2000年に結成されたインストゥルメンタル/ポストロック・バンド。山嵜廣和、美濃隆章、山根敏史、柏倉隆史という不動の4人で今日まで至ります。
日本のポストロック・バンドとして国内外で高い評価を得ており、フジロックフェスィテバルを始めとした国内フェスへの出演、さらには欧米ツアーやフェス出演も精力的。海外ではTopshelf Recordsと契約しています。
以下、これまでに発表されているフルアルバム全4作品とEP3作品の計7作品について書いています
アルバム紹介
songs,ideas we forgot(2003)
2003年に発表した5曲入り1stEP。歌なしのインストゥルメンタルの5曲、だがその音楽には大きな期待を抱かせます。
艶やかで煌きのあるギターの音色は美しく、白いキャンパスに世界を描いていくかのごとし。手数の多いドラムはしっかりとリズムを取りながらも楽曲に輪郭を縁取っていくようです。
繊細ながらもダイナミックに躍動するサウンドは、これ以降の作品と比べると少しささくれた印象が目立つ。かなり自然体でラフさを感じる点も魅力のひとつといえるかもしれない。
何より当初からtoeの目指している音楽の形が、しっかりと見える作品に仕上がっています。
バンドの生命力とメッセージ性の強さを感じさせる#1「leave word」、繊細でリリックな響きを持つ哀愁の#2「i dance alone」。かなりアヴァンギャルドでラフな#3「1,2,3,4」はハンドクラップも取り入れたビートのよい曲。体が自然に反応してしまう。
#4「Path」は、toeのライブでは欠かせない重要曲。後の1stアルバムに通ずるような#5「yoru ha akeru」。どれもが個人的にお気に入り。本作を経て、より研ぎ澄まされた感覚を持つ1stアルバムを完成させることとなる。
the book about my idle plot on a vague anxiety(2005)
ポストロックを語る上では欠かせない名盤1stアルバム。クソ長いタイトルは、略すと“漠然とした不安の上にある私の下らない企みに関する本”という意。
確かに本作はトータルで全11曲約40分程なのに、何百ページもある濃密な本のような深みを感じます。とはいえ、そんな細かいことにこだわらずにこの音に身を任せているだけで心地よい。
鮮やかで煌びやかなメロディを奏でるツインギター、数奇を凝らし楽曲に様々な表情をつけていく手数の多い技巧派のドラム、それらの音を優しく繋ぐ柔らかなベース。
インストながらも、各楽器が有機的に結びついて歌心のあるサウンドを奏でているのが大きな特徴でしょう。
ここには90年代エモを思わせる哀愁や風情あるメロディが盛り込まれ、スリリングに畳み掛けることで興奮を誘う。序盤を飾る#2「孤独の発明」で心を掴まれると、あとは雄弁なインストに溺れるだけです。
静謐で雄大な世界観を感じさせる彼等のサウンドは、4人だけで演奏しているという感じがせず、自然という壮大なバックオーケストラと共に奏でる壮大な音のように思えます。ドラマティックかつダイナミックなインストの決定盤。
1冊の小説のように深く、1枚の絵画のような芸術性を持ち合わせている超衝撃的な作品。それは2020年代に入っても全く色褪せない輝きを放っている。
new sentimentality e.p. (2006)
約15ヶ月ぶりの音源となる2006年リリースの4曲入りEP。クラムボンのミト氏をプロデューサーに招いたことで従来のバンドサウンドに様々なプラスアルファが成され、新境地を開拓する作品となっています。
美しく艶やかなサウンドと熟成した深みを感じさせるtoeの世界観。その上にアコースティックギターが切なくも美しく響き、キラキラとしたエレクトロニカは煌びやかな彩りを与えて、エキゾチックで芳醇な香りを放つものへと深化。
#1「繋がる遥か彼方」から繊細なタッチで美しい旋律を奏で、優雅に聴き手の心をくすぐる。
特に初の唄ものとなった#4「グッドバイ」は感動の漣が寄せては繰り返し、胸をキュっと締め付ける名曲中の名曲で必聴。ミニマルな展開から壮大なラストが待つ#3「New Sentimentality」も素晴らしいものです。
4曲のみの収録とはいえ、本作は前作同様に多岐にわたる感情を刺激してくれる。こつこつと創り上げられたドラマティックな音のパノラマに酔いしれることのできる逸品といえるでしょう。
「グッドバイ」は2ndフルアルバムにもヴォーカルを変えて収録されますが、それだけ長いバンドの歴史の中で重要な位置を担っています。ライヴで演奏されるといつも歓声が凄いですし。
For Long Tomorrow (2009)
約4年ぶりとなる2ndフルアルバム。前作『Book~』がそれはそれは傑作で、ハードコアを通過したポストロックの教科書ともいえるほどの完成度でした。
各楽器が歌うように明確なフレーズを奏で、聴き手の心を揺さぶってきましたが、本作はその延長線上には決してない作品です。
各楽器が火花を散らして交わる、そういったヒリヒリとするような熱情は控えめで、エレクトロニカやアンビエントといった比重が増加。
バンドのマッシヴなグルーヴ感に酔いしれる#4のような曲もあるのだが、EP『New Sentimentality』からさらにバンドの既存の枠外で音を探求しています。
これまでの音像にただ電子音を加えましたという感じではなく、ジャンルを越境するような一歩踏み込んだ段階での融合。それによって感情表現、音の風景は確実に深みや広がりを増しています。
テクニカルなバンド演奏による厚みのあるアンサンブルが基盤でありながら、電子音・ピアノ・ストリングス・サックスに歌までを操りながら、キメ細かく自由にデザインされた音響空間を紡ぐ。まるでトータスを思わせるような実験性。
組曲である#7~#8「モスキートンはもう聞こえない」を用意し、サックスをフィーチャした#12「Our Next Movement」も今までと違った刺激を与えてくれます。
特に本作での目玉は、#9「ラストナイト」と#10「グッドバイ」。前者は深遠で美しいインストとキーボードが華やいだ空間を紡ぎあげている楽曲。後者は前EPにも収録された名曲中の名曲。土岐麻子さんをゲストヴォーカルとして再録しています。
他にも原田郁子(クラムボン)や干川弦といったゲストヴォーカルを招いたことも軽やかな聴き心地を実現。全体を通して鮮やかな風景を浮かび上がらせる構築性もおもしろい。
本作における多彩な表現からは、toeの音風景に確実に新風が吹きこんでいます。
The Future Is Now(2012)
3rd EP。
HEAR YOU(2015)
約5年半ぶりとなる2015年リリースの3rdフルアルバム。Chara、木村カエラ、5lack、U-zhaanなどのゲスト・ミュージシャンが参加。
toe伝統の味も楽しめる、それとは裏腹に実験性や冒険心のある新しい味も用意している作品となる。全体通して聴くとさらーっと流れていくように感じさせ、聴き手を引っかけるフックがあまり無いように思えます。
ジャジー~ヒップホップ~スパニッシュ色での塗装強化。小難しいことをやっているのにシンプルへの落とし込み。そして、徹底されたミニマリズム。
意図的に聴き手をひっかける部分を排除しているようにも感じるところですが、歳相応の落ち着きのある作品を狙って作ったのかもしれません。
かつてのような派手な展開は2ndと同様にほぼ削られ、とにかくミニマルで徹底して抑制されたというか。それでも、地続きになっている#1「Premonition」~#2「A Desert Human」や#5「My Little Wish」辺りは、以前のtoeを髣髴とさせるエモーションとメロディが発露。伝統の味。
特に#5からは、初期の名曲「path」のような興奮・熱狂がもたらされそうだ。やっぱりtoeといえば、ギターやドラムが”歌う”ように感じる点が最重要なことを再認識します。
目玉となっていそうなCharaや木村カエラが参加した曲は、はっきりとした歌ものではなく、声を楽器として使っている感触のほうが強い。あくまで作品の色合いの中で彼女達を使っていると捉えるべきか。
とはいえ、エレガンスな音響に木村カエラの歌声が効果的に配される#9「オトトタイミングキミト」は涼やかで心地よい。
余白を楽しませるような余裕と隙間のある音響構築で、静かな秋の夜長に染み染みと聴くべき作品といえるかもしれない。様々なジャンルへと踏み込むことで、届く範囲は確実に広がった作品だと思う。
Our Latest Number(2018)
4th EP。インスト2曲と歌もの2曲。『HERE YOU』から続くリズムの探求とミニマルな質感。
円熟の域に入ったことであまり力みがない、それでいて聴けばわかるtoe節はさらに豊かなものへ。タイトル通りにハーモニクスを生かした#1「Dual Harmonics」が心地よくゆらめき、懐を温める。
目玉となる#2「レイテストナンバー」。山嵜氏の囁くような歌、控えめに寄せては返すギターの音色が静かに聴き手の感傷を誘います。これまでにあった歌ものよりもノスタルジックに響く。
”エモい”という感触は残っているけど、初期の”エモい”とはまた別の感触。一番toeのイメージに近い#3「etude of solitude」がしなやかでいて力強さを残します。
ラストに置いた歌もの#4「f_a_r_」が最もメランコリックな曲。ムードなピアノ・バラードのよう立ち上がりから、ファルセットとアコギが添えられ、電子音が軽やかにまぶされて曲自体に色味を獲得していく様が見事。ミニアルバムの尺とはいえ、さすがにtoeといえる内容に仕上がっています。
初回盤のCDだとボーナストラックを1曲収録。コトリンゴさんをゲスト・ヴォーカルに迎えてのブラック・サバス「War Pigs」のカバー。10分超えてます(笑)。演奏は原曲にわりと忠実でちゃんとWar Pigsしてますが、彼等なりの解釈も加えられていてアウトロが長い。コトリンゴさんの声質もあるけれど、自然と涼やかな聴き心地になっています。
独演会(2021)
ライヴアルバム。ベスト的な選曲による必聴盤。
NOW I SEE THE LIGHT(2024)
4thアルバム。全10曲約44分収録。フルアルバムとしては約9年ぶり。タイトルはボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ「Get Up, Stand Up」の歌詞の一部から。
”結局俺らは別に全てにおいてオリジナルな音楽をやってるわけではなくて、自分が考えた「いい音楽」、自分が考えた「かっこいい組み合わせ」みたいなものを、自分のバンドでやってみたらどうなるのかな?みたいな感覚でずっとやってて、サンプリングの感覚に近いのかも(Rolling Stone Japanインタビューより)”
そう発言してますが、USインディーやR&Bにヒップホップ勢から影響されてもtoeというフィルターを通した先にあるのは、結局はtoeでしかないという着地点。#1「風と記憶」や#7「キアロスクーロ」における繊細さとダイナミクスの妙は、まさしくtoeのロールモデルと呼ぶにふさわしいものです。
涼やかなギターフレーズ、変則的かつ小気味よいリズムを標準装備した上で本作は湿っぽい山嵜さんの歌を4曲と増量。それに”俺の考えたフラメンコギター”でラテンな雰囲気に近づけた#3「TODO Y NADA」、ファニーな電子音とストリングスが溶け合う#6「CLOSE TO YOU」辺りは新たな雰囲気をもたらしています。
さらには児玉奈央さんが#5「WHO KNOWS?」にゲストヴォーカルで参加し、徳澤青弦氏が3曲でストリングス・アレンジを担当しています。そういった色味を追加していても抑制が効いており、作品を発表するごとに哀愁が滴るような滋味深さがマシマシ。#2「LONELINESS WILL SHINE」におけるのどかなサウンドと繊細な歌は、心の内を慎重にくすぐってくる。
初期のような忙しなさや焦燥感は薄いですが、水の静かな動きを表現する仕事人としての気質、50代を迎えたメンバーが放つ寂しげな哀感が作品に通底しています。何よりも他に表現しようのないtoeっぽさの尊さに胸が打たれる。ラストを飾る表題曲#10「NOW I SEE THE LIGHT」のもの悲しさと余韻よ。
どれを聴く?
toeに興味を持ったけど、どれから聴けばいいか教えて
最初に聴くなら、1stアルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』をオススメします。
2005年発売から20年近い月日が経ちますが、未だに色褪せないポストロックの名盤。エモーショナルで歌心に溢れたインストが堪能できますよ。