2004年に結成されたUKシェフィールドの5人組、オルタナティブ・ロックバンド。略称はBMTH。
初期はデスコアと呼ばれる激しいサウンドとスクリームを主体としていましたが、作品ごとに音楽性を変化。キーボーディスト加入してから4thアルバム『Sempiternal』以降は、よりメインストリームへ開かれた音楽へ。
『That’s The Spirit』や『amo』とヒット作品をリリース。現代のオルタナティブ・ロックを代表する存在として君臨している。これまでにフルアルバムを6枚リリース。
本記事では1stアルバム『Count Your Blessings』~6thアルバム『amo』までのフルアルバム6作、Post Humanと題されたシリーズの第一弾となる『Post Human: Survival Horror』の計7作品について書いています。
アルバム紹介
Count Your Blessings(2006)
1stアルバム。全10曲約36分収録。タイトルは先行シングル#1「Pray for Plagues」の歌詞の一節からとられています。
海外wikipediaによると”可能なかぎりヘヴィで残忍なサウンドを目指した”そうで、デスコアの急先鋒としてすぐに脚光を浴びることになったデビュー作。暴虐であることが生きる道であり、大人への近道(当時のBMTHは10代)。
首謀者であるVo.オリバー・サイクスは、ギャーギャー系スクリームとヴォォヴォォ系のグロウルを主戦に、クリーンボイスは本作でほとんど使っていません。
サウンドはAt The Gatesに影響を受けたと話す通りに、北欧メロデスにせまる鋭く重いギターリフが中心で散弾銃のようなドラミングが加勢。なかにはスラッシュ~メロパワ寄りのピロピロ系ギターソロやツインリードを効果的に配しています。
代わりにメロデス勢にある叙情性を放棄しており、メタルコア譲りのブレイクダウンで凶悪なノリを召喚。やめてもうライフはゼロよって訴えても容赦せず。獣性や肉食という言葉がしっくりくる本能で向かう野蛮さがあります。
唯一、#9「15 Fathoms, Counting」の全編アコースティックで2分ほど激しさは凪ぎますが、メロディというご褒美を与えるのはここ以外になし。
#1「Pray for Plagues」から#10「Off the Heezay」まで残虐な楽曲がそろい、若者たちが覇権を取ろうとする野心に満ちています。音楽性をガラリと変えてからのBMTHファンが聴くとピンチしか訪れないから注意。
Suicide Season(2008)
2ndアルバム。全10曲約42分収録。Arch EnemyやAt The Gatesなどを手がけた経験を持つフレドリック・ノルドストロームがプロデュース。日本では本作から国内盤が欠かさずリリースされていくことになりました。
タイトルは直訳すると”自殺の季節”。ですが前作のデスコア肉食獣路線から、本作ではストレートな訴求力を持つメタルコア要素が強まっています。
オリバー・サイクスはグロウルの比率を減らして歌うスクリームをメインに据える。そしてプログラミングによるデジタルなトーンが新要素として加わる。キャッチーなつかみとクールさが楽曲に伴うようになりました。
それでもConvergeのような変則的な高速駆動をみせるし、非情なブレイクダウンもあり。血しぶき合戦のような物騒さはなくなりましたが、激しさのプレゼンテーションは新たな方法を取り入れることで多くの支持を得る結果へ。
#2「Chelsea Smile」や#8「The Sadness Will Never End」が持つドラマティックな激しさ、8分に及ぶ表題曲#10「Suicide Season」のポストメタル的な波動が押し寄せる展開に身も心も持っていかれます。
なお本作は、英国ロック誌・Kerrang!が2011年に発表した”史上最もヘヴィなアルバムTOP50″において第21位にランクイン。
There Is a Hell Believe Me I’ve Seen It. There Is a Heaven Let’s Keep It a Secret.(2010)
3rdアルバム。全12曲約53分収録。引き続きフレドリック・ノルドストロームがプロデュースし、Skrillexが追加のプログミングやバッキング・ヴォーカルで参加。
”神は信じていないんだけど、天国と地獄はあると思っている。誰もが心の中に闇を抱えているだろう。それと同じように幸せを感じることや感謝する気持ちも持っているはずだ。それらをひとつに合わせたのがこの作品なんだよ”と激ロックのインタビューでオリバーは答えます。
音楽的にはメタルコアの鋭く重いエッジを維持しているものの、デジタルな装飾だけでなくストリングスや女性コーラスで荘厳な彩りを加え、キャッチーなコーラスワークも目立つ。
照準はあくまでメタルコアの激しさでありますが、各楽曲にしてもアルバム全体を通してもスケール感がはるかに増しているのが特徴といえます。
6分を超える#1「Crucify Me」から苛烈なブーストの中で、近未来にワープするプログラミングや神聖な女性コーラスが楽曲に広がりを与えています。
先行シングルとなった#3「It Never Ends」にしても激しいリフとスクリームによるラッシュ、瑞々しいメロウな旋律がカーチェイスを繰り広げるかのように盛り上げる。
より実験的な側面は強まっていますが、アグレッシヴなスタイルは崩していません。何より売れ線狙いだの取ってつけたという形容をはねのける繊細で力強い表現が見事です。
地獄を見せる獰猛さから天上に召される美しい瞬間まで。#5「Don’t Go」を始めとして本作にはその共有体験があります。
Sempiternal(2013)
4thアルバム。全11曲約45分収録。タイトルは永遠の時間の概念を表すラテン語のsempiternusに由来。アートワークは神聖幾何学模様のひとつである、Flower Of Lifeを用いています。
ギタリストのジョナ・ワインホーフェンが脱退し、キーボーディストのジョーダン・フィッシュが加入して現在も続く5人体制となりました。プロデューサーにはテリー・デイトを起用。
同じアルバムは絶対につくらないという断固たる決意。既存ファンに愛されるメタルコアの重撃を少しだけ残していますが、全体的にポストハードコアやオルタナティヴ・メタルと言った方が近いサウンドです。
プログラミングやシンセをなめらかに組み込むのと同時に、スクリームから歌への転換を図っており、バラード調といえる楽曲まで本作には登場するから驚きです。
メタル出自の攻撃性とメロディアスな主張が見事に共存し、楽曲は以前と比べても明らかにスタイリッシュなデザインで構築されています。
そしてアグレッシヴなサウンドを轟かせていても風通しの良さがあり、一体感を持って盛り上がれるコーラスが増えているのも心をつかむポイント。
#1「Can You Feel My Heart」や#4「Sleepwalking」といった今もライヴを牽引する楽曲から、歌と叫びを通して重い感情をぶつける#11「Hospital For Souls」まで進化の響きは鳴りやまない。
自分たちの音楽や居場所を限定的な部分にとどめることなんてしない。外へ外へと打って出ていく野心、常に創造的であり続ける姿勢が新たな起点である本作を生み出しました。
That’s The Spirit(2015)
5thアルバム。全11曲約45分収録。夢見るデスコアじゃいられなかった奴らの最高傑作。NMEのインタビューによると”うつ病などの人生の暗い気分と、それを軽視する方法についての緩やかなコンセプトアルバム”とのこと。
前作『Sempiternal』からさらに歌とメロディに焦点をあてており、クリーンヴォイスの多用、近年のベース・ミュージックを投影してメインストリームで通用するロックを展開しています。
プログラミング/エレクトロとバンド・サウンドとの混合が前作以上に堂に入る。この自然かつ強固な結びつきが楽曲の劇性を高める結果になっています。
00年代オルタナロック~ニューメタル(日本でいうミクスチャー)を思わせながらも、よりモダンで流行を取り入れた構築。リンキン・パークやミューズと比肩するスケール感をみせつけています。
ラップ抜きの初期リンキンパークっぽいスタジアム・ロックを轟かせる#3「Throne」、全てを神聖な光で包み込むようなドラマ性に満ちた#9「Drown」といったリード曲のエネルギーと説得力は計り知れません。
なかでもレディオヘッドが少し透けて見えるクールな魅力が詰まった#5「Follow You」は新境地。またオリバーのハスキーな歌声は、切迫感や孤独感を突きつけるようで、元々バンドが持つダークな感性を本作にも根付かせています。
聴き手を確実に巻き込んで一体化できる表現力とカリスマ性、#4「True Friends」を聴いていると余計にそう感じますね。賛否両論巻き起こすアルバムであるのは間違いないし、かつての良さをぶん投げてるのも否定しません。
でも歌とメロディが優れていれば、しっかりと受け入れられることを本作は証明しています。変化を恐れる必要はない。例え変化をしようと納得させるだけの曲/作品が残せれば済むのだと。
勇敢な改革が行われたドラマティックなロック・アルバム、デスコアボーイズがこういった形で新しく大輪の花を咲かせるのは感慨深い。
amo(2019)
6thアルバム。全13曲約52分収録。タイトルはポルトガル語で【愛】。”これまでとは全く別の方法でヘヴィにもしたかったし、キャッチーにもしたかったんだ”とオリヴァーはNMmagのインタビューで語ります。
スタジアム級のロックを轟かせた前作の成功におごることなく、もはや変化しなきゃ死ぬの?って思えるほど大きな変化を遂げています。
本作は一応ロックでもメタルでもありますが、エレクトロ、ヒップホップ、EDM、ソウル、ポップス…etcと詰め合わせパック化が加速。”自分たちのやりたいようにやる”という宣言通りにリスナーが期待する方向に決していかず。
ルール不要でジャンルレスな作品としての強い意志を感じます。もはやバンド形態やフォーマットすら気にしてない。ただ流行を取り入れてますが、借り物やパッチワークではないBMTHのアルバムだという刺激とアイデアにあふれています。
その解のひとつがGrimes、Cradle Of FilthのDani Filth、Rahzelの3名のゲスト・ヴォーカル起用。そして元々のファン層を遠ざける/ふるいにかけるようなロック離れ。
#3「nihilist blues」や#4「in the dark」といった電子音主体の楽曲からは、別のセカイ線にきたという印象を抱きます。
その上でカルトと愛との類似点をお得意のヘヴィなサウンドに乗せて歌う#2「MANTORA」、ソニーのスマホ”Xperia 5″のCM曲となったポップチューン#7「medicine」と佳曲ぞろい。
ホームグラウンドはロック~メタルにあってもマッチョではなくクール、保守よりも変革が根本にある。どんなアイデアもBMTH流儀にカスタマイズしていける創造性の高さ。amoるべき理由がここにつまっています。
POST HUMAN: Survival Horror(2020)
【ポスト・ヒューマン】と題されたEPシリーズの第1弾となるEP。全9曲約32分収録。『AMO』以上に”BMTHと仲間たち”が強まるコラボ満載。
小島秀夫監督が手掛けるプレイステーション4用ゲーム『Death Stranding』のために書き下ろされた#8「Ludens」を1stシングルに充実した9曲が並びます。印象で言えば近年続いたポップへの侵攻から一転し、これまでに統合してきた音楽要素がハイクオリティでアウトプット。
目立つのは#1「Dear Diary.」を始めとしてメタルコア要素の復権があり、リフやブレイクダウンの獰猛さが噛みついてくる。オリーのグロウルやスクリームがお久しぶりの存在感を示しているのも特徴でしょう。
それらが前述したようにクラブミュージックやインダストリアルと相まって切迫的になり過ぎず、風通しの良さと昂揚感を生む仕かけになっています。もちろんスタジアム級のスケール感がある”歌”というのも変わらずの武器。
ニューメタル要素を昇華した#3「Teardrops」、Nova Twinsと共にスタジアム級のスケールを誇る#7「1×1」と魅力は広がる。
盟友・BABYMETALと共演する#6「Kingslayer」のオリーとSU-METALがもたらす歌のコントラスト、Evanescenceのエイミー・リーが参戦した荘厳な#9「One Day~」にしてもBMTHの曲としてしっかり昇華されています。
巨大なウイルスが未来に影響を与える可能性について書いた#2「Parasite Eve」が、奇しくも制作途中に現実化した新感染症世界を予言してしまいましたが、こんな世の中でも絶対に前へ進んでいくという気概をみせる。これまでとこれから、その両方を示した充実度があります。
POST HUMAN: NeX Gen(2024)
ポストヒューマンシリーズの新作。当初は2023年9月リリース予定でしたが、クオリティに満足できず2024年初頭に延期。
どれから聴く?
BMTHに興味が出てきたけど、どれから聴けばよいの??
作品ごとに変化していってるバンドなので人によって好みは分かれると思いますが、わたしは4thか5thが良いと思っています。デスコア期から聴いてるとはいえ、『That’s The Spirit』のスケール感のあるロックを聴いてこんなバンドになったんだと感動しました。同作に収録されている「Drown」か「Throne」から入るのオススメです。