アルバム紹介
The Dark(2010)
Flying Saucer Attackと並ぶUKブリストル・シーンの裏街道、影の首謀者とも呼ばれるThird Eye Foundationの実に約10年ぶりとなる5thアルバム。近年はこちらの電子音楽ではなく、Matt Elliottのソロ名義での活動の方が盛んでした。
過去作は全て未聴ですが、これには聴いていて鳥肌が立ちました。感情を掻っ攫う負の濁流、黒に黒を塗り重ねていくかのような崩壊の暗黒神話にしかるべき深淵へと導かれる。
神経を不穏に駆り立てるドラムンベース/インダストリアル・ビートを軸にアブストラクトに揺らめく幻想的なうわもの、靄のかかったドローン・ノイズ、荘厳に鳴らされるヴァイオリンやチェロ、クラシカルな趣と宗教的な雰囲気を加味する聖歌が精微に絡み、ループし、5曲43分の絶対的世界が生まれていきます。
ディープな空気感と毒気を伴う本作は、万物の根源にある負を片っ端から拾い集めて創りあげたかのよう。ダブっぽいリズムを用いたり、妖しげにシンセが煌めいたり、背筋を凍らすようにうっすらと広がるサンプリング・ボイス等、多彩なアイデアを交えながら料理することで世界観はより強い中毒性とインパクトを有している。
本能を直接刺激し続ける音、音、音。それが延々と鳴り響き、神経や細胞を犯していく。ダンス・ミュージックとしての快感をしっかりと抽出しているものの、作品にて通底しているダークな緊迫感は相当なもの。そして絶望の集積によってできあがっただろう深い闇は呪術的なおぞましさがあります。
希望を見出そうとする場面も少なからずありますが、奈落はいつでも口を空けて待っています。他の追随を許さぬ独創性もさることながら、緻密なアレンジによって洗練された美しさを感じさせるのがまた凄い。自分はこのジャンルには詳しくないですが、そんな人間さえも有無を言わさずに圧倒する力を本作は示しています。
ジャンルは違えど、Neurosisが表現する涅槃の景色が描かれているように感じたし、ポーティスヘッドが10年経て創り上げた『Third』にもニュアンスは違えどイメージは重なる。間違いなく2010年で欠かせない傑作。