「ストックホルムの労働者階級で育った僕のような人間は、聴きたい音楽をすべて買う余裕はなかった。そんな時、98年から99年頃、音楽をすべて手に入れる方法を考えたんだ。合法的な手段で手に入れることができ、かつアーティストにも収入をもたらす方法をね」
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P385より引用
今や世界を席巻する音楽ストリーミングサービス・Spotifyの創業者にしてCEOを務めるダニエル・エク氏の想いがその言葉にこもります。
音楽を所有からアクセスへ。2020年に発刊された本書をようやく読み、Spotifyの歴史を知ることができたので今回は紹介いたします。ちなみにわたしはSpotifyプレミアム(有料会員)に入って5年ほど経っている。
H&MやIKEAやCult of Lunaだけじゃない、あのアップルを打ち破るほどのスウェーデン企業の足跡がここに。
書籍紹介
スベン・カールソン & ヨーナス・レイヨンフーフブッド著
池上明子 訳
定価:1980円(本体1800円+税10%)
発行年月:2020年06月
判型/造本:46並
ページ数:424
ISBN:9784478108758
本書は、スウェーデンのひとりの若者が、誰も想像しなかった世界最大の音楽ストリーミングサービスを構築した感動のノンフィクションである。確固たる信念、類まれな意志、壮大な夢を持つひとりの人間が、世界最大のIT企業に挑んだ波乱万丈のストーリーである。
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P8より引用
驚きなのがダニエル・エク氏への直接インタビューがないこと。Spotifyと関わった人間を含めた協力者総勢70人による証言、多数の記事や年次報告書、内部資料などを基に製作されています。
時期としては2005年から発刊された2019年まで。全20章にわたり、合計で424ページあります。
感動のノンフィクションとありますが、人情ものではないですね。自伝でもないし、素顔は別に明かされていない。イチ企業を淡々と冷静に追った報告書のように感じます。
・Spotifyの創業から世界的な巨大IT企業への成長
・音楽ストリーミングサービスの確立
・あらゆる方面からの反発
本書については上記3つが肝だと感じたので順番に紹介していきます。
Spotifyの創業から世界的な巨大IT企業への成長
Spotirfyは2006年の創業時から優秀なエンジニアを集め、次々とサービスを実現していきます。
・0.2秒以内に音楽を再生させる
・ユーザーが聴きたい曲を1回でヒットさせる
・サブスクリプションモデルの導入
・モバイルアプリのリリース
今となっては当たり前のことが当たり前じゃなかった時代に作り上げ、わずか10数年でSpotifyはユーザーが億を超える企業へとのしあがります。
”働け、働け、がむしゃらに働け(P197)”を社員に課し、スローガンとなった”いつでも音楽を“を理念に、世界を変えようと突き進んでいった同社の歴史。
音楽×テクノロジーの企業とはいえ、融資・買収・支払いなどのビジネス話が多い。いかにして企業を大きくしていくか。本書を読んだことで改めてSpotifyは“現代のIT企業”だということを強く認識させられます。
また最高傑作となった新プレイリスト機能【Discover Weekly(ディスカバー・ウィークリー)】についても第16章でふれられており、逆に大失敗した幻の動画ストリーミング”Spotify TV”も第12章で初めて明かされている。
僕たちは、みなさんを深遠で広大なスポティファイの世界に誘います。
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P296より引用
ちなみにSpotifyの由来は、驚くことに”聞きまちがい“から。会社名について悩んでいたある日、アパートの反対側の部屋からダニエル氏が何か叫んだのを共同創業者のひとり、マーティン・ローレンヅォン氏が「スポティファイ」と聞きまちがえたことに由来しているそう(P35)。
あとづけで【何かを見つける「スポット」、特定する「アイデンティファイ」を組み合わせた造語】だと説明しています(P35)。
音楽ストリーミングサービスが確立するまで
Spotifyから見ると、違法コピーサイトは敵ではなく、ライバルと考えていた。ダニエル・エクは違法コピーサイトより軽く動く、もっとよい商品を作りたかった。そのためには、音楽をすべて保存できて、かつ無料で使用できる必要があるし、レコード会社と音楽出版社には広告費を支払わなければならない。
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P86より引用
ダニエル・エク氏が何をモットーにしていたかは、上記からうかがえます。曲が再生されるたびにアーティストや権利関係者に支払いが発生する仕組みは特に意識していた節がある(P280より)
インターネットの普及以来、CDからデジタル、サブスクへと移っていった音楽の聴き方・ビジネスモデルの変遷。それを本書で追うことができる。98年のCD全盛期時代から音楽を聴いている自分には、復習と新たな発見がありましたね。
1999年に始まって2年で姿を消したものの、インターネットで初めて音楽ファイルを共有したサービスのナップスター。アルバムではなく楽曲の個別単位でデジタル販売を可能にしたiTunes Music Storeが2003年に誕生。さらには同じスウェーデンの企業・SoundCloudの登場。
そういった先人とライバル企業の動向を追いつつ、Spotifyがストリーミングサービスをいかに確立して、(赤字垂れ流しとはいえ)グローバル企業へと成長していったかの過程が描かれています。
スティーヴ・ジョブス氏が「サブスクリプションは誤った方法だと思っている(P81)」と当時に語っていたものの、Spotifyが覆してしまったわけです。
あらゆる方面からの反発
「僕たちは世界中の音楽をすべて提供します。無料で(P100)」と創業してすぐに言っちゃってるもんだからか、けしからんと過剰に反応され、目の敵にされまくっている。
競合であるアップル社のたび重なる妨害、レコード会社と息が詰まるような契約交渉、そしてボブ・ディランやテイラー・スウィフトといった大物アーティストの乱(Spotifyからの作品引き上げ)。
アナリストチームは、テイラー・スウィフト脱退の影響を緻密に分析した。その結果、そのポップスターの人気は高いものの、数百人が去る程度のものだった。
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P282より引用
反発ばっかやんけと読んでて思いますが、実際の結果が上記なのは驚いた点です。
本書を読んでも知れないこと
本書自体が、商業べースなビジネス本ゆえに以下を知りたい方は注意。
- Spotifyの使い方や有料会員の登録方法
- アーティスト側の取り分(1再生いくらになるのかといったこと)
- 再生回数の増やし方やプレイリストに入るといったSpotifyでヒットさせる方法
❷について知りたい方が多いと思うのですが、単純な話ではないようです。
P158~P160にてSpotifyがレコード会社に対していくら払っているかの記載はあります。
ですが、個々のアーティストがストリーミングされた曲ごとにいくら稼いでいるのか、それを説明する簡単な方法はない(P160)とあるように契約は複雑な模様。むしろレコード会社とアーティストの契約によるらしいので。
この件に関してSpotifyは、アーティストへの支払いやロイヤリティについて解説する情報サイト、Loud & Clearを2021年より公開。ストリーミング・サービスについての透明性あるデータを公開していく姿勢をみせています。
❸については、ダーモット・ケネディやラウヴといった無名のアーティストたちがプレイリストに引っかかって音楽を生計を立てられた(P379)と実例を示しています。しかし、公式のプレイリストに掲載される仕組みはもちろんわからない。
NETFLIXでドラマ化されています
合法的なストリーミングプラットフォームで音楽業界に革命を起こすべく動き出したスウェーデンのIT起業家と、そのパートナーたちの軌跡を描いたフィクションドラマ。
Netflixドラマ『ザ・プレイリスト』紹介ページより引用。
さらなるトピックとして、本書の帯に記載されている通りにNetflixが2022年10月にドラマ化。スウェーデンのスタートアップ企業が世界最大の音楽ストリーミング・サービスを生み出したことについて全6話で迫る。
特徴とされているのは各話ごとに主人公が入れ替わること。ダニエル・エクCEO、音楽業界の社長、弁護士、プログラマー、共同設立者のマーティン・ローレンヅォン氏、ミュージシャン。実話とフィクションを交え、計6名それぞれの視点で描かれています。
わたしはNetflixに現在は入っていないために観られていませんが、Netflix会員で気になる方はチェックしてみてください。
終わりに
原書が発刊されたのが2019年ということで、現在のSpotifyの状況を紹介しておきたい。Spotifyの企業情報をオフィシャルでチェックすると以下のようになっている(執筆時2023年8月27日時点の公開データ)。
数字で見るSpotify | |
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有料会員数(2023年7月26日現在) | 2億2,000万人 |
月間アクティブユーザー数(2023年7月26日現在) | 5億5,100万人 |
著作権者に支払われた収益額(サービス開始以来) | 210億ユーロ以上 |
Spotifyを利用できる国と地域 | 180以上の国と地域 |
楽曲数 | 1億曲以上 |
ポッドキャスト番組数 | 500万以上 |
オーディオブック数 | 35万以上 |
プレイリスト数 | 40億以上 |
まさに世界を代表する巨大企業。ただ本書の最終章では”音楽アプリで利益を上げられておらず、常に融資が必要な状態だ”と書かれています。実際に直近も赤字拡大と発表している。
それでも、ヨーロッパ発の企業としてあまりにも大きくなったSpotify。その要因について、ダニエル・エク氏が2つ語っているので最後に紹介しておきます。
- まだ他のだれもしていない無料サービスに懸けたこと。
- スウェーデンで起業して、僕たちのモデルをヨーロッパでまず展開して、その後段階を踏んで海外組織を成長させていったこと。
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P7より引用
スポティファイは音楽業界を破壊していると言う人がいる。しかし、僕たちが本当にしていることは、音楽業界の革命の一端を担っていることだと思う
『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』P379より引用