Vo&Gtを担当する佐藤千亜妃を中心に2007年に結成された4人組バンド。ギターロック、シューゲイザー要素を交えたサウンドで人気を獲得。2015年にメジャーデビューを果たす。2019年5月に活動休止。
以下、アルバムの紹介を書いています。
アルバム紹介
渦になる(2012)
1stミニアルバム。
eureka(2013)
待望の1stフルアルバム。静かな情念が渦巻く音楽というべきでしょうか。オルタナ、ポストロックやシューゲイザーの影響下にあるサウンドをベースに、冷徹に心の内をえぐる歌が乗るのが大きな特徴。
コクトー・ツインズやスロウダイヴがより負のベクトルへと進んでいったように感じます。または、sleepy.abが道を踏み外したらこんな風に・・・と個人的に思えなくもないところ。
浮遊感をもたらすギターの音色とポエトリー・リーディングっぽいVoが頭の中で不思議と反芻する#1「夜鷹」から、独特の情緒を感じます。
聴いているとひどく虚無感を覚え、心の内側に閉じ込めた深い感情が、その無垢な声とギター・ノイズで徐々に吐き出されている。
それでも、ちょいとナンバガっぽい「国道スロープ」、鬱屈とした感情が白濁としたシューゲイズ・サウンドの中で渦巻く#5「ユーリカ」、優しい空間の中をイノセントな歌声が祈りのように響く#7「Another World」のような曲も揃えています。
なかでも#8「ミュージシャン」が、一歩間違えればすぐに破綻しそうな脆さ、緊張感と隣り合わせに激しい負の感情を浄化し、終盤で吹き荒れる轟音サウンドが甘美な夢を見せる強烈な楽曲。
甘い毒のように効く文系ロック~シューゲイズの異質な進化系と言えそうな作品です。
フェイクワールドワンダーランド(2014)
フルアルバムとしては約1年8ヶ月ぶりとなる2ndアルバム。
5000枚限定の先行シングルである#1「東京」は、ポストロック/シューゲイザーの音響を活かしながらも、深い哀愁と大切な人への想いが乗せられた佳曲でありました。故にアルバムへの期待が大きく高りましたが、本作の出来栄えは確かなものでしょう。
オルタナ~シューゲイザーの味付けは控えめになっているとはいえ、万人に親しめるようにメロディを強化。印象でいえば普遍的なインディーロックに近づいた感はありますが、Vo.佐藤さんの凛とした歌声を中心にきのこ帝国らしさはそのまま。
日常を軽やかに切り取って歌われる#2「クロノスタシス」、心地よい四つ打ちの中で鮮やかな花弁をつけていくようにギターと歌が彩る#4「You outside my window」、トクマルシューゴちっくな印象も受ける106秒にまとめられた表題曲#8「フェイクワールドワンダーランド」、切なさでいっぱいの#9 「ラストデイ」など。
いずれの曲も洗練された感覚で綴られています。角がとれて丸みを帯び、なおかつ詩情豊か。自然体で人間味を感じさせることで音楽をグッと身近にさせ、胸に優しく響く。
#10「疾走」から#11「Telepathy / Overdrive」の決意を胸に突き進んでいくようなラストの流れにも惹かれる。キャッチーに開かれた世界へと向かった本作、さらに多くのファンを獲得しそうです。
猫とアレルギー(2015)
愛のゆくえ(2016)
約1年ぶりとなる4thフルアルバム。メジャー発売となった3rdアルバム『猫とアレルギー』は、賛否両論というよりは否の意見が上回ってた印象があります。
明るくてポップ過ぎ、メジャー故の大衆迎合だとか。まあ、確かに内容からはわからなくもなく、僕もカタログの中で1番好きになれない作品でした。というか佐藤さん、パーカーからドレスアップしすぎだろと(笑)。
わかりやすいポップ化進行ですが、本作では”深行”って字を当てはめたいところですね。これまでの作品で試みてきた諸要素(R&Bのリズムアプローチであったり、シューゲイズ要素の復興であったり)がとても上手く結びついている印象。
リズムはアップテンポの曲を無くし、ゆったりとした曲だけにしぼって近作における歌ものとしての側面を強めています。
「“愛のゆくえ”をめぐる、9つの物語から成る短編集」というテーマで作品は制作。手書きの手紙によるやり取りの親密さを感じさせ、君/あなたへの想いを曲が進むに連れて直接的な表現で綴ります。
柔らかく伸びやかな佐藤さんの歌声は、影と憂いを与えつつも優しい。楽器隊は歌を引き立てるように隙間を活かしたつくり。
とはいえ、前述したように轟音のアプローチが効いている曲もあり、映画主題歌に起用された#1『愛のゆくえ』、締めくくりとなる#9「クライベイビー」の甘美な音の洪水に僕はやっぱり惹かれます(歌詞の視点が対象的なのも良い)。
そして、レゲエ/ダブの要素まで盛り込んだ#5「夏の影」もまた新鮮な響き。様々な形や想いを通した『愛』の短編集。全ての道がここに通じていたという集大成の作品であり、きのこ帝国の作品群で最も深みを感じさせる作品に仕上がっています。