
UKはケント州カンタベリーを拠点に置く6人組(かつては5人組)。主要メンバーが学生だった2001年に結成。バンド名は古ノルド語を使ったもので、英訳/日本語訳だと”Enjoy Eternal Bliss(永遠の至福を楽しめといった意)”です。
ヴァイオリンの専任メンバーを含む多楽器の使用、静と動のダイナミクス、10分以上の長尺を特徴とした音楽性を特徴に持つ。轟音系ポストロックとインディーロック、クラシカルな要素が組み合わさったと海外誌では例えられている。2006年に発表した1stアルバム『Enjoy Eternal Bliss』は世界的に称賛され、日本でも国内盤が発売。2007年には初来日公演を行いました。ちなみにインタビューではポストロックを目指したわけではないと否定していたりする。
10年経過後の2016年に2ndアルバム『Under Summer』をリリース。同年6月には2度目となる来日公演を敢行。2018年には1曲収録のEP『A Sun-Coloured Shaker』を発表しています。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム2作品、EP1作品について書いています。
作品紹介
Enjoy Eternal Bliss(2006)

1stアルバム。全4曲約65分収録。前述した通りにこのデビュー作は、セルフタイトルといえるものです。国内盤が今は亡きXTAL RECORDSからリリース。同レーベル招聘のもとで2007年に来日公演が行われました(OVUMなどが共演)。The Silent BalletやDrowned In Soundのインタビューを参照すると、本作はメンバーが17~18歳ごろに作曲されたとのことで、その事実にまず驚きます。
スタイルとしては前述のインタビューにて”大音量のパートやインディーフォークの要素を持つ映画的で壮大なインスト“と自身で述べている。静から動へのビルドアップを含むインストのゆっくりと長い旅路は、Godspeed You! Black Emperorを近く思えるもの。中心的な役割を担うヴァイオリンの専任メンバーが在籍していることもそう感じる要因でしょうか。しかし、GY!BE的な絶望から希望の一片を見つけるよりも、Yndi Haldaは音楽を使って水彩の風景画を抽出しているように感じます。
実際にAcid Rainのインタビューによると、”このレコードは丘の頂上にある農場の納屋で録音された。レコーディング中、巨大な両開き扉を開けると果てしなく広がる緑の丘陵と、遠くで輝く海という、言葉に尽くせないほど壮麗な景色が広がっていた。僕らはただ、その風景にふさわしいサウンドトラックを作りたかった“と話している。
轟音系ポストロックの慣習に倣ったクレッシェンド構造を持つ約17分の#1「Dash and Blast」から本作はスタートします。ヴァイオリンを軸に繊細な音色を響かせながら、徐々に肥大化し6分辺りで一度目の爆発。再びクリーンな音色をストーリーの案内役を担い、終盤では歓喜のコーラスと楽器陣のアンサンブルの美しさが際立っていく。作品は基本的にインストですが、全体の2%ぐらいは声の領域が含まれているのもポイントです。
Exploisons In The Sky風の行進曲風ドラムからグロッケンシュピールが絡み、ラストに甲高いストリングスが泣き叫ぶ#2「We Flood Empty Lakes」が続く。そして、バンジョーとヴァイオリンがもたらす穏やかさと懐かしさが印象的な#3「A Song for Starlit Beaches」は19分半を超える大曲が待ち構える。そう、本作には10分以下の曲がないのです。ラストを飾る#4「Illuminate My Heart, My Darling」の最終盤には、聴覚を脅かすほどの轟音と対峙することになる。
音量の大きさで解決する部分はあるにせよ、あくまで豊かに波打つ一面。Yndi Haldaは、音と風景のゆっくりとした移ろいを嗜むものです。なお自身ではこの作品を”永遠の至福というよりは、牧歌的な至福と呼ぶべきものだろう“と表現しています。また2020年にKerrang!が発表した『16 Of The Greatest Post-Rock Albums』のひとつに選ばれている。
Under Summer(2016)

2ndアルバム。全4曲約58分収録。前作から約10年ぶりのリリース。本作もまた国内盤が発売されており、MOORWORKSから発売。同年6月には再来日公演を行っています。
10年間もの長いスパンについてAcid Rainのインタビューによると、実社会に出たことで仕事とプライベートの折り合いをつける難しさ、メンバーが離れて住んでいるので全員で集まることが難しいため、アルバム制作の時間がかかってしまったと述べています。
06~16年までの10年間は、ガラケーからスマホが世界の主流になるぐらい大きな変化がありました。しかしながらYndi Haldaは、前作で提示した己の特徴をほぼ堅持しています。多種楽器の使用、クレッシェンド構造、10分以上の長尺(本作も10分以下の曲はありません)。
その中で大きな変化と言えるのは、ちゃんと歌うパートを増やしたことです(それでもあくまでスポット的な使い方)。#1「Together Those Leaves」が始まって30秒ほどが経ったときにしんみりとした歌声が聴こえてくるので驚きますが、郷愁を誘うギターとストリングスの音色に相乗する形で心を揺さぶってくる。
前作時のDrowned In Soundのインタビューにおいて、Arcade FireやThe Nationalといったインディー勢をポストロックのバンドよりも聴いてるとの発言が、本作でより発揮される結果になっています。#2「Golden Threads from the Sun」はバンドの進化を鮮明にさせ、歌ものとしての魅力とEITSを思わせる二度にわたる炸裂が同居。特に4分過ぎからヴォーカルのハーモニーに始まり、ヴァイオリンとトレモロギターで6分過ぎに頂点へ達するさまは圧巻です(通常のバンドだったらここで1曲終わりそうですが)。
それでも本作最長の18分を数える#3「Herena」は完全インスト。控えめなボリューム調整する中で、室内楽の品評会かと思わされる厳かなタッチで構成される。前作で述べた”音の移ろいを嗜む”というのを実感する曲に仕上がっています。
最終曲#4「This Very Flight」は最小から最大までの音量を介する中、7~10分辺りまでの歌と演奏が一丸となって昂揚感をもたらす展開の後、残りの4分ほどでピアノとギターがしっとりとした余韻を残していく。時間をかけて味わう音楽。その矜持を全うしながら、Yndi Haldaは本作にて新しい領域に踏み出しています。
A Sun-Coloured Shaker(2018)

約12分の1曲入りシングル。本作より6人編成。Acid Rainのインタビューによると『Under Summer』と同時期に制作していたが、アルバムの収録には間に合わなかったため、単独でリリースしたとのこと。”数年隔てているが、合わせてひとつの作品であり、『Under Summer』は朝から夜までの1日の流れを描き、『A Sun~』はその後の夜を描いている“と説明しています。
10分以下の曲をつくると○ぬ病なのか、本曲も前述したように約12分あります。一聴してわかるようにヴォーカルへの依存度をさらに高めており、優しくささやいてる歌声が楽器の旋律にふわっと乗せられている。演奏も全体的に控えめでそっと置いていくような印象であり、音量でマウントを取ることは皆無。
少しだけリッチになったスロウコアみたいな趣があり、しめやかな雰囲気と表現するのが一番近い気がします。歌詞にもある”川のように純粋に流れ”を体現しているといいますか。ギターとストリングスの残響による静かな幕引きもまた滋味深い。
なお本作は学生時代からずっとファンであったというPrefuse 73によるリミックスが発表されています。煌びやかな演出と心地よいビートが映える仕上がりです。
