【アルバム紹介】Morne、負を集積した音塊

 2005年に結成されたマサチューセッツ州ボストンを拠点とするバンド。Filth Of Mankind、Disrupt~Griefのメンバーらを擁し、ヘヴィでアトモスフェリックなサウンドが基調。Roadburn、Hellfest、Psycho Las Vegasなどの大型フェスティバルに参加しています。

 本記事は2ndアルバム『Asylum』、2023年発表の5thアルバム『Engraved with Pain』について書いています。

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アルバム紹介

Asylum(2011)

   2ndアルバム。基本的にはNeurosis系譜の重厚なリフワークと地響きを巻き起こす強靭なリズム、怒気をはらんだ叫びが乗る。空間が黒で塗りつぶされていくかのようなドゥーム/スラッジ。様々な負を集積することで悪夢のような音塊が心身に圧し掛かってきます。

 しかし、イカついヘヴィさと殺伐とした空気に似合わない美しいメロディを差し挟んでいて、キーボードを軸にした叙情性は他のスラッジ/ハードコア勢を寄せ付けないほどに麗しい。#3の幽玄な静パートから激しく重厚なリフが希望をかき消しては渦巻く様子には、Mouth of The Architect辺りを思い出します。ゴシック的テイストも少し感じさせ、それらを巧く利用しながら静と動のコントラストを際立たせている。

 1曲目から嫌がらせのように17分もある。その長編を見事な構成力と物語性を発揮することで、美しさと激しさが渾然一体となって神経のひとつひとつに鋭敏に迫ってくる。Agallochなどを始めとしてコアな音楽性を標榜するバンドを多数輩出しているProfound Loreが本作をリリースする意義というのが伝わります。

 特にラスト#7の存在感が頼もしい。Jarboeの参加やストリングスの導入で物悲しい楽曲を織り上げていく序盤から、闇を召喚する執拗なヘヴィ・リフの反復の中盤、そしてラストはシューゲイジング・ギターでスケール感をさらに押し広げている。

 前述したように間違いなくNeurosisに由来した音造りではあるが、このバンドもスラッジの領域を越えた多ジャンルの有機的な結合の試みに成功しています。全7曲66分の本作には、それほどの壮大なスケールとアーティスティックな感性が詰め込まれている。重要作。

メインアーティスト:Morne
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Engraved with Pain(2023)

 5thアルバム。全4曲約41分収録。ついにMetal Blade Recordsと契約してのリリースで、プロデュースのカート・バルーとともにGod Cityでレコーディング。タイトルは直訳で”刻まれた痛み”です。

 2ndぶりに聴きましたが、あの頃よりもMonreは重さと暗さで一線を超えたヘヴィミュージックを真摯に追及している。当時に聴かれたストリングスやクラスト的な惨劇はあまり用いなくなっていますが、スラッジメタルに根差した重音リフとうめく咆哮は変わらずに強烈。

 10分超の曲を3つ擁しており、絶望に対峙できない者を門前払いする威厳があります。作品自体は”人類が衰退していく現実を個人的にも集団的にも表現している”とのこと。

 表題曲#1「Engraved with Pain」からNeurosisやAmenraに迫る重みと思慮深さ。”悲惨な帝国”と名付けられたアルバムのリード曲#3「Wretched Empire」では、7分という尺ながらもメランコリックなフレーズと強力なグルーヴが暗闇の中で耐久戦を繰り広げている。

 どの曲も構造的にはシンプルな反復によって痛みの倍々化を生み出していますが、メロウさの配合比は高め。時折のキーボードは不穏な空気感を生む一役を担っています。#2「Engraved with Pain」や#4「Fire and Dust」のアウトロを飾る長尺のギターソロは耳を奪うものであり、美意識は貫かれる。

 ”ドゥーム、スラッジ、ポストメタル。そんなジャンルやタグ付けは大嫌いだ“とMorneを主導するMilosz Gassanは語りますが、単純なカテゴライズを無効化する本作は滅亡へと向かう人類への警告を打ち鳴らしている。

お読みいただきありがとうございました!
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