作品紹介
nobenikaeru(2023)
1st EP。全3曲約20分収録。2023年に札幌市の大学内にて結成された男女2人組による 【sapporo slowcore pops】を体現したサウンドが沁みます。
バンドの公式X(ex-Twitter)でフォローしているのがBorisとdeathcrashの2組ですが、その影響下にあるしんみりとしたスロウコア、静と動のダイナミズムが宿っている。
冷ややかでいて温もりがあり、繊細でいて大胆。そんな音像はオープニングを飾る#1「tears」から感じ取れます。淡く儚げな歌声、それに併走するアルペジオを主体とし、余白を残しながらゆっくりと進行するも避暑地には向かわず。各所に設けた大音量ムーブが甘美な暴力となって表れており、遠い遠い風景に連れていく。
デジタル音源を購入した方は歌詞やセルフライナーが見れるのですが、前述した#1はRainer MariaやBorisを参照しているようですし(実際に聴いてて轟音パートはBoris「決別」が真っ先に浮かびました)、他の2曲ではTortoiseやenvy、CQ、スピッツに昭和歌謡~サイケ勢まで雑多な影響元を明かしています。
スロウコアを軸にしたスタイルとはいえ、daikiraidattanatsuはポップスとしっかりと意気投合していることで柔らかさや包容力が備わっており、淡々としている印象はそこまで強くありません。その源泉となる女性ヴォーカルが脆さと強さの中でたゆたいながら、轟音ギターと共に陶酔感を連れてくる。
その上で感じるノスタルジックな空気。静かな白い時間をdaikiraidattanatsuの音楽と過ごしていると、聴き手自身の心の風景や思い出を辿るような気分になってきます。温かく満たされていく#3「nobenikaeru」は特にそれが顕著。北国のバンドという矜持はあるにせよ、この言葉だけで回収できないほどの普遍的な魅力があります。