イングランド出身のオルタナティヴ/モダン・プログレ6人組。1990年から活動をスタート。
初期はPeacevilleレコーズに所属し、ゴシック/ドゥーム・メタルで名を馳せ、同レーベルに所属したParadise LostやMy Dying Brideと共にThe Peaceville Threeの一角をしめました。
4thアルバム以降は音楽性を徐々にシフト。モダンなプログレ・サウンドへと移行して新たなファン層を獲得。KSCOPEレーベルとの契約にまで至ります。
8thアルバム『We’re Here Because We’re Here』で自らの新サウンドを確立。2020年9月に無期限活動休止するまでに、オリジナル・アルバム計11作品を残しました。
本記事ではKSCOPEレーベルに移籍以降の5作品について書いています。
アルバム紹介
We’re Here Because We’re Here(2010)
8thアルバム。全10曲約58分収録。フルアルバムは実に7年ぶりで、モダン・プログレーベルのKSCOPEからのリリース。ミックスはスティーヴン・ウィルソンが担当しています。
ゴシック・メタルの船出からオルタナ~プログレを経由し、シガー・ロスなどのポストロック勢と結びつくことで、洗練された美しさと昇天の音色が詰め込まれている。
正式メンバーとして初参加となる女性Vo.リー・ダグラスの麗しいヴォーカル、上品で滑らかな鍵盤、ストリングスを含めたオーケストラ・アレンジが細心の手つきで施され、そのサウンドは神々しさすら漂わせています。
オープニング#1「Thin Air」はバンドが新たに確立した”光の方程式”を象徴する楽曲。静から動へのダイナミズムを発揮した上で情熱的な歌ものとしての訴求を果たしています。ゴシックメタルどこへやらの光をまとう世界。
また、ピアノの伴奏を切々と歌い上げる#3「Dreaming Light」や#4「Everything」といった楽曲には心のよどみを取り払う清冽とした音の力を感じる。全体を通しても光と優しさに満ちていて、人生を好転させる推進力があります。
そんな本作についてClassic Rock誌は”完璧で人生を肯定するカムバックであり、アルバム・オブ・ザ・イヤーの金賞候補“と評している。
Falling Deeper(2011)
総勢26名のフルオーケストラを迎えて制作したリ・アレンジ作品。全9曲約38分収録。楽曲は主にゴシック/ドゥーム・デスで名を馳せたPeacevilleレコーズ時代の曲が中心となっています。
『We’re Here Because We’re Here』で確立した光の方程式を使い、絶望感に満ち満ちた過去曲ですら今のAnathemaの浄化活動によって、清新な美しさに転用。
ベクトルはほぼ静に傾いていて大きな起伏はなく、曲によってはイージー・リスニングの領域とさえ感じます。全体通しても抑制の効いた、聴かせるアルバムとなっています。
#5「Everwake」ではThe GatheringのAnneke van GiersbergenがゲストVoを務めていますが、作品からメタル的な印象を抱く人はほぼ皆無。
#1~#3の流れは聴いてて本作で特に見事に感じたところ。細やかな感情表現や零れおちる情念をオーケストラと共に拾い上げ、丁寧に織り上げていくさまに心を動かされました。
Weather Systems(2012)
9thアルバム。全9曲約56分収録。清らかな音の調べが導く天上の世界。これまでの延長上にあるポスト・プログレッシヴを基調とした作風をさらに熟成しています。
軽やかですが勇壮なアコギに乗せ、繊細かつ力強く歌い上げる#1「Untouchable, Part 1」で物語は始まる。続編の#2「Untouchable, Part 2」ではオリエンタルな鍵盤の旋律が静かな情熱をたぎらせ、しっとりとした男女ヴォーカルが豊かな情緒を加えていきます。
そしてシガーロスの「Festival」をさらに光でコーティングした#5「Sunlight」はあまりにも晴れやかで、ポストロック的な解放と躍動感に昂揚する。
後半も鍵盤の調べをバックに歌の力を最大限にまで引き出していく#7「The Beginning and the End」、マイルドな歌と演奏が螺旋を描きながら天を伝っていく#9「Internal Landscapes」ときめ細やかな表現で聴き手に寄り添う。
徹底した美意識がもたらすAnathemaの音楽は、どこまでも儚くロマンティックで、優しくて清らか。ジャンルという壁を越えて、万人の胸に響く感動を届けてくれます。
Distant Satellites(2014)
10thアルバム。全10曲約56分収録。”ANATHEMAがこれまで取り組んできた音楽の道のりの集大成である。このアルバムには、バンドの音楽の鼓動を構成する、考え得るほぼ全ての要素が含まれています“とリリースに先立った声明を残す。
染み入る様なメロディとエモーションを最重要視したモダン・プログレは、オーケストレーションを交えながら美しい瞬間を次々と生み出していますが、3曲にも渡る組曲「The Lost Song」はその証明です。
さらにはわたしがAnathemaで一番好きな曲#4「Ariel」の素晴らしさ。ピアノ伴奏をバックに女性VoのLee Douglasが切々と歌い上げる前半、音と光が徐々に明度をあげてヴィンセントのエモーショナルな歌唱も交わってくる後半の流れが秀逸です。
作品のピークを迎える#6「Anathema」を境目に、後半の楽曲では打ち込みのリズム/音響がやたらと主張。”バンドのこれから”を明確に示す内容へと移り変わります。
#7「You’re Not Alone」ではウェットなピアノの調べがリードしていたかと思うと、ドラムンベースっぽいアプローチとヘヴィなリフで光を翻す。表題曲#9「Distant Satelites」は近年のレディオヘッドに感化されたかのよう。
異なるアプローチを入れつつ、作品を通しての求心力や優れたアレンジはさすがであり、”これまで”と”これから”が見事に表現された作品です。
The Optimist(2017)
11thアルバム。全11曲約59分収録。バンド史上初のコンセプト・アルバム。
詳しくはBARKSのインタビューにて語られますが、6thアルバム『A Fine Day to Exit』のアートワークにインスピレーションを受け、”The Optimist:楽観主義者”が真夜中のアメリカ西海岸を旅するストーリーがつづられる。
オープニングを飾る#1「32.63N 117.14W」で海岸沿いに停めた車に乗り込み、シートベルトをし、エンジンをかけ、旅路が始まっていくさまを丹念に描写しています。そんな本作で目立つのは打ち込み・電子音の役どころが大いに増えていること。
先述したインタビューには”エレクトリックな要素が特別なものでなく我々の音楽性の一部として溶け込んでいる“という言葉もありますが、滑らかな躍動感を与えるように電子音が働いている。#2「Leaving It Behind」や#5「San Francisco」にその効能は聴き取れます。
さらには#9「Close Your Eyes」のジャズ・アプローチがもたらすしっとりとした叙情感。人生の悲喜こもごもを多様なエッセンスで表現しながら、楽観主義者の旅路が進んでいく。と同時に綿密なストーリーが聴き手の想像をふくらませます。
これぞAnathemaという他ないリー・ダグラスさまのヴォーカル・ワークと軽やかに躍動するサウンドが印象的な#3「Endless Ways」は誰しもの心を包み込む。
作品としてのタッチは少し違えど、Anathemaの味が本作にも染みわたっています。
どれを聴く?
Anathema、どれを最初に聴いたらいいの?
上記で紹介している中では、8thアルバム『We’re Here Because We’re Here』をまずオススメします。
ゴシック・メタルの船出からオルタナ~プログレを経由し、シガー・ロスなどのポストロック勢と結びつくことで、洗練された美しさと昇天の音色が詰め込まれていますんで。