【作品紹介】Suffocate For Fuck Sake、痛みを見つめて希望へつなげる言葉と音

 スウェーデンのポストハードコア/ポストメタル・バンド。2004年頃に始動。途中までは音源を製作するだけのプロジェクトだったようですが、現在はMoment of CollapseオーナーやShirokuma, iosebのメンバーらを擁した7人組として活動しています。2018年からはライヴを行うようになっている。

 SFFSの特徴はスウェーデン語のインタビューやポッドキャストからのサンプリングを核に据え、それをポストハードコアやポストメタル系のサウンドに乗せていること。Cult of Luna、Breach、envy、GY!BE、Sigur Rosといったバンドに影響を受けていますが、独自のスタイルを持っている。

 ”僕たちは、ポストメタルのよりヘヴィな要素とポストロックの長くて建設的な部分、実験的でアンビエントなサウンドスケープを組み合わせるのが好きです”とはMETALORGIEインタビューより。

 本記事はこれまでに発表されているアルバム4作品、ならびに2025年1月にリリースされた1曲約20分のシングル『to rest in the trust, that creates the world』について書いています。

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作品紹介

Suffocate For Fuck Sake(2004)

 1stアルバム。全4曲約38分収録。メインストーリーにインタビュー等のサンプリングを活用し、ポストハードコア/リアル・スクリーモ、ポストメタルと呼ばれる類の音楽に乗せる。初作にしてSFFSの特徴となるスタイルが既に確立しています。

 日本でいうなら激情系といわれそうなスタイルで、ここにポストロックやアンビエントが混交する。気持ちを駆り立てるスクリーム、アンダーグラウンドなささくれた荒いディストーション、それと対比するクリーントーンやピアノの詩情。ミドルテンポを軸に音と感情が波のように満ち引きを繰り返し、平均で9分を超える尺の中で物語を引き立てます。

 自身で影響元に挙げているenvy、Godspeed You! Black Emperor、Cult of Lunaが同時演奏しているような感覚に近しい。その上で先述したインタビューのサンプルが入るのですが、ドラマや映画で例えるなら本編の間に回想シーンを挟むイメージに近いかも。本作を聴いていると、音楽とラジオドラマが混在しているようにも思えます。

 主題となるサンプルは、last.fmやThe Cast That Ends Creationの動画インタビュー(27分20秒辺り)を手掛かりにすると、HANSという年配の男性が主人公。彼が脊椎の手術を受けたことで逆に座れなくなるほど背中の痛みを抱えたこと、そして彼の半生。これらを基にしています。ちなみに4つの曲名は彼の名前、H.A.N.Sをそれぞれあてている。

 #1「Hospital H~」や#4「S(Lesra)~」はSFFSの持ち味が大いに発揮された壮大なハードコアを展開。#3「N()~」は後半に不穏なムードが滲むとはいえSigur Ros『Takk…』に通ずる清廉さを感じさせます。本作はある男性の半生を音楽と共に追うものですが、その中でいろんな感情が湧き上がってくる。

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Blazing Fires And Helicopters On The Frontpage Of The Newspaper. There’s A War Going On And I’m Marching In Heavy Boots(2008)

 2ndアルバム。全8曲約67分収録。本作はスウェーデンの詩人/作家・Linda Boström Knausgårdが同国のラジオ局と共に制作したドキュメンタリー『Jag skulle kunna vara USA:s president』の音声をサンプリングとして活用(参照:FESTIVALRYKTENが行った2014年のインタビュー)。

 ドキュメンタリーの主題は3つ。自分自身をコントロールできなくなるとはどういうことか。精神病院に入院するとはどういうことか。そして双極性障害と診断された人生について。

 こうした主題を音声サンプルが届けるのですが、SFFSの特徴としてサンプリングはそのままスウェーデン語を使用し、自分たちの歌唱は英語。また前述のインタビューにおいて、まずサンプルができてからメインに配置し、次にヴォーカル部分を作って調整するとのこと。それは物語が必ず中心にあるべきとの考えからきている(作曲プロセスについてはThe Cast That Ends Creationの動画インタビュー:21分43秒から解説している)。

 精神の波形が何度となく乱れるポストハードコア/ポストメタル。その大枠は変わっていませんが、荒削りだった前作と比べてはるかに磨きがかかっている。Linda氏の語り部分はクリーンなギターやピアノを中心に叙情的なパートを採用していることが多いですが、静と動をゆっくりと行き来しながら肉体と感情の沸点を超えていきます。

 曲自体は3分台から最長17分までと幅があり、67分にわたって痛みを伴う重い旅路が続く。4分過ぎからの爆発に熱が入る#1「Blue Lights And Sunshine」、激情ハードコアに目覚めたGY!BE的な17分の長編#4「Twentysix and making planning」は本作を象徴する曲でしょう。一方で5分過ぎにアコースティック弾き語りを始める#3「We Are~」、パーカッシヴなリズムに重点を置いた儀式的な#5「A Japanese Flag」と意表を突く部分もある。

 #6「I Keep My Eyes~」や#7「Empty」辺りはAussitot Mortらフレンチ激情ハードコアっぽさも感じます。そして11分に及ぶ鎮魂のエンディング#8「They Try To Cheer~」の果てに待つ微かな希望。本作は2008年にメキシコの小さなDIYレーベルから発売されたにも関わらず、アンダーグラウンドで妙な広がりと支持を得ていった代表作。

In My Blood(2016)

 3rdアルバム。全9曲約56分収録。沈黙から8年ぶりの復活作。本作はスウェーデンで1930年代から70年半ばまで行われていた優生思想に基づいた精神障害者への強制不妊手術を題材にしています(要件の参考資料:調査報告書 第5章 スウェーデンの断種法と断種補償)。音声サンプルは同内容をテーマにしたBosse Lindquistsによるラジオ・ドキュメンタリー『Förädlade svenskar』を使用。

 Rock Overdoseのインタビューにおいては前作に比べてチューニングを落としたこと、生々しさやアグレッシヴさを出したことを違いとして述べている。確かに#2「I am Your God」や#8「Carnage」における冒頭からの猛ラッシュは、これまでより苛烈。

 ただし、静パートは空間的な余白を与えると同時に無言の圧を感じさせるもの。叙情的な側面が前作よりも引き立っているとはいえ、切実さが勝るというか。The Chainsmokersの「Inside Out」に参加したスウェーデンの歌手・Charleeを迎えた3曲(#1、#7、#9)に安らかな光明をもたらす時間もあれど、痛みが消えることはない。

 #7「The Light」の歌詞に”光が私たちを照らすと、すべての欠点が見え始める。目を閉じることを約束してくれない?“とありますが、同曲は知的障害者と認定されて不妊手術決定の知らせを受けたことに端を発しています。スウェーデンの暗部を照らす主題は、IQ58の少女を引き合いに出して話を展開する#1「Stina」から始まり、聴き進めるごとに流した血の多さを知り、国家の闇が炙り出される。

 優勢思想の言質がサンプリングされた#2「I am Your God」、(いわゆる凡庸な悪と呼べるような)国家のメカニズムとして判定や手術が行われていたことを示唆する#5「33 Years Ago」など。言葉と音楽を積み重ねることでストーリーが説得力を増していく。『In My Blood』はスウェーデンの歴史を知るための重要作。私個人としてはSFFSの作品で本作が一番好みです。

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Fyra(2021)

 4thアルバム。全12曲約82分収録。オリジナル作品で唯一の国内盤がおなじみのTokyo Jupiter Recordsからリリースされています。タイトルのFyraはスウェーデン語で数字の”4″を意味。本作はあらゆる依存症や共依存、薬物乱用、精神疾患を紹介するポッドキャスト番組『Beroendepodden』に出演した依存症患者4人に焦点をあて、それぞれ3曲ずつから成る4つの章で構成(出演者のひとりはSFFSメンバーの幼なじみ)。

 薬物中毒に長きに渡って苦しみ、家族や周囲の環境を失っていく第1章のMikael。アルコール依存症の母親と複雑な家族の物語について語るのが第2章のMia。第3章はギャンブル中毒の悪循環に陥っていたAdam。最後が家族を失った喪失感を補うための過食症に加え、社会恐怖症の両輪が襲うMartina。

 こうした背景を持つ彼・彼女らのストーリーを最前線に立たせたうえで、SFFSの大きなコントラストを持つサウンドはさらに拡張されています。本作においての変化は各インタビューで語っている通り、エレクトロニックな質感をこれまでよりも強調したこと。Sigur Ros風のムードを湛えた#6「Hope」、ポストハードコアの攻撃性から電子音によるネオンが彩る9「To Fall Apart」など新たな化学反応として表れています。

 またゲスト参加もあり。#2「15 Missed Calls」にはVi Som Älskade Varandra Så Mycketのヴォーカリストを迎えて昂ぶりメーターが振り切れ、重たいトーンが包む#10「Here」では前作に続いてCharleeがしめやかに加担します。

 ラストの#12「Quiet」はタイトルとは裏腹にポストメタルの重苦しさに支配される中で、”奪われた人生を取り戻す 生まれ変わる“とMartinaからバトンを受け取ったようにSFFSが気持ちを込めて叫び続ける。80分を超す激動の心の旅。その締めくくりはあまりにも痛切です。

 4人の物語が連帯し、一枚岩となって魂に語りかけてくる。そしてSFFSは作品を貫くメッセージとしてこう伝えます。”あなたはひとりではない”と。

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to rest in the trust, that creates the world(2025)

 2025年初頭に突如リリースされた1曲20分を超すシングル(またはEP)。Top For Metalというサイトが出しているリリース記事を参照すると、音声サンプルはスウェーデンの詩人/小説家であるカリン・ボイエの2つの詩「Ja visst gör det ont」、「Hur kan förtröstan leva?」から。またメロディは母国の伝統的な歌「Den blomstertid nu kommer」からインスパイアされているそう。

 20分を超す長編はこれまでのSFFSのパターンが踏襲された作品です。クリーンボイスのささやくような語りや歌が入ること、音声サンプルが補助線ぐらいの使用頻度になっていることは少々の変化といえそう。

 ピアノやグロッケン、ストリングスが重なっていく静かな立ち上がりから、トレモロギターが介入していく序盤はMONOを思わせる雰囲気。そこからどっしりとしたリズムが曲に活を入れ、スクリームが激しく感情を揺り動かす。轟音オーケストラと化す9分過ぎまでが前半の山場。

 そしてひとつめの詩のサンプルが入り、ドラマティックなスタイルに拍車がかかっていく。15分辺りからは序盤に似たモチーフが引用され、18分過ぎにはピークとなる後半の山場を迎えます。猛烈な音が凪ぎ、ふたつめの詩のサンプルが終わると静かに幕を閉じていく。『Fyra』の1/4とはいえ、渾身の20分24秒となっています。

 ”全てのものはこわれる、生きている限り” これは引用された詩の一節です。季節の巡りすら自分たちが思っている周期から乱れていく。その時間の不安定さを描き、最後には何も残らないことを思い出させるのが本作のコンセプト(参照:Bandcamp)。時は儚く無常。それを今一度、噛みしめる音楽体験がここにある。

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SUFFOCATE FOR FCK SAKE – to rest in the trust, that creates the world (official)
お読みいただきありがとうございました!
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