1993年~2002年まで主に活動したアメリカはワシントン州タコマのマスコア・バンド。同ジャンルの始祖的存在と言われ、ハードコアから新たな領域を拡張したそのサウンドは後に大きな影響を与えました。
フルアルバム2作『American Nervoso』『We Are The Romans』はいずれも高く評価されており、特に後者はマスコア屈指の名作として語り継がれています。
解散後、その血はMinus the BearとThese Arms Are Snakes、Royに受け継がれます。20年の時を経て2022年に一時的な活動再開。新曲「One Twenty Two」の発表と限定的なライブ活動を行っている
本記事はフルアルバム2作品と最終作となるEP『An Anthology of Dead Ends』について書いています。
アルバム紹介
American Nervoso(1998)
1stアルバム。全9曲約35分収録。アーロン・ターナー総帥によるHydra Headからのリリースで、プロデュースはマット・ベイルズが担当。
マスコアの始祖的存在であり、泣く子を余計に泣かせる凶悪さと不気味さを持つサウンドを掻き鳴らします。甲高い不協和音のようなギターやカミソリのごときリフが乱れ飛び、加減速自在に駆動しながら、ヒステリックに叫び散らかす。
Don Caballeroに通ずる複雑で変則的な展開、それにDISCHORD勢に並ぶ鼓膜を追い詰めるようなヒリヒリ感。ハードコアからメタルやマスロックの質感を獲得し、生々しい感情を押し殺すことなく不穏な空気感をブーストさせています。
もちろん計算されているし論理的にも感じるのですが、デザインというほど洗練されてない印象で、初期衝動の方が先にくる辺りがBotchの特徴。
緩と急と激はあってもソフトな耳ざわりになることはなく、糖分も甘いロマンも本作では雲の上に取り上げられています。
幕開けを飾る#1「Hutton’s Great Heat Engine」からラストに至るまで衝撃は止まない。彼等の音楽にリミッターなんて言葉はありません。”テンプレートなんていらない”と混沌とした世界をつくりあげています。
We Are The Romans(1999)
2ndアルバム。全9曲約45分収録。タイトルはアルバムの最後を飾る「Man the Ramparts」の歌詞からきています。マスコアの最重要作品のひとつにあげられる傑作。
同ジャンルでいえばThe Dellinger Escape Planが表番長なら、Botchは裏番長です。手加減や情けなんて言葉を世の中からなくしてしまった激音の濁流は変わらず。
#1「To Our Friends~」から複雑に入り組んだ構造を取り、まがりくねりながらも小刻みに爆発を繰り返し続けます。
ディストーションによる歪みから警告音のような高音までギターは様々に表情を変えますが、特に#3「Transitions~」は解散後に組んだThese Arms Are Snakesに繋がっていく変態性をみせ、エフェクトを多用して宇宙空間に聴き手を放り投げる。
また#4「Swimming~」における静をよりコントロール下に置いた表現も堂に入っています。それでいて突飛な表現、刻々と変化する混沌は他の追随を許さない。
それこそRefusedに通ずる鋭さや感情の爆発ぶり、そして美意識があるように感じます。様式美を焼け野原にしながらもBotchは己のスタイルをつらぬき、解散してからになりますが新たな潮流として評価を高めました。
なお本作はLOUDWIRE誌が2020年に発表した”Top 25 Best Metalcore Albums of All Time“で第5位にランクインしています。
An Anthology of Dead Ends(2002)
最終作となったEP。全6曲約21分収録。楽曲タイトルを国名から取って順にSpaim、Japam、Framce、Vietmam、Afghamistam、Micaraguaとしていますが、なぜかNが”M”に置き換えられています(タイトルに対しての明確な記述は見つけられず)。
作風はこれまでに築いたBotchの王道をいくものであり、セオリーが通用しない予測不可能な展開の中で、怒りと衝動を爆発させています。
#2「Japam」からマスコアの祖たる変則性と推進力で聴き手の感覚を総攻撃し、#3「Framce」~#4「Vietmam」と狂騒を起こしていく。焦らしと即効性を上手く使いわけながら、頭でっかちではないフィジカルな攻撃性と得体の知れない衝撃を生み出しています。
その中で約7分を数える#5「Afghamistam」が異色で本作における叙情性の部分を引き受けます。ギターによるミニマルなアプローチから後半でピアノとヴァイオリンが涼やかな風を呼び込み、男性によるセリフのサンプリングがしんみりと響く。
かと思えばラストの#6「Micaragua」は即興をそのまま収録してしまったかのような混沌ぶり。ドラムソロやエフェクトを使った不協和音、憤怒の叫びが主張し合う。
破壊と創造の果てにユニークさを追い求めることで、後世に影響を与えたBotchの偉大さ。それはラスト作の本作でも十分に感じ取れます。