【作品紹介】Astronoid、光速とポップのドリーム・スラッシュ

 2012年にマサチューセッツで結成されたメタル系バンド3人組(初期は5人で4人になり、3人へ)。メインコンポーザーであるBrett Boland(Vo,Gt)を中心に生み出されるサウンドは、ポストブラックメタルを出自に光の方向へと向かう。

 1stアルバム『Air』はバンドと所属レーベルが結託して”Dream Thrash”と謳い、実際に各海外メディアでも称賛を集めました。その後も作品をリリースし続け、GhostやPeriphery、Animals As Leadersなどのサポートアクトを務めています

 本記事ではこれまでにリリースされた4枚のフルアルバムについて書いています。

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作品紹介

Air(2016)

 1stフルアルバム。全9曲約50分収録。結成にあたってはAlcestの影響が大きいとのことで、トレモロやブラストビートを用いた様式はポストブラックに則ったものといえます。実際にここに甲高い金切り声が聴こえてくればというところですが、過去のEPではそれが少しだけ聴けるも本作のヴォーカルはポストブラックにあらず。

 クリーン・ヴォイス~ウィスパーボイスで構成していて、シューゲイザー要素と交じり合いながら音像に融解。優美で重層的なサウンドに仕上げています。

 4AD勢がいろいろとこじらせて演奏にブラックメタル要素を取り入れた感じがある。間違いなく闇属性ではなく光属性。教会を焼き払うような残虐性は皆無です。#2「Up And Them」や#7「Air」といった秀曲が揃いで、作品全体の緩急も良し。

 MEWからの影響も強いそうで(ヴォーカルは近い)、幻惑的なムードと美しいハーモニーが聴き心地の良さを増幅しています。所属レーベルは彼等のサウンドを”Dream Thrash”と謳う(現在はBandcamp等で”Etherial progressive rock”を使用)。実際にまろやかさと疾走感で満たしてくれる作品です。

 夢見心地のシューゲイズと暗鬱なブラックメタルをミックスさせる方向性が定まり、猛烈な暴風と天上の優雅さが同時に存在する驚きを与えてくれます。

Astronoid(2019)

 2ndアルバム。全9曲約47分収録。「本作は私たちが人間であること、私たちを飲み込む音楽、そして私たちの生活の中の愛を証明するものです。」とメインコンポーザーのBrett Bolandは語る。前作の延長上にある作品で、相変わらず属性は光。演奏はメタルなのに心地よい風通しと柔らかな日差しを感じるのは、インスト・マスロックのChonにも近い感覚があります(彼らほどトロピカルな感じではないけれど)。

 トレモロとブラストビートによる下支えに天上の柔らかい歌声が乗る。ポストブラックメタルからの羽化だった前作から比べると、穏やかなタッチを加味。ブラックのブラックらしい部分はほとんどなし。ギターソロやツインリードなどのメタル的な煽りはあるものの、そのエッジを内包するように丸みを帯びたアプローチと霧のような音に包まれる心地よさがあります。

 過度な攻撃性やマッチョイズムを求めることなく、ポストロック~シューゲイズ要素が緩衝材としていい作用を及ぼしています。そのうえで目まぐるしい展開が1曲の中に盛り込まれる。

 #1「A New Color」は前作で聴かせたスタイルに穏やかな光を加え、#2「I Dream in Lines」は複雑な上下動と緩急の中で聴き手を昂揚させてくれます。

 本作では少し異色の#3「Lost」ではミドルテンポを中心に哀切のメロディラインで魅了し、#8「Beyond the Scope」ではシンセのレイヤーを乗せる。ただ私的にちょっとMisery Signals臭を感じ、特に#5「Breathe」のリフの刻みや独特の叙情性からはひそかに影響を受けているんじゃないかと思えてきたりもする。

 一般的には厳つくてうるさいという障壁のあるメタル音楽をここまで柔らかく聴かせるのは彼等の妙技。コアとなる部分を突き詰めつつ、影よりも光で世界を満たそうとする。その姿勢があるからこその爽やかさと陶酔感がとても良い。

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Radiant Bloom(2022)

 3rdアルバム。全9曲約46分収録。Cult of LunaのMagnus Lindbergによるマスタリング。本作についてBrett Bolandは、「これまでで最もパーソナルなアルバム。『Radiant Bloom』は、人間であることのあり方や、それに伴うあらゆる試練や苦難について書かれている。日常の体験に伴う感情の洪水と、自分の周りでうごめく人生の渦に対処しようとすることについての作品だ」と説明します(ソースはこちら)。

 #1「Admin」からデジタルなタッチの追加による宇宙遊泳のごときイントロ。そこからMew+最新作のDeafheavenにシューゲイザーのシロップをかけまくって煌びやかなシンセを加える。#2「Eyes」においては柔らかな歌声を近年のテックメタル勢に影響を受けたようなサウンドに乗せています(そもそも本作のリリース元がPeripheryの3DOT Recordings)。特にここまでやるかってぐらい弾きまくりのギターソロは昂揚感を掻き立てるもので、ギターソロを飛ばすなと警告を送りたくなるほど。

 前作よりも煌びやかさや温かさが増している印象があります。ブラストビートは減りましたが、依然としてメタルがサウンドの核なのに、聴き心地としての柔らかさがこれまでの作品で一番。それこそがソングライティングの巧みさですが、リズム隊が激しさを保ちつつシューゲイズの甘美な音に包まれる#5「I’ve Forgotten~」や歌ものとしての個性を強く出した#7「Drown」など聴きどころは多い。感覚的には、シューゲイズ+テックメタルのブレンドといった方が音は近いかもしれません。

 ポストメタル寄りの重厚さも加えた#3「Sleep Whisper」、シンセが可憐なトーンを加える中で現代社会と人について歌う#8「Human」も完備。歌詞のテーマは暗いものが多いですが、サウンド面ではジャケット通りの色とりどりの様を彼等は表現しきっています。

 Astronoidは艶やかな光と旋風をもたらしており、本作の歌詞に出てくる”私たちは、光の中でビートを追う“というのは彼等のスタイルを象徴しているように感じました。

Stargod(2025)

 4thアルバム。全10曲約42分収録。1st EP『Stargazer』から12年をかけて『Stargod』にたどり着きました。本作についてNEW NOISE MAGAZINEのインタビューを参照すると”これまでは楽曲完成後にシンセを追加していた今回はVan Halenの『5150』に夢中になっていたことが連鎖反応となり、『Stargod』につながった。シンセサイザーを楽曲制作の段階で取り入れたんだ80年代の音楽にもどんどんハマり、Depeche ModeやPet Shop Boys、Genesis、Ultravoxを聴くようになった“と述べています。

 言葉通りに全体を通し、レギュラー起用したシンセサイザーがこれまでのムードを変えるぐらいに大きな貢献を果たしている。#1「Embark」が自分たちのルーツを守るようにブラストビートで勢いよく始まる一方、ネオンの懐かしき煌びやかさに彩られます。#2「Love Weapon」や#4「Third Shot」にも80年代やシンセポップといった要素が併走。メタル的なエッジや疾走感を保ってはいるのですが、爽やかな聴きやすさが担保されています。

 むしろメロハーと言った方が近いのかもしれませんし、#6「Dream Protocol ’88」はメロスピやゲームミュージックっぽさもある。高音を中心としたヴォーカルは今回の音楽スタイルの方が合っているように思ってしまいますね。ラウドミュージックの持つ激しさやむさ苦しい感じがあまりせず、明るくスタイリッシュにまとめているのは単純に凄いと感じるところ。

 Astronoidは単語で表すと”光速”が一番しっくりくるのですが、本作はミドルテンポの曲が半分ほどを占め、曲は短めに設定。そしてシンプルになった印象を受けます。表題曲#3「Stargod」を聴いていると甘いラジオヒット的なコーティングに驚きしかないものの、同じタイプですがヘヴィなリフが轟く#8「Depressed Mode」では創造の苦しみを詞にしたためている。ラスト#10「Arrival」にてドリームスラッシュの懐刀を抜いて終わる頃には虜。星の神が微笑むとポップなのかメタルなのかに板挟みされることなく、無敵でいけるんだなと思わされる作品。

メインアーティスト:Astronoid
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プレイリスト

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