2005年にアメリカ・フィラデルフィアで結成し、2012年まで活動したエモ・バンド。キャリア前半は4人組、後半はギタリストの脱退がありましたが、後任は入れずに3人組として活動しました。Cap’n Jazzに連なるエモ・サウンドとして世界中から注目を集めました。
2008年にリリースした1stアルバム『Some Kind Of Cadwallader』、2011年の2ndアルバム『Parrot Flies』と残した2作品のみでエモ・リヴァイバルの重要バンドとして評価されています。しかしながら2012年にあっさりと解散。海外誌のSTEREOGUMは彼等を”エモ・リバイバルのヒーロー”と称賛を送っています。
なんと2023年4月に7公演に及ぶ来日ツアーが決定しました。
本記事は、彼等が残したフルアルバム2枚について書いています。
アルバム紹介
Some Kind Of Cadwallader(2008)
1stアルバム。全10曲約38分収録。“全知全能なるCap’n Jazzさま”ぐらいにリスペクトが伝わる内容です。PUNKNEWS.ORGには、”90年代のキンセラの録音を期末試験のように勉強してきた“と評されるぐらい。
それが時が経て、エモ・リバイバルの名作として不動の地位を得る作品となりました。確かにヴォーカルの声質、ギターのアルペジオ、バンドアンサンブルなどはかなり近い。冒頭の#1「Casual Discussion~」からその特性は発揮されています。
カウントするようなベースから入る表題曲#2は、変則的なギターフレーズを散りばめ、声を枯らしながら叫びまくる。それでも、サビは肩を組んでシンガロンガする爽快感があります。
他者と繋がるための音楽であり、他者を巻き込んでいく音楽。そのエネルギーと情熱が燃えたぎっています。
彼等は90年代エモに多い、暗く内省的な表現はほとんどない。キャッチーな歌とメロディが伴走してくれているので朗々と明るい。そして、ボンゴ、シロフォン、メロディカ、タンバリンなどの様々な楽器を注意深く組み合わせています。
#5「Motivational Song」後半のノスタルジックで牧歌的な表現、#7「On Up」のまさにおもちゃ箱のような音など、彼等なりのユニークさを発揮。
#8「Katie’s Conscious」や#9「Serial Killer Status」は、ジェットコースターのような展開と体温計では測れない熱気によって、情熱的な瞬間が何度も訪れます。ただ、#10「In Response to Irresponsibility」だけは13分もある楽曲で、終わりを迎えたくなくてジャムっている。これを平然と並べてくるのがおもしろい。
瑞々しい感性と枯れることのない元気によって、人々を強引に前を向かせる。誰からのアクセスも受け入れる心地よさとポジティヴさが本作にあります。
Parrot Flies(2011)
約3年ぶりとなる2ndアルバム。全11曲約34分収録。Parrot = オウムという意味。キンセラタグが付けられるのと同時に自由でエモーショナルだった1stアルバム。その流れを本作はもちろん汲んでいます。
唯一の6分台に迫る尺で、繊細なメロディと絶妙なアンサンブルを軸に彼等らしさを存分に発揮した#1「Springing Leaks」を皮切りに、聴き手の感情に火を点け、昂揚感をもたらします。
Cap’n Jazzや歌入りのGhosts and Vodkaのような印象を振りまきながら、2分半~3分にまとめた楽曲群。人懐っこいメロディと青春時代に舞い戻ったかのようなテンション。
そして、前作同様に多数の楽器を動員しながら、複雑な蛇行を繰り返していて忙しない。クリーンなアルペジオやタッピングフレーズが変わらずに肝とは言え、叫びよりも歌の重要度が増しています。
また前作ほど実験的な感じはなく、インディーロック寄りに近づいている感もある。
#2「Pitfall」や#5「If It Kills Me」は縦横無尽に駆け回る中でエモさが爆発していますし、表題曲#4「Parrot Flies」の哀愁は終盤にいけばいくほど効いてきます。#10「Loos Cannons」はAmerican Football寄りに感じますしね。
それだけでなく、彼等らしいフォーマットから後半に抜け出していく#7「Uniform」、前作には感じ取れなかったしんみりとした瞬間がある#8「Sad」といった曲で、境界線なく自由にやっていることは裏付ける。
#11「Cruisin’」も最後はルーズなジャムっぽい演奏で終わっていく。前作と比べると瑞々しさやキラキラ感は薄れていますが、メロディや要所のフックのありがたさは変わらない。そして、エモーショナルで在り続けました。
本作発表後にあっさりと解散しましたが、その選択ができる強さ、精神性が彼等の作品をさらに輝かせているのかもしれません。