【アルバム紹介】LENTO、重音リーサルウェポン

 2004年にイタリア・ローマで結成されたインストゥルメンタル・バンド。かつてはトリプルギターの5人編成だったものの、4thアルバム『Fourth』からは3人編成へと移行。スラッジメタルやポストメタルといった要素を強く押し出しており、重量感あふれるインストとアンビエントの揺らぎでもって多くの人々の平衡感覚を乱す。

 本記事はオリジナルアルバム4作品、ライヴアルバム1作品について書いています。

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アルバム紹介

Earthen (2007)

 2004年の結成から3年を経ての1stアルバム。全7曲約41分収録。特徴としてはThinking Man’ Metal的な流れにあるバンドのひとつであり、スラッジメタルとアンビエント~ドローンを培養しながら、瞑想と重量感のある音楽を追及しています。

 幕開けとなる#1「Hadrons」から鈍く重いリフを片手に持ちながら、前半は叙情的な面を見せますが、後半は黒い支配下に置かれていく。この時点でLentoらしさは表されています。

 続く#2「Need」は初期の代表曲といえるもの。トリプルギターによる地層で埋まっていく。刻むリフからドローン的なコーディネートまでを請け負いながら、築かれる漆黒の壁。これ系統を好む人にはマストな曲といえます。

 しかしながら、以降は思慮深いアンビエントに寄った曲の比重が大きくなる。#3「Subterrestrial」や#5「Emersion Of The Islands」といった曲は、ISIS(the Band)の『Oceanic Remixes』に収録されていそうな感じがあります。抑制された雰囲気の中で電子音とサイケ要素が渦巻きながら、内省を促してくる。

 荘厳さと重量感を伴った#4「Currents」は以降にこの手の曲がないからこそ、初期だから作れた曲かといえるもしれません。

 終盤はスラッジ色の強い#6「Earth」、バンド史上最長となる10分近い幽玄なアンビエントトラック#7「Leave」の2曲。地獄の末端をのぞいたかと思ったら、急に宇宙空間に放り出されて作品は締めくくられる。

 スラッジとアンビエントの相互作用をもたらすラストの流れは本作をよく表している気がしますし、心地よさよりも不穏さに意識が絡めとられていく感じはこのバンドらしい特色となっています。

Icon (2011)

 約4年ぶりとなる2ndフルアルバム。全10曲37分収録。James Plotkin (Khanate)によるマスタリング。合間には同郷のサイケデリック・ドゥーム・トリオのUFOMAMMUTとの極重極乱コラボ作品『Supernaturals Record One』を挟んでいます。

 不穏なドローン#1「Then」で煙が立ちあがったが最後、そこからは地鳴りのような音圧が衝撃を残す一枚です。前作を踏まえたうえで徹底的に遅く重くビルドアップ。

 トリプルギターによる薙ぎ倒すようなリフが繰り返され、重厚なベースラインとドラムが共謀。平衡感覚が歪むほどの重量感を持ったサウンドが、圧力を鼓膜から全身にわたるように存分にかけてきます。それほど奏でられる音色のひとつひとつはあまりにも黒くて重たい。

 #2「Hymn」を皮切りに溢れ出る音の濁流は、破滅的でありながらも荘厳な雰囲気を持ち合わせます。それはスラッジメタルの土壌に、アンビエントの安らぎやサイケデリックな味付けがもたらされていることが大きい。そして、前作よりも1曲1曲が短い。ポストロック/ポストメタル的な長いアプローチは避け、全体を37分とコンパクトに凝縮。

 作品を通した静と動、軽と重の揺れ動きがあり、讃美歌のような安らぎの中に悪霊が潜むアンビエントトラック3曲を#1、#6、#10というポイントに配置しています。

 しかしながら#3「Limb」、#7「Least」、#9「Icon」といった支配者級の重轟音は圧倒的で、他の追随を許しません。このダイナミックさと緊張感は、彼ら独自のもの。いくら効果のある研磨剤を使っても白にはならずにずっと黒。それがLentoの『Icon』です。#4「Hymen」が打ち立てる漆黒の音の壁に到達したバンドは、未だに表れていない

ダウンチューニングのギター、多彩なリフ、複雑なリズム、疲れ果てるほどの遅さによって、Lentoは巨大な音の壁を作り上げている…”

CVLT Nation

Live Recording 8​.​10​.​2011

   2011年10月にイタリア・ペルージャで行われたライヴ・レコーディング作品。スタジオ音源を遥かに凌駕するほどの重低音は、凡百のバンドが束になっても太刀打ちできそうにありません。

 本作はアンビエントな曲は封印。これまでの2枚作から容赦なく鼓膜を蹂躙するスラッジメタル曲の連発で、漆黒の壁を打ち立てます。

 凶悪なトリプルギターは重さと黒さを突き詰め、徹底して鍛えこまれたグルーヴがさらに追い打ちをかける。90秒の不穏なギターの歪みを経て、あのBotchをも突き抜ける混沌が襲いかかる#1「Icon」を皮切りに救いなど一切ない世界戦に突入します。

 地鳴りのような音圧の中で光が入る隙間すらない暗黒。空間という空間を塗りつぶしていく音の壁#3「Hymen」は、スタジオ盤よりもはるかに強力な過圧ですが、この息苦しさに不思議な快感すらある。

 その後も作品はゆるみませんし、光は欠如したまま。2分という短さながら冒頭の叫び声を始めとしてメタリックに振りまわされる「Still」、1stアルバムで最強の破壊力を誇った#6「Need」がテンポを速めて中盤を絞める。

 #8「Hadrons」では叙情的なふるまいをみせる前半から一気にドゥーム地獄が訪れ、ラスト#9「Least」の轟くヘヴィネスをもってとどめの粉砕事業を完遂します。

 アンビエントな安らぎを取り払ったために、作品としての破壊力は尋常ではないし、それを具現化してしまうバンドの力量にもまた驚かされます。リリースから10年経った2022年に聴いても、これ以上のライヴアルバムって数えるほどしかない。奈落の底を見る激震の音楽がここに

Anxiety Despair Languish (2012)

 前作から1年半ほどでリリースされた3作目。タイトルはドイツ語で”不安・苦悩・絶望”という意味。遅く・重く・黒くのLento三原則が極まった『Icon』から変化が感じ取れる作品です。全13曲約41分収録。

 収録曲数が多いわりにトータルタイムが短い。なにしろ2~4分台の曲しかない。1曲でポストメタル耐久マラソンみたいなのは相変わらずしてませんが、前作同様にアルバム通した起伏があります。何よりも1曲の中での変化が激しい。

 ブラックメタル的なトレモロが入ってきたり、明確にスピード化の波がバンドに押し寄せたり、#9「Underberry」ではささかやにセリフっぽいサンプリングが入っていたりします。

 #2「Death must be the place」における艶めかしいメロディックなフレーズに代表されるような美意識の変化もある。黒い音を重ねる中でもアンビエントによる緩和を忘れず、楽曲間の移動によって常に異なるムードが演出されています。

 特に強烈なのが#3「Questions and Answers」。序盤から以前にないスピード感を持ったスラッジメタルを展開し、その後に急激なブラックメタル化を装っていきます。4分という時間の中で激しく変遷する1曲。

 前述したようにこの曲に限らず、最もタイトかつ簡潔な時間の中で曲は次々と表情を変えていく。それこそ前作ほど黒くて重いに特化していないがゆえの柔軟性をみせつけています。

 全13曲は黒の中で細かいグラデーションを成しているようなイメージでしょうか。 不安・苦悩・絶望というタイトルのわりには、アルバム全体は重音とエネルギーを充足するように聴き手に伝わります。

 音を積み重ねることによる異常過圧は前作に譲るとしても、破壊力を損なわずに構成美を実現してバンドは新たな一歩を踏み出しました。

Fourth(2017)

 5年ぶりとなる4作目。全10曲約45分収録。ギタリスト2名が脱退していて、3人で編成で制作された。さらにリリースがDenovaliではなく、ConSouling Soundshというベルギーのレーベルから発売されています。

 前作からの連続性にあるものが本作。鉛のようなグルーヴを基盤にして巧みな緩急、重圧と粗暴による組み合わせでもって聴き手を薙ぎ倒すさまは変わらずです。

 #1「A penchant for persistency」からして容赦無し。ギターにしろベースにしろ極度に歪み、ドラムもそれに拍車をかけて三位一体で迫りくる。

 前作よりもスラッジメタル寄りの感覚はありますが、アンビエントからドゥームまでの静寂空間と過圧体験は、それこそ不思議な感覚を引き起こすものです。

 ポストメタルのゆったりとしたうねりを否定するかのような#2「Some disinterested pleasures」の忙しない変化。さらにはマシンガンのように重音を打ち込む#6「Cowardly compromise」がもたらす地獄。

 かと思えば#3「Undisplaceable, or a hostile levity」のような不穏な霧を思わせあるアンビエントトラックに彼等の美意識が通底しています。変化に富んだアプローチがここ2作におけるLentoのトレンドとして定着している。

 ラストの#9~#10はまるで組曲のようなつながりがあります。その中で彼ら特有の空間的支配を見せますが、14分半近い時間は終末の静けさと不安を焚き付けるようにして終わりいく。それこそヘヴィなサウンドを通したアート感が最も強く表れているような感覚さえあります。

 Lentoが降らせる容赦ない漆黒の豪雨で、ポストメタル/スラッジメタルの地形を少しばかりは変質したかなと。

お読みいただきありがとうございました!
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