2002年に埼玉県にて結成された3人組ロックバンド。TK(G&Vo)をメインコンポーザーに、345(Ba&Vo)、ピエール中野(Dr)が集う。2005年に自主レーベル、中野レコーズから発表した1stアルバム『#4』で多くの人々から支持を得る。
その後、着実に人気を得ていき2008年12月発売のシングル『moment A rhythm』でメジャーデビュー。10年発売の『still a Sigure virgin?』でチャート1位を記録するまでになります。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム7作とミニアルバム1作の計8作品について書いています。
アルバム紹介
#4(2005)
1stアルバム。全10曲約46分収録。冒頭を飾る#1「鮮やかな殺人」からAZAYAKAに切り裂いていきます。せわしい、騒がしい、キンキンする。
男女ツインヴォーカルがハイトーンで歌い叫び、ギターはアルペジオを中心に多彩な音色を盛り込み、リズム隊は自由な展開を保証したうえで力強い推進力を持つ。
ギターロックというには内包するものが多く、ヴィジュアル系もマスロックもシューゲイザーもミックス。特異の音楽スタイルは初期から確立されています。急加減速のコントロール、色彩と冷暖の配し方。その妙技は光り、言わずもがなの初期衝動があります。
凛として時雨は受け付ける/受け付けないをはっきりと二分するタイプとも言えますが、誰しもが聴いて感じるのは”刺さる”という感覚です。#2「テレキャスターの真実」や#7「CRAZY感情STYLE」における性急さと感情の爆発。
そして#3「Sadistic Summer」はバンドの特性が1曲に凝縮した名曲。曲名や詞にある”サディスティック”は、凛として時雨を形容する言葉としても使われます。
ライヴのラストを飾ることが多い#9「傍観」はボクの押し殺してきた想いをエモーショナルに解放。予測不可能な展開の中で美しく切り裂いていく初期の傑作。
Feeling your UFO(2006)
1stミニアルバム。全5曲約22分収録。『#4』をコンパクトに凝縮したという印象を持つけれども、TK氏の感性はより鋭く研ぎ澄まされています。
#1「想像のSecurity」のイントロ・リフを聴いただけで衝撃が全身を駆け抜ける。刺さり感が増したギターと高速のビートで引っ張り、切迫感のある歌と叫びが興奮を煽ります。
歪ませたベース・リフから始まる#2「感覚UFO」も強烈で、アルペジオの繊細さの中にもバラのような刺々しさがある。
バンド特有のクセを武器として昇華し、異形のスタイルとして確立させてしまっています。その象徴がこれら2曲かなと思うわけです。
以降の3曲もタイプが違う曲を揃え、#3「秋の気配のアルペジオ」は軽やかな進行と透明感のあるメロディと歌を重ね、#4「ラストダンスレボリューション」はフェス対応型の4つ打ちから複雑に展開。
ラストを飾るのは#5「Sergio Echigo」でかつての『#3』に収録された楽曲の再録。タイトルはなぜなのか未だにわかりませんが、6分半を超える曲であり、彼等の作品の中でも最もドラマティックな展開を持つ1曲に仕上がっています。
全体通してもバランスが良く、激と美の均衡、刹那に宿る鮮やかな切れ味は時雨らしいなと。
Inspiration is DEAD(2007)
2ndアルバム。全10曲約42分収録。ドラムのカウントから待った無しでアクセルベタ踏みの#1「nakano kill you」から二段も三段も増した激しさとスピード感。以前からそうではありましたが、なお一層”3人とは思えない”ほどの質量と過剰さが本作にはあります。
ツインペダルも用いて手数&足数で畳みかけるピ様のドラミングは顕著で、さらなる攻撃性と勢いを寄与。#1の流れのまま突入する#2「COOL J」も目まぐるしい展開に次ぐ展開で感情を迷わせ、ツインヴォーカルとギターが鼓膜に突き刺さる。
本作は特に前半のインパクトが非常に強く、音楽番組”関ジャム”にて【プロが厳選する凄いギターリフ30選】にランクインした#3「DISCO FLIGHT」、包み込む柔らかい音色を軸にしながらも刺々しさを変則的に織り交ぜた#4「knife vacation」が昂揚感を湧き上がらせる。
以降はテンションが落ちるものの、聴かせるタイプの曲が存在感を発揮。345さんだけがヴォーカルを務める轟音系ポストロック#5「am 3:45」、メロディアスなギターとしんみりとした情緒を奏でていたのが終盤にやり場のない感情をぶつけるように爆発する#9「夕景の記憶」といった曲が揃う。
結成時から積み上げてきたものと若さゆえの情熱が苛烈な音となって表れている。ヴィジュアル系に通ずる過剰の美学というのが感じられますし、最も攻撃的なアルバムです。
just A moment(2009)
メジャーからのリリースとなった3rdフルアルバム。全10曲約46分収録。08年には本作に収録されている#7「Telecastic Fake Show」と#9「moment A rhythm」という2枚のシングル曲を発表。
前者が”動”で後者が”静”という対比のプレゼンテーションになっていましたが、本作はこれまで以上に繊細な表現に踏み込んでいます。
#3「Tremolo+A」はアコースティック・ギターが主導する新機軸で、#5「a 7days Wonder」は跳ねるようなベース・リフを中心としたダンサブルなビートにアブストラクトな処理やギターソロを放り込み、初のインスト曲となる#6「a over die」も控えている。
これまでのスタイルから少しはみ出そうとする試みが聴けますし、空間を切り裂くよりも大らかに広がりを持たせるアプローチが増加したともいえます。
それらのタイプの曲が無かったのではないですが、”浸る”という感覚がもたらされる曲は多い。その最たるものが#9「moment A rhythm」ですかね。
しかしながら、オープニングを飾る#1「ハカイヨノユメ」こそ時雨劇場というべき透徹とした美の中で鮮やかな破壊を繰り返し、変則的展開の中に激しさとキャッチーさが交錯する#4「JPOP Xfile」でらしさに磨きをかけています。
前作の激しさと勢いを期待する人からすれば物足りなく感じそうですが、増えた静的なロマンにさえ冷たい鋭さは潜んでいる。
still a Sigure virgin?(2010)
まさかのオリコンチャート1位を記録した4thフルアルバム。全9曲約37分収録。作詞作曲はもちろんのことミックス、マスタリングもTK氏自身が担当してします。前作を超える実験的モードながら、作品が放つ色彩感は過去最高。
ピアノ・フレーズのループと細かな音響処理がリードする#3「シャンディ」、12弦ギターをフィーチャーした妖艶な雰囲気からプログレ・メタル化する#4「this is is this?」、ドラムレスでピ様もギターで参加する#6「eF」と意外性のある鮮やかな刺激を擁しています。
以降のソロ・プロジェクトであるTK from 凛として時雨に連なっていく要素が多分に盛り込まれてる印象は強い。
一方で#1「I Was Music」では鋭いサウンドに乗せて”いいよ おかしくなって”と狂いのススメを連呼し、#2「シークレットG」では小刻みな変動を軸に剃刀のごとき切れ味と激情をぶつけてきます。
初期から築き上げたスタイルも熟練の域で、LUNA SEAの遺伝子を受け継いでることを示す#9「illusion is mine」が脳内を豊かに膨らませて締めくくる。
まだ時雨を聴いたことがない人に向けてというタイトルにはあまりにも刺激が強い。しかしながら、さらに領域を広げてバリエーションの豊かさもある作品です。
i’mperfect(2013)
5thフルアルバム。全9曲約38分収録。当時はTK from 凛として時雨(TK氏ソロ)、geek sleep sheep(345さん参加)など各個人活動が活発化し始めた時期ですが、bounceのインタビューよるとフィードバックは別に無いとのこと。
前作の実験的なサウンドはTK氏ソロへ明確に分化し、本作は3人だけの音楽に改めて向き合っている感じを受けます。
飛び道具は用いず、時雨らしいスリルと鮮烈な発光を提供。ギターもベースもドラムも細かな流動を続けていく中で衝動を増幅させ、耽美に咲き、聴き手を置き去りにさえしていく。特に#3「Metamorphose」は凄まじい音数を密度濃く詰め込みながらもスピード感が絶えず持続。
また、TVアニメ”サイコパス”と蜜月の関係を築いたシングル曲#2「abnormalize」を収録。各種サブスク配信での再生回数が最も多い人気曲で、初出演したMステでも演奏しました。
この曲の影響か作品全体でも男女ツインヴォーカルは、ドラマティックな山場と穏やかなポップさをわかりやすく配分しているようにも感じられます。
終盤には美しい音のカーテンに包みこまれる#8「キミトオク」、かつての「傍観」にも似たインパクトでありながらより混沌としたクライマックスを持つ#9「Missing ling」が待ち受ける。
多数のエンジニアを起用しているのも特徴で#6「make up syndrome」のミックスはあのイェンス・ボグレンが担当しています。
#5(2018)
6thアルバム。全10曲約47分収録。合間にベスト盤をリリースしてますが、実に約5年ぶり。タイトルはインディーズ時代からのナンバリングでも関連性はないそうで、出そろった曲から『#5』が自然と浮かんできたという。
それでも彼等がアーカイブしてきたものと似た感触も違う感触もあり。前作ではあえて使わなかったアコースティック要素の復活、”夕景”を始めとしたキーワード、滑らかな幻想性。15年にも及ぶバンド史からの順当な進化をみせています。
ほとんどジェットコースターで構成されたテーマパークのような激しいテンションがあり、さらにマスロック化したギターフレーズとリズムの鋭さを随所で示し、本作にやたらと多いへんてこりんなギターソロを放り投げる。
#2「Chocolate Passion」の詞と音を含めたユニークさは時雨でしか成しえませんし、#9「High Energy Vacuum」はハイライトを集中描写しているかのような凝縮ぶり。
ラストを飾る#10「#5」にしても過去を連想するより奥行きある繊細な音像から、終盤にはテクニックの応酬となるギターソロ&ドラムソロがある種のお約束を破壊していく。本作で表現しているのは、時雨美学の変遷と統合とその先です。
last aurorally(2023)
7thアルバム。全9曲約43分収録。ついに結成から20年を超えましたが、その刃は鋭い切れ味をずっと保ち続けています。
神木隆之介くんばりに若手枠で押し通せる初期衝動と見た目の変わらなさ。PSYCHO-PASSとのズブズブ関係。何より小細工がない。凛として時雨らしさそのものをどストレートに投げ込んできます。
他のバンドだったら3~4曲分になるだろう密度を凝縮した忙しないテクニカルな展開を持ち、ハイトーン男女ヴォーカルがポップにも刃物にもなる仕様はこの3人でしかない専売特許。過去曲と似てる部分あれど、細かな差異と鋭さで有無を言わせないのは楽曲の持つエネルギーゆえしょうか。
前作『#5』と比較すると本作はかなりアグレッシヴ。それこそ『#5』が1st『#4』にならったものなら、本作は2nd『Inspiration is DEAD』の流れか。序盤4曲のハイテンションは通ずるものがあります。
そして流麗なディレイギターの応酬やアコースティックの柔らかさを的確に配置することで、しなやかな聴き心地へ持っていく上手さも相変わらず。
本作ではビームのような特殊音から始まり#4「laser beamer」が特にスゴい。TK氏の激情を共にする高音シャウトは感情と声帯が壊れるんじゃないかと心配しますし、345さんの高音はモスキート音にでも到達するかと思うぐらい高い。20年やっていてもここまで突き抜けれるものかと感心します。
切って裂いての時雨劇場、まだまだヒステリックは止まらないですね。