2017年から活動するスペイン・ガリシア地方出身の4人組(2作目まではトリオ編成)。同郷のポストハードコアやネオクラスト・バンドの系譜を受け継ぎつつ幅広い要素を取り入れた音楽性、自己と政治を結びつけた歌詞が特徴。
本記事はこれまでに発表されている1作目『Anábasis』、2作目『Territorios』、3作目『Arcos, bovedas, porticos / 弓形、穹窿、柱廊』について書いています。
作品紹介
Anábasis(2018)
1作目。全7曲約33分収録。本作と次作は3人編成。Anábasisとは”内部への探検”を意味します。”私たちの周囲のものを見たときに感じることを反映した 7つのトラックで構成されています“とIDIOTEQのインタビューで語る。具体的には精神疾患、権力構造、家父長制、無給労働など。
それをスパニッシュ・クラストを拠り所にした猛烈なサウンドに乗せます。D-BEATを軸に前のめりな勢いを持たせる中で、暴風のようなギターリフが怒りを増幅させ、喉仏が絶体絶命になるほど叫び通している。
”Drei Affenの最初のアルバムが私たちに大きな影響を及ぼしました“という発言もありますが、つかの間程度にメロディックな性質を同居。ただし、ガンガンいこうぜという基本姿勢はブレず。激しいサウンドで感情をどつき回してくる。
ウィーンにできた世界初の精神病棟を曲名にした#1「Narrenturm(ナレントゥルム)」の起伏に富んだスタイルから始まり、”私たちは打撃で人間関係を築くことに慣れている“と強烈に叫ぶ#2「Mythos」、最後は2017年のデモ音源から復刻された#7「Am-ar」は無給労働を断罪する。
そういった中で#4「Vertixe」が一番の激しさと勇壮さを備える中で、身近な人への友愛と共生をテーマに持つ。”毎日私たちに愛を与え、それを返してくれている人々に感謝し、間違いなくお互いを気遣うことは、私たちが人生でできる最も政治的なことのひとつです“とは先述のIDIOTEQのインタビューにおける自身の曲解説。
そして、そこがTENUEの音楽の核となるメッセージ。速い音楽を聴いたり、政治的なファンジンを読むのが趣味というバンドの下地はこのデビュー作で披露されています。
Territorios(2021)
2作目。全1曲約29分収録。COVID-19が全世界に猛威を振るった2020年夏にレコーディング。ワントラックアルバムのスパニッシュ・クラストというと、1曲約40分のICTUS『Imperivm』が思い浮かびます。まあサウンドエンジニアがIván Ferro(Khmer/Ictus)だったりするのですが。
TENUEは2作目にして挑戦を果たしていますが、CHAINBREAKER RECORDSインタビューを読むと”私たちは同じ必死のラインをたどり、同じパートを繰り返さないようにした。要するに自分たちが望んでいたことができたのです。30分の曲?なぜそうしたのかはわかりません。自分たちにそれができると証明するためだと思います“と説明。
1曲約30分になったのは偶発的ではあるものの、確実に言えるのは前作を凌ぐ作品であること。ネオクラストを基点にブラックゲイズ、ポストロック、エモ、マスコア等と友好関係を結ぶ多機能性。それを長編形式の中で勢いの持続、そして感情的なインパクトになるよう用いています。
30分は複数の楽章で構成されているようですが(5~6分で移り変わっているように思える)、基本的に音の切れ目はなし。常に流動して緊張をゆるめません。クリーンパートや減速を挟んでの柔らかな調節を施しつつ、ギアチェンジしたときの最大風速/最大熱量の体感をさらに高めている。ハードコアやネオクラストは刹那瞬間芸的な要素が強いと思いますが、長編においてこうも上手くアウトプットされていることに驚きます。
作品は後半になると激しさを一層増していく。18分過ぎからの勇壮なネオクラストの猪突猛進、さらには24分辺りのブラックゲイズと流麗なメロディが高め合いながらのクライマックス。センチメンタルな雰囲気に流され過ぎず、作品に宿る青天井な衝動は貫かれています。
そんな中でも、のどに地獄を見てもらうぐらいに悲痛な叫びを繰り返しているのは変わらず。詞は人が生きていく上で政治を切り離せないと意識させるものですが、”私”ではなく”私たち”と書いているのは特徴的。より良い日常を送るための友愛と連帯の訴えがここに表れています。
このアルバムは、私たちの存在を本当に住みやすい場所にするためにバリケードを築き、物理的・感情的な溝を共有し続けたいと願う、すべての友人たちへの贈り物です。 私たちは激しく愛情を武装しています
『Territorios』リリースコメントより(Bandcamp参照)
Arcos, bovedas, porticos / 弓形、穹窿、柱廊(2024)
3作目。全5曲約36分収録。”人生に対する怒りと愛の爆発”をネオクラストの拡張性でもって表現するTENUE。1曲約30分の2作目『Territorios』の経験から、本作はさらに豊かな音色と説得力を増しています。
1曲平均7分を数える尺。その中で鋭いギターリフやD-BEATを中心としたクラストやハードコアの特攻を軸とし、そこにインディーロックやエモ、ポストメタル、ボサノバといった要素をスポット的に活用しています。またブラスセクションを導入していることも大きなトピックのひとつ。心拍数をぶちあげる激しさをアルバム全体に含んでいるものの、型から時折はみ出すことで進化と真価を見せつけています。
序曲にして作品の素晴らしさをプレゼンする9分間の先行曲#1「Inquietude」から、連帯を呼びかける凱歌としてこれ以上ない仕上がり。十八番である鉄砲玉のようなクラストを見舞う中で、本作で重要な位置を占めるトランペットが伸びやかな響きをもたらし、インディ/アンビエント・パートが雰囲気を和らげます。そして終盤に訪れるコーラスワークには心の内から熱いものがこみ上げる。
1曲目を聴き終えた時点でこのアルバムはスゴくないか!?という衝動に駆られますが、以降も真夏にストーブをつけるような情熱が迸る。#2「Letargo」では序盤のマスコアちっくな激闘を繰り広げた後に初期DIIVに通ずる涼やかさにシフト。それは懐にするっと入り込めるメロディ、歓喜を分かち合う歌がTENUEの手中にあることを証明しています。
途中に三連で畳みかける激しい様相からボサノバっぽいのどこな憩いへと切り替わる#3「Distracción」、トランペットとトレモロの導入からポストメタルの重層が主権を握る#4「Enfoque」も強力。違うチャネルをなじませる手腕もさることながら、特徴的なのは全曲にスリリングな突撃のフェーズを介入させていること。それが様々な要素をブレンドした上でバンドの芯となる部分(パンク/クラスト)をさらに輝かせているように感じます。
まくし立てるように聴こえる語感(おそらくガリシア語)をハードコアの叫びを通してより熱く。そこで歌われているのは探求してきた自己、政治、世界情勢といったもの(3LAさんリリースの国内盤が対訳付き)。
”肉が引き裂かれる虚無の時代の渦(#1)“、”現代は炎のよう そこにも飢餓は存在する(#3)“と悲観はこぼれますが、聴衆に共闘を訴え、鼓舞する音楽であることにTENUEは情熱を燃やし続けています。2024年の”絶対に聴き逃してほしくない作品”のひとつ。
このアルバムは宣戦布告である。怒りと喜び、愛と回想、怒りと粘り強さを擁護する宣言。幻滅と暴力に満ちた日々の中で、私たちの精神を強く保つための呼びかけ。世界が苦しむ慢性的な痛みに対する行動の提案。最高の望みを打ち砕くこの歴史的敗北に終止符を打つための、たゆまぬ同盟の模索。
TENUE Facebookページの8/1投稿より。