を発揮。
冒頭を飾る10分超の#1「Birth and Death of the Pillars of Creation」からして彼等らしい曲であり、暗鬱なドゥームの底から悲哀のメロディがこぼれおち、幽玄かつ壮大な世界が構築されています。
ブラックメタル流儀の小汚いヴォイスやトレモロはもちろん混合されてい¥ますが、退廃的でドラマティックな作風に昇華して行ける辺りはさすが。
アコースティックなインスト3曲(#2、#4、#8)では優美な流れを生み出し、ポスト系の流れを汲んだ12分超えのインスト#8 「Plateau of the Ages」にも挑戦。憐憫、哀切といった言葉が浮かぶほどにそのサウンドは暗く悲しい側面を持っていますが、美しい自然を想起させる力も併せ持つ。
ブラック出身であることを思い出させる哀愁と粗暴の#3「The Astral Dialogue」も周到に用意しつつ、芸術性の高さやストーリー性を作品通して表現しきることに成功。
本作から2年後にAgallochは解散しますが、ポストブラックやカスカディアン・ブラックという言葉がない時代から新しいブラックメタルの形を模索した強烈なバンドだったことを称えましょう。