Tokyo Jupiter Recordsより2枚のフルアルバムをリリースし、コアなハードコア・ファンを唸らせてきたカナダ・モントリオールの4人組バンド、Milankuが待望の来日である。昨年にリリースした2ndアルバム『Pris À La Gorge』は、激情ハードコア~ポストメタルの系譜に連なる轟音と美しいメロディが鬩ぎ合う傑作に仕上がり、海外ではMoment Of CollapseやReplenishより発売されるまでの評価を得た。そして、アルバムのリリース後は、カナダのTV番組・フェスに出演するなど着実にファン層を拡大している。そんなバンドが、ここ日本にやってくるというのは快挙といっていいだろう。全公演には、これから日本のインストゥルメンタル界に新しく名を刻んでいきそうなArchaique Smileがサポート。10日ほどかけて日本各地で全8公演が予定されている。
Tokyo Jupiterとしては、前年のThe Black Heart Rebellionのツアーに続いて2年連続の海外バンド招聘となった。そこで、代表のキミさんに話を伺ったところ、激情系~ポストメタル系でも決してトップクラスとは言えない若手~中堅クラスのバンドを日本に呼んで、シーンへの波及を試みたいとのこと。また、MilankuとArchaique Smileの双方の希望があって、いい形で引きあわせてツアーをしたいということで、今回の来日共闘ツアーが実現に至ったようです。
10月4日にツアーが幕開けして2日目となる大阪編は、心斎橋FANJが舞台である。写真に記載されている通りにスタジオ、そして150人も入れば一杯になるような規模のステージなのだが、本日はフロア・ライヴであった。そこに企画主催のnon but airを始め、主役であるMilanku、Archaique Smile、そしてboneville occident、kuramitsuha、erieが顔を揃える。関西圏は、大阪・京都と2公演が組まれているが、none but airの子に話を聞いてみたら、この日はどちらかといえばわりとポストロック寄りのメンツが集めたとのこと(翌日」の京都がハードコア寄り)。
トップバッターには、関西圏はもとより全国にも少しずつその名が浸透しつつあるboneville occident。毎度、強力なラインナップが集うイベント「MINUS」の主催でもある。メイン・コンポーザーの浮田を中心とした壮重な轟音オーケストラは、悲壮感を湛えた劇的な展開を持って聴き手の鼓膜も心も捩じ伏せ、衝撃を刻む。
今宵は、ツインギター、ベース、ドラムの4人編成であったが、積み上げられたアンプから放たれるサウンドは圧巻の一言。ゆったりと刻まれる重音リフから溜めに溜め、全開放した時の音圧が半端ではない。その上で儚さ、優しさ、強さとただヘヴィなだけでは無い多彩な感情表現が、彼等の音楽から感じ取れる。さらにアコギやストリングス等も非常に効果的に使われており、そのコンビネーションが冴え渡って非常にドラマティックに仕上がっていた2曲目の「correia」が激しい昂揚と感動を呼ぶ大曲であった。セット自体は、先日にbandcampで配信されたこのライヴ音源とほぼ同じであったのだが、初っ端からフロアは大きく揺らす衝撃の内容。GY!BEからwegからSUNN O)))までを駆け廻る音楽性は、無限の可能性を秘めているように思う。予想以上に素晴らしいライヴであった。
なお、本日のライヴを持って今のセットは一区切りとなるそう。また、1stアルバムを鋭意制作中なので期待して待っていてくださいとのこと。そう遠くない将来に、彼等から衝撃的な作品が届けられそうである。
「ポストロック、クソくらえー」と始まる前に叫んだ割に、わりとオーソドックスなインスト・ポストロックだったのが2番手のkuramitsuha。男性ギタリスト2名、女性ベーシスト、そして、先ほどのbonevilleから引き続いて叩くドラムの4人構成である。Mogwaiのような王道系からマスロックっぽい構成を持ちこんだりと、若手らしく様々な趣向を凝らしたサウンドで今日の強力なメンツと立ち向かった。インパクトが大きかったのは、やはり静から動へと大きなダイナミズムを伴って変遷していく楽曲だったろうか。あれ、「Mogwai Fear Satan」じゃねえ?と感じる様な2曲目は心地よかったし、他にもインスト好きの心をくすぐるような部分がある。そして、最後は大らかな轟音の海へと連れていく。上手ギタリストの子が変な方向にスイッチが入ってるみたいで、転げまわったり、アンプの上に立ってギターを掲げてアピールしたりしていて大丈夫かなと思ったりもしたが(汗)、良いバンドだったと思います。
そして、3番手に早くも今日の企画主催のnone but air。メンバー全員がまだ大学生だという若手ながら、大阪・京都のハードコア界隈では名が通っているらしい。確かに去年に発売されたkeep it together/MEAT CUBE LABELからの共同リリースとなる、日本のハードコア・バンド5組を収録したスプリット作品は、僕としては彼等が一番印象深かった。本日は最新音源である「回想」から幕を開けたが、美しいメロディを所々で纏いながらも、蒼い焦燥感を滲ませた熱いハードコアを全力でぶつけてくる。叫び、掻き鳴らし、立ち向かう。エネルギッシュな勢いと若者らしい激情を少しも零れることなく音に乗せ、フロアを一気に過熱させていく。その一方で叙情的なインスト・パートも自然なまでに楽曲に組み込まれている。故にenvy等が思い浮かぶ壮大なスケール感も備えているが、荒削りな部分や初期衝動の方がより前に出ている印象は強い。ライヴの中盤ぐらいでのドラムの子が懸命に叫ぶ姿に思わず胸打たれたし、「囲まれながら演奏しているので、半分の夢がかなった」というヴォーカルの子の言葉も人々の胸に残ったはず。時間の都合上、20分強のライヴだったけど残したインパクトは大きい。あと、ライヴ後に何人かのメンバーとお話しさせていただいたけど、良い青年たちでしたよ。
4番手は東京のバンド、erieである。昨年には『erie』『トロイメライ』という2枚のミニアルバムをリリースし、”RADWIMPS meets envy”なる形容もされた5人組。当サイトでいえば、jukiのサポート・ドラムをしている子がいるといった方が通じるか(今、やってるかはわからないが)。しかし、どうしてこうもキャッチーで優しい音色と激しい音が混じり合うのか。感傷的なメロディ、耳馴染みの良い歌メロと確かにRADWINPSのようなJ-POP/ROCKの親しみやすさがどの曲にもある。それは本日の出演バンドの中でも一番といえるほどのもの。だが、静かに燃え上がる情熱は、そこから一気に振り切れてエモ~激情系の衝動的な音へと振り切れ、歌も叫びへと変わる。ハードコアとしての芯の強さとエネルギーは強烈で、この表現のギャップが凄く印象的であった。それでもラストの曲では、楽器陣全員が「ラーララーララー」というコーラスで優しい雰囲気と一体感を創り上げ、ライヴを締めくくってみせた。
5番手に、Milankuとのツアーにサポートしている都内のインストゥルメンタル・ロックバンドのArchaique Smile。2010年に結成されたこの4人組は、それこそMONOやExplosions In The Skyといった世界で羽ばたくインストの雄たちの音楽に近しい。繊細なツイン・ギターが絶妙なコンビネーションで絡み合い、土台をリズム隊が力強く支えながら、美しい静寂から胸掻き毟る様な動へとダイナミックに展開していく。わかりやすく静寂から轟音へ。そして、哀しみから歓喜へ。1曲目の「Melting Mind」は、前述のようなまさに王道のインスト・ナンバーとなるのだが、シンプルな表現の上に情感豊かなストーリーを持っている。そして、心血を注ぎながら奏でられる轟音が、清らかな光となって聴き手を至福で満たす。「勉強したり、仕事したりしながら音楽を続ける理由って、”情熱”しかないと思います。それだけで自分達を支えているし、結局、音楽ってそこが全てなんだと思います。」という言葉を残していたが、その証明となる情熱と真摯のインストゥルメンタルを鳴らしていたと思う。2曲で20分も無いぐらいの時間であったが、これからの飛躍を強く予感させるステージであった。
ラストにお待ちかねのMilankuである。これまでにリリースした作品からもその実力に疑いの余地は無かったが、1曲目の「L’inclination」から美旋律と轟音を携え、周りを取り囲むオーディエンス達を熱狂させる。うねるようなタイトなリズムが力強い支えとなり、折り重なるメランコリックなフレーズが胸を打ち、激情の咆哮が炸裂。ポストメタルにも比肩するヘヴィサウンドを立ちあげながらも、音の芯には美しさと哀愁がこもっている。続く1stアルバムからの「Sournoisement」ではダウナーな旋律の反復から、終盤での悲壮感を運ぶトレモロが印象的。この冒頭の2曲だけで、彼等の凄さを実感するのに十分であった。
「カンパーイ!」なんて冗談も飛ばした後には、早くも彼等の中でも屈指の名曲である「La Chute」を披露。冒頭のアルペジオだけでもグッとくるものがあるのだが、涙腺を直撃する物悲しいギター・フレーズや魂のこもった咆哮に心が鷲掴みにされる。轟音ポストロックと激情系ハードコアの完璧なる融合が、この楽曲で堪能できるのだが、ライヴだとさらなるダイナミズムが加わってとても衝撃的。力強さを増していくドラムに連れられ、その叫びに一層のエモーションが迸るクライマックスに熱くならないものはいないだろう。この後には、新曲を演奏するというサプライズもあり。
「シンセツニ アリガトウ」という言葉を残し、本編ラストを飾ったのは「Hypomanie」。モントリオールの厳しい冬を思わせるギターのリフレインから、情熱的な轟音が会場を包み込んだ。しかし、まだまだ物足りない(といっても前日は35分セットだったそうだが)。速攻のワン・モアコールにお応えしてくれて、アンコールでは「La Nausee」を演奏。2ndアルバム、またTokyo Jupiterコンピにも収録されたこの漆黒のインスト・ナンバーは、グルーヴの強度を増しながら濁流となって襲いかかる。まさに衝撃のラストでMilankuの日本2公演目は締めくくられたのだった。
–setlist–
L’inclination / Sournoisement / La Chute / New Song / Hypomanie
Encore. La Nausee
かくして総勢6組で4時間半を超える熱演が幕を閉じた。「日本のバンドは凄くクオリティが高い。自分たちの国(カナダ)では毎バンドがこんなに良いことはないよ!」という言葉をMilankuが残したそうだが、これからを担うだろう関西若手バンドの力量に非常に驚かされた。また、関東からのArchaique Smileやerieもまた然り。僕自身も今日出たバンドは全て初見であったが(音源をチェックしているバンドはある)、この大阪公演を狙って来た甲斐がある。それでも、やっぱりMilankuのライヴ・パフォーマンスが抜きんでていたのは流石に実力派。すぐ目の前で彼等のライヴを目にも心にも焼き付ける事ができて、大切な思い出になった。またいつか、Milankuが日本に来られますように。