オランダのブラックメタル系バンドのLaster、Terzij de Horde、Nusquamaなどのメンバーを含む5人組。ブラックゲイズとポストパンクを融合させたようなサウンドを志向し、2024年7月に1stアルバム『Boezem』をProphecy Productionsからリリースしました。
本記事は1stアルバム『Boezem』について書いています。
作品紹介
Boezem(2024)
1stアルバム。全9曲約45分収録。Prophecy Productionsからのリリースとなるデビュー作です。SOURCE webzineのインタビュー“轟音のブラック・メタルと温かみのあるポスト・パンク、ドリーミーなシューゲイザーが融合したような感じだ“という発言通りの音楽性に違いはありません。
#1「Onbemind」からブラックゲイズ特有のトレモロとブラストビートによって爆発力のあるオープニングを飾る。一方で#2「Zusterton」や#4「Omheind」ではポストパンクの陰鬱さとドライブ感が加速。ただ、どちらかといえばブラックゲイズ側がスパイスに回り、全体的にはポストパンク~ダークウェイヴ的な要素が強めです。
またコクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスからの影響を公言(参照:Bandcamp)しており、ミステリアスで官能的な雰囲気は通ずるものがある。暗さの中に温かみと神秘性が宿っているように感じる場面もありますし。
特異点となっているのはFamke Canrinusによるヴォーカル。彼女の母語であるオランダ語とフリジア語(参照:wikipedia)でつづられた歌詞は、リリースインフォによると”条件付きの愛と無条件の愛、その違い、親密さの解放、そして母性というテーマで展開される“とのこと。それをゴスの領域にも迫るなまめかしさと力強さを備えて歌い上げる。
ブラックメタルの神器である金切り声は一切使っておらず、悲劇的なムードや残忍性からは遠く離れているのも特徴です。だからこそProphecy Productionsがリリースしているのかもしれませんが。
魔性のドゥームゲイズで翻弄する#3「Us」、終始繰り返されるフレーズと男性ヴォーカルが温かくも暗い雰囲気を醸し出す#5「Kuier」、初期Jesuを思わせるポストメタルとインダストリアルの波状が鼓膜に押し寄せる#6「Ⅱ」と多様な側面を見せていますしね。
ラストを飾る#9「Naakt」では2nd~3rdアルバムぐらいのAlcestの雰囲気も漂います。危険なゾーンにまで侵入はしないブラックゲイズだからこその聴きやすさ。加えてユニークなジャンル混合とダークで没入感のある雰囲気。ハマる人はハマるかと思う作品です。