US/カナダのドゥーム・メタル2人組。カナダのデスメタル・バンド Tomb MoldのギタリストであるDerrick Vellaが全弦楽器を担当し、USボストンのデスメタル・バンド Innumerable FormsのドラマーのJustin DeToreがヴォーカルとドラムを担当。
ドゥームメタルを基軸にPeaceville Three(My Dying Bride, Anathema,Paradise Lost)やThe Cure、Cocteau Twinsからの影響を公言するサウンドは、自ら”ドリーム・ドゥーム”と称する。ちなみに彼等は結成して3年間で一度しか会ってないそうで、制作は全てリモート(Treble Magazineのインタビューによる)。
2021年に1stフルアルバム『Tide Turns Eternal』、翌22年に2ndアルバム『Song Of Salvation』を発表。本記事はその2枚のフルアルバムについて書いています。
アルバム紹介
Tide Turns Eternal(2021)
1stフルアルバム。全7曲約45分収録。ドゥーム・メタルを基本線に置き、自身の音楽を”ドリーム・ドゥーム”と謳います。そしてピースヴィル・レコードに所属していた3バンド、通称:Peaceville Three(Anathema, My Dying Bride, Paradise Lost)やThe Cure、Cocteau Twinsからの影響を公言。
厳つさを異常なまでにやわらげるクリーントーンを中心にゆっくりと進行し、デスメタル出自ゆえのけだものグロウルと残忍なリフが効果的に忍び寄る。#2「Adorned In Lies」からその証明が成されます。対立関係に置かれるものを上手く組み合わせ、美女と野獣ともいうべきスタイルが生み出すギャップの大きさが魅力のひとつ。
ゴシックやドゥームがもたらす虚無感、それにメタル的なマッチョイズムよりも、水晶を思わせる光沢感のある煌めきや程よい暖色系の心地よさが表層を覆う。デス/ドゥームというジャンルにまとめて放り込むわけにはいかない品の良いカラーリングがされている印象です。
#3「In Cipher I Weep」や#5「Dream Unending」ではのっぺりとしたペースに痺れを切らしてギアをあげる場面もありますが、それでもギターソロでは古き良きメタルやサイケの時空へと飛び立っていく。
なお#5では70歳を超える俳優兼Audiobookでナレーションを担当するRichard Poeが語りで参加。表題曲となる#7には女性SSWのMcKenna Raeがゲスト参加して救済の歌声を響かせます。
プリズムのような艶やかな光から濁った土石流まで眼前の光景は変わっていきますが、ドリーム・ドゥームという形容に違わぬ重みと叙事性は発揮され続ける。
そして、バンド名に込められた人生の肯定。デビュー作ながら存分に独自性を発揮した力作です。
Song Of Salvation(2022)
2ndアルバム。全5曲約44分収録。1年という短期間でのリリース。始まり#1と終わり#5に平均15分の大曲を置き、#2と#4が5分台、#3がインタールードのような2分台のインスト曲。はっきりと区分けされた構成が特徴といえます。
前述したように表題曲#1から14分の長編。整然と鈍重なペースを守りつつ(中盤でやや速足になりますが)、メランコリックに表現される悲哀と無慈悲な死の波動が押し寄せます。ヴォーカルはグロウルで日和るわけにはいかないと言わんばかりにドスを効かせる。
一方で深海を揺らめくかのようなクリーンな音色は、前作よりもさらにろ過された美しさを保証。幽玄なムードを維持し、曲が長くなったことに正比例して壮大さが増しています。
#2「Secret Greif」ではトランペット奏者が加わって優雅なラグジュアリー空間を提供したかと思うと、デスるという矜持は忘れない。そんな美しさへの背信行為は存在するけれども、まろやかさと有機性は格段に高まっていて、前作より如実に感じる温かさが本作を印象付けています。
#3「Murmur of Voice」はまるでex-EmeraldsのMark McGuireのようなギター・サウンドで綴られる。#4「Unrequited」では古色蒼然としたプログレ~クラウトロックにも接続。
前作に引き続きMcKenna RaeとRichard Poeが助力したラスト曲#5「Ecstatic Reign」はバンド史上最長の16分。多く寄り道する構成と持てる武器を総動員して奏でる安らぎと危機の旅路。それでも、不可侵の神聖さが保たれているのがDream Unendingの持ち味かもしれません。
より拡張されたドリーム・ドゥームがもたらす色彩とロマン。重量感による制圧よりも慎重なアプローチが生む奥ゆかしい風情が心になじみます。
そして時間をかけてゆっくりと味わう中で海底神殿のような秘境を巡る、そんな想像を膨らませる作品です。