オランダのMという人物による独りブラック・メタル・プロジェクト。近年のポスト・ブラックメタルの要素を汲み、美しさとノイジーな狂気をも追求したサウンドを提示して、オランダから世界に自らの存在を知らしめようとしている。
本記事は初期2作品について書いています。
The Great White Emptiness(2010)
オランダ人のMという人物によるポストブラック系プロジェクトの1stフルアルバム。Alcest以降のポスト・ブラックメタルというのが根幹にあって、本来の血筋であるブラックメタルの狂気や疾走感もわりとブレンドされています。
繊細なアルペジオや美しいシンセが絡んでくる上品なパート。その柔和な表情や心地よい浮遊感が特徴的。曲によっては優雅なピアノの調べ、淡いヴォーカル、やけに動きまくって主張するベース等のドラマ性を高める要素もチラホラ。けれど、それとせめぎ合うように鳴るノイジーなパートも強烈。ツーバスで突っ走り、陰惨なリフが轟き、神経をぶったぎる絶叫が黒々しく木霊します。意外と瞬間の切れ味は鋭くて黒い。
近いと思うのはWolves In The Throne Roomでしょうか。深遠な静と惨劇の動の組み合わせが巧く、エグさと美しさが絶妙なハーモニーを奏でている印象。けれどトチ狂ったようにノイジーにぶったぎるとはいえ、こちらの方がよりシューゲイザー/ポスト・ロックの成分は強め。空間的な拡がりや温もりさえも感じるサウンドスケープからはどこか郷愁の風景すらも蘇ってくる。黒々しさを交えながら幽玄的な美や浮遊感を演出することに成功した好作品
Deer Twillight(2011)
わりと早いスパンでリリースされた2ndアルバム。本作ではリリカルなインストをメインに聴かせ、空間を優しく彩るシンセサイザー、クリーン・パートを中心にしたヴォーカルが作品の持つ美麗な世界観を造形していく。ポスト・ブラックとしての混沌と幻想性が織りこまれた音楽性、そこに労わるような優しさが溢れだし、ポストロック/シューゲイザー要素を核に据えた大胆な変貌ぶり。その新しい魅力が見事に花開いています。
奥行きのある音像が麗しく構築されており、Alcest以降のポストブラックメタルの中では一番にグッと来たかも。それほどまでにこの美しい音色が魅力的。特に冒頭の#1における息を呑むような甘美なインストゥルメンタルは、驚くほど際立っている。徐々に湧き上がっていくようなポストロック的アプローチが恍惚を誘う#2にしても、折り重なる美轟音ギターに骨抜きにされてしまういます。
もちろん、ブラックメタル要素は少なからず存在している。#3のように美しいサウンドの裏で忌々しく反芻する絶叫や#6では前作で聴かせた邪念を持っての疾走も聴けます。ですが、その要素は”強のアクセント”という領域で抑えている印象。メランコリックな作風を全編通しても全く損なっていない。ただ、寒々しさや儚さを感じさせる辺りはブラックメタルらしい感触。それをシューゲイザー要素と結びついて、うつむき加減に拍車がかかっている。
彼はそれでも禍々しさの向こう側にある清冽とした美しさを完璧に表現した。メランコリックな美しさを甘く儚く響かせ、シューゲ・ライクな轟音ギターが幻想世界へと連れて行く。Slowdiveを思わせるゆっくりと堕ちていくような感覚、Alcestのようなノスタルジックな慈愛と優しさが夢見心地を味あわせてくれる。