【アルバム紹介】Svalbard、痛みと覚悟の叫び

 UKブリストルの4人組ポストハードコア・バンド、Svalbard(スヴァールバル)。ハードコアやクラストをベースに、ブラックメタル、ポストロック、シューゲイザーを混合したサウンドを武器に世界を相手取る。

 またVo&Gtを務めるセリーナ・チェリーによるジェンダーギャップやミソジニー、容姿重視の風潮などに女性の視点から鋭く切り込んだメッセージ性の強い歌詞が特徴です。

 海外の音楽サイトEchoes and Dustでは「ハードコア、メタル、クラスト、ブラックメタル、ポストロックの渦巻く混合物」と評されます。また2019年5月に開催されたAfter Hours’19にて初来日。

 本記事はこれまでに発表しているフルアルバム全4作品について書いています。

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アルバム紹介

One Day All This Will End (2015)

 1stアルバム。全8曲約34分収録。アートワークはVo&Gtを務めるセリーナ・チェリーによるもの。日本だと激情系と呼ばれるだろうポストハードコアをベースに、ブラックゲイズやクラスト、ポストロック要素が結びつくのが特徴です。

 エンジン踏み込み過ぎの加速をメインにしながらも緩急と起伏を設け、打撃性と叙情性を活性化。怒りの旋風に巻き込まれていく#1「Perspective」のラッシュから目が覚めるもので、中盤に静かなセクションを挟むことで強力なラストを演出。

 ライヴの定番曲となる#2「Disparity」にしてもSvalbardの美点が詰まっています。ポストロック~シューゲイズに根差した美しいパートをうまく盛り込んでいますが、肉弾戦上等な基本姿勢は崩さない。あくまで怒りと衝動がバンドのエンジンになっています。

 共にギターを務めるセリーナとリアム・フェランがツインヴォーカルを担当していますが、男女デュエットのようなものではまるでなく、力強い叫びをお互いにぶつけあう。

 それでも苛烈なサウンドの先にあるインスト曲#8「Lily」は安らぎと希望を願う一手として、心のうちに響きます。

メインアーティスト:Svalbard
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It’s Hard to Have Hope (2018)

 2ndアルバム。全8曲約37分収録。タイトルは直訳すると”希望を持つのが難しい”ですが、前作よりもメッセージ性が強い作品になっています。アートワークは漫画のベルセルクに影響されている(MMMのインタビュー参照)。

 サウンド的にはシューゲイズの配合比率が高まり、セリーナの語りかけるような歌声も各所に組み込まれ、浮遊感と美しさによる柔のアクセントを強調。

 #4「Pro-Life?」は途中のパートでExplosions In The Skyかと思ったほどです。闇雲に突っ走るだけでは満たされない、攻撃性だけでは人々は耳を傾けないと柔の部分はフォーカスされています。

 それでも怒りというエンジンがもたらす推進力は健在で、#1「Unpaid Intern」や#3「Feminazi?!」を聴けばハードコアの猛威にさらされる。

 またアルバム全曲を彼女自身がLOUDERにて解説していますが、無給インターン、リベンジポルノ、中絶といった重い題材が並びます。

 実際に#6「How Do We Stop It?」は彼女自身がメタルフェスのモッシュピットで受けた性的暴行に対する自伝的記録。社会の変革を強固な姿勢で求めている。だからこそ彼女たちの痛烈な叫びは刺さります。

 現代に希望を持つのは難しい。けれども前作同様にラストで光が差し込む#8「lorek」にて、そんな世界にもひるまないことを示しています。

When I Die, Will I Get Better? (2020)

 3rdアルバム。全8曲約39分収録。”When I Die, Will I Get Better? = 死んだら、私は楽になりますか?”と自身と社会に問いかけながら、世と刺し違える覚悟を持ってセリーナは叫んでいます。

 本作は#1「Open Wound」で感じ取れる過剰なドラマティシズムは全曲に渡ってフル稼働しており、ポストロック/シューゲイズ要素の強化を突破口にしたさらに進化。

 また苛烈を極める演奏の中に、美麗さがどの曲でも主役となれる存在感を放っていることも特徴です。急激にslowdive化して届けられる讃美歌#8「Pearlescent」の美しい幕引きには感嘆するほど。

 ブラックゲイズとクラストの猛烈な集合体と化す#2「Click Bait」、セリーナの慈愛に満ちたクリーンヴォイスと白霧に支配された空間の中でハードコアの獣性を叩きつける#4「Listen to Someone」など激と美の友好的な調和はどの曲でも図られています。

 表現の核であるセリーナの言葉は変わらずに重く鋭い。性差別や虐待、メンタルヘルス、ルッキズム、ミソジニー。自身の痛ましい経験や思慮深い視点/考察のもとで紡がれる言葉は心からの疑念と真を世に向けています。

 そのひとりの想いと言葉のうえに様々な音楽スタイルの錬金に成功した本作は、これまでの到達点といえる作品。なお本作はMetal Hammer誌の2020年ベストアルバム第5位に選ばれています。”2020年で最も強烈で不可欠なリスニング体験の1つでした”と評されている。

The Weight Of The Mask(2023)

 4thアルバム。全9曲約44分収録。セリーナが「夢が叶った!」とまで言ったNuclear Blast Recordsと契約してのリリース。

 ”歌詞の多くは精神疾患という現実を生き抜くために全力でそれと闘い、残されたわずかな力を振り絞ることを歌っている“とKill Your Stereoのインタビューで回答。その通りにアルバムのテーマはうつ病や精神疾患であり、セリーナ個人が抱えた苦悩と闘争を深く掘り下げています。

 逆に以前まで取り上げてきた社会的な問題(フェミニズム、無給インターンなど)への言及を避けている。この理由は”近年のイギリスの政治情勢にとても疲れていて、それについて歌う気力が今はない“と答えています(参照:Kerrangのインタビュー)。

 音楽的にはハードコア、ブラックゲイズ、ポストロックの強力タッグ戦という趣は変わらず。セリーナとリアムが咆哮を被せ合い、高域のトレモロリフがアクセントとして機能し、ドラマティックな激走をみせる。まるでボクサーのようなシャープな切れ味と俊敏性を持ったうえで感情をスパークさせています。

 そこに待ったをかけるセリーナのクリーンヴォイスや清流のごときギターがつくりあげる淡く幻想的な雰囲気。MONOに影響されたという落差の大きいコントラストの描き方は本作の肝のひとつです。

 強烈なブラックゲイズから鮮やかに場面転換して神聖なラストへ向かっていく#5「Light Out」はまさにそれが表現されています。また#3「Defiance」や#7「Be My Tomb」辺りは近年のenvy感がありますし、シンセサイザーやヴァイオリンの追加も音楽的なふくらみを助け、バンドの光属性を強めている。

 それでも本作はセリーナが最も苦しい胸の内を明かした記録。#1「Faking Int」から#9「To Wilt Beneath The Weight」までの暗く深い内なる巡礼には、安易な消費を拒む誠実さと力強さがあります。そんな彼女の心の叫びが成熟したサウンドと共に、ピカチュウの自家発電よりもまばゆい閃光となっている。

 なお#2「Eternal Spirits」はSlipKnoTの元ドラマーであるジョーイ・ジョーディソンに捧げられた楽曲。”あなたの遺産は私たちの心の中に生きている“という冒頭の詞からもわかる彼への想いが猛烈な音に乗せられています(セリーナのメタル原体験はFear FactoryとSlipKnoT)。

ライブ映像

プレイリスト

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