
2008年から台湾を拠点に活動するインストゥルメンタル・バンド。いわゆる轟音系ポストロックと呼ばれるようなインストゥルメンタルを主体に、台湾シーンの代表格とされる存在。これまでにフルアルバム3作品を発表しており、2026年には”SYNCHRONICITY’26″にて初来日を果たす。
本記事は2025年7月にリリースされた3rdアルバム『Long Haul』について書いています。
作品紹介
遺心病 Long Haul(2025)

3rdアルバム。全6曲約40分収録。2008年から活動しているBugs of Phononは轟音系インストと呼べる音楽性で、台湾ポストロック・シーンの代表格と呼べる存在のようです(申し訳ないですが、SYNCHRONICITY’26に出演することでBugs of Phononを初めて知りました)。MONO、toe、mouse on the keysといったアーティストの台湾公演をサポートしたことは、その実力を証明しています。
本作は約3年ぶりのフルアルバムとなり、2022年に発表した前作の2ndが『真面目 Understory』は、1stアルバム『午夜城 a Midnight Town』から10年ぶりだったことを考えるとサイクルはだいぶ早い。
『遺心病』というタイトルが示していますが、HYPEBEASTのインタビューによると本作はギタリストである柯志明氏の身近な人の病体験から着想を得ているそう。病気の発症から治療までの過程を核としており、アルバムの曲順は病状の進行を綿密に追っています。発症から回復までの長い時間、それに回復した後の影響まで。その上で各楽曲の視点は異なっているそうで、#1「破體 Broken Bodies」の主観的視点はウイルスそのものであり、#2「放射線治療 Radiotherapy」は患者、そして#4「遺心病 Long Haul」は患者と付き添う者であると発言しています。
こうしたテーマを潮の満ち引きのようなダイナミクスのあるインストで表現。#1「破體 Broken Bodies」はウイルスと肉体の戦いをツインギターで奏でたと語り(参照:Facebookページの投稿)、#2「放射線治療 Radiotherapy」はMogwaiの7thか8thアルバム辺りに収録されてそうな不穏なギターがリードする前半から後半はMONOを思わせる音の膨張へと移り変わる。そして#3「副作用 Side Effects」にてキャリア初のヴォーカル・トラックを披露し、韓国のシンガーソングライター兼作家のイ・ラン氏のスポークン・ワードが厳かな緊迫感を伴って運ばれてくる。
アルバム後半も充実した内容で病からの回復までのプロセスを追っていく。表題曲#4「遺心病 Long Haul」は轟音系ポストロックというフォルムの中でオルガンが儚い美を添え、サックスが情熱を注ぐ。最も重く険しい音色が続く#5「一命 One Blood」を経ると、終曲#6「解藥 The Cure」が労わるような旋律と共に大団円へと向かいますが、クライマックスは意表を突くように激しいサウンドが急襲。それは病から回復した後の未来には光も影も存在することを示すかのように。
今回のテーマは彼らの私的な体験を開示したものですが、誰しもに訪れる可能性のあるストーリーを紡ぐことで、聴き手それぞれが生活や人生について考えるきっかけを与えてくれます。私としては本作を聴き、2011年のフジロックで現地体験した同じく台湾のインスト・バンド、甜梅號 Sugar Plum Ferryを思い出して嬉しくなった次第。
