2019年にオクラホマシティで結成された4人組。自らをデス・グランジなる形容もするスラッジ/ノイズロック・バンド。2枚のEPを発表後、インディーズ映画”Tenkiller”の音楽を担当。
2022年に1stフルアルバム『God’s Country』をリリース。バンド名は、オクラホマシティ北東部の片隅にある有毒な鉱業廃棄物の山に由来(チャットは、20世紀前半の鉛亜鉛採掘に伴う製粉作業で拒否された珪質岩、石灰岩、ドロマイト廃棄物の断片のことだという)。最新作は2024年10月リリースの『Cool World』。
本記事では1stアルバム『God’s Country』、2ndアルバム『Cool World』について書いています。
アルバム紹介
God’s Country (2022)
1stアルバム。全9曲約40分収録。バンド自身がミキシングとプロダクションを担当。ダークエクスペリメンタル系レーベルのThe Flenserからリリースされています。昨年にはPortrayal of Guiltとスプリット作品を発表しており、人間嫌い同盟の一角を形成。
バンド自身はFacebookの自己紹介欄で”デス・グランジ”、スラッジ、インダストリアルと謳う。実際にひどく柄の悪い音だと感じます(2024年11月時点では削除されている)。
UNSANEの血生臭ささやGODFLESHの無機質殺伐感があり、Eyehategodのようなスラッジメタルを参照。#6「Tropical Beaches, Inc」はKORN辺りのニューメタルがミックスされています。
”90年代”が破壊力の補完とユニークさをもたらしたノイズ/ジャンク・ロックという趣は強い。それに音自体は重いことこの上ない。
ですが、良い意味でのダルさやルーズさがあることで、その余白が作品における悲嘆や諦観を強めていると感じます。震源になるレイガン・ブッシュのヴォーカルは何とも形容がしがたい。
大の大人が泣き叫ぶようでもあり、部屋の片隅で現実を憂いで吠えているようでもあり。乱暴な表現ではあります。けれども、酔拳のようにつかみどころのない動きをしながら急所を突くような感じ。全体における”やさぐれ感”は彼に起因しているように思います。
POP MATTERSのインタビューによると、”神の国”のタイトルの背景にあるのは、オクラホマシティのど真ん中に位置する刑務所だという。収容者数の多さと人間以下の劣悪な環境で悪名高いと言われている。
また、オクラホマ州は投獄率が全米でトップをひた走り、貧困率も全米平均を上回っている。最近だと州議会において中絶禁止法案も可決されてしまいました。
本作では故郷で起こった事件についても扱っており、#1「Slaughterhouse」にて2014年の食品加工場での殺人事件、#7「The Mask」にて1978年に起こったステーキ店で6人が殺害された銃乱射事件が描かれている。
加えて、Chat Pileは母国の矛盾と残酷さについて問いかけを止めようとしない。#2「Why」の歌詞は”人々はなぜ外に住まなければならないのですか”とありますが、富める国においてホームレスが増える矛盾を突く。そして、#5「Anywhere」では”世界が崩壊する音”だと繰り返し歌う。
”何よりも、世界が崩壊するのを見る不安と恐怖を捕らえようとしている”と前述のインタビューにありますが、Primitive Manと同様にアメリカの残酷な現象をとらえ、疎外された者たちの苦悩を暴力的な音と叫びで訴えている。
なお、本作はPitchforkにて8.4を獲得し、BEST NEW MUSICに選ばれています。
Cool World(2024)
2ndアルバム。全10曲約42分収録。タイトルはブラッド・ピットが主演を務めた1992年公開の同名映画『クール・ワールド』より拝借(参照:Bandcamp)。The Flenserから引き続きリリースされています。
“このアルバムは反戦を訴えるもので、どの曲も戦争がどれだけ嫌いかを歌っている。人間の最大の恥だ“とCrack Magazineのインタビューで答えており、ノイズロックとスラッジメタルが悪魔合体したサウンドを懐刀にChat Pileは世界に警告しています。
冒頭の曲で、”I am Dog Now”と野蛮に叫びまくる中年男性たちが正常かと問われれば疑問符はつきますが、心身が容赦ない総攻撃にさらされていることは確かです。
10曲中8曲がベースを主導に楽曲の基盤を作り上げているようで(参照:IVISBLE ORANGESのインタビュー)、震動が伝わるほどのベースラインとグルーヴの強調はバンドの幹。ニューメタルやポストパンクに影響されたリズムもまたボルテージを高めてきます。
そこにギターが暴力的なリフから不気味なメロディ、おちょくった単音フレーズをのっけて悪意を拡散。ヴォーカルも恨み節をつぶやいたり、叫んだりしながら不機嫌で荒くれた性質を寄与しています。
本作の象徴で最も反戦的なメッセージを明確化した#2「Shame」、地獄の幕開けから奇妙なメロディを散りばめて混乱と発狂を招く#4「Funny Man」、ノイズの砲撃が一段と過激さを増す#10「No Way Out」と楽曲は相変わらず強力。
彼等の中ではキャッチーに属す部類の先行曲#8「Masc」はMVが顕著ですが、アルバムタイトルと共にB級映画のスパイスがChat Pileにとって重要であることが伺えます。ユーモアを入れる慈悲、メロディをないがしろにしない点もバンドが支持される要因。それが例え激辛料理の上にホイップクリームを乗せるようなものであってもです。
”こういうことを話さない奴らは臆病者だ。これが芸術を創る目的なんだ、分かるだろ?“とは再びCrack Magazineのインタビューにある言葉。品行方正な音楽ではなかろうとChat Pileの猛烈なノイズロックと鋭い政治的主張は本作でも明確です。