【作品紹介】deathcrash、UKから届くスロウコア

 2018年から活動を開始したUK・ロンドンを拠点とする4人組。Codeineや初期Mogwaiを思わせるスロウコア~ポストロック系サウンドを主体に、シーンで異彩を放つ。それはBlack Country, New Roadが影響を受けたと語るほど。

 本記事は2026年2月にリリースされた3rdアルバム『Somersaults』を含む、フルアルバム全3作品について書いています。

目次

作品紹介

Return(2022)

 1stアルバム。全12曲約65分収録。Slint~CodeineラインからMogwaiの『Come on Die Young』が近しく感じる音楽性が特徴です。ゆったりとしたリズムの上でアルペジオが軽やかに揺らぎ、ヴォーカルのささやきや枯れた歌声が重なる。

 派手さと生産性から距離を置いた内省的な表現。足し算の音楽には流れず、そぎ落としたことでもたらされた沁み入る聴き心地は、deathcrashの味わいといえます。ディストーションが時たま牙を表し、制御できなくなった感情のままに叫びが入りますが、そのヒリついた緊張感や硬濁としたサウンドからは90’sポストハードコアのような感触もあり。

 #3「Horses」はAmerican Footballのような蒼い煌めきとメロディが宿っていますし、#4「American Metal」には寸止め轟音ポストロックの流儀が染みわたる。9分近い#11「Doomcrash」では素朴な味わいの前半からSlintと初期Jesuが交配した重低音が迫りくる。

 長きの鎮静と短き爆発。その道筋をたどりながら、そっけなく人生をアシストする感覚が何よりも心地よい。いかついバンド名とは不釣り合いに思える極上のスロウコアをぜひ。

アーティスト:デスクラッシュ, アーティスト:DEATHCRASH

Less(2023)

 2ndアルバム。全7曲約38分収録。スコットランドのアウター・ヘブリディーズ諸島にあるブラック・ベイで2週間かけてレコーディングを敢行。元々EPをつくる予定だったことの影響か収録時間がすっきりとしてますが、基本路線は変わらない。日本的に言えば”わびさびが効いた”と表現できるような、着飾らないしんみりとした音楽。

 何かを埋めようとするではなく、余白を意識しながら言葉と音を並べ、繊細な感情が心の内に流れ込む。2作目にして早くも熟成した旨味。そして波打ち際のような静けさと零れ落ちる歌声はセラピーのようにさえ感じます。

 #1「Pirouette」はゆるやかな展開の中でツインギターが美しいハーモニーを聴かせ、3「Duffy’s」では風で飛ばされそうな弱々しい声で”Don’t do too much”と語り続ける。

 それでいて荒ぶる激情轟音ムーブが前作よりも沸点高く炸裂。#2「Empty Heavy」や#7「Dead, Crashed」では静寂による進行をモットーとしながら、人格が突如変わったかのようにスラッジ系の歪む重低音と血の通った叫びを耳にすることになります。

 Lessは”より少ない”を意味しますが、減らすことで豊かさや本質に迫るミニマリスト気質は、deathcrashの音楽的趣向と合う。聴き手の心を震わすとか共感を呼ぶとは無縁で”あてもないどこかの場所で、音楽がただ鳴っているだけ”というそっけなさや温度感。現代社会という消耗戦を離れて、ただ浸り、ただ耽る。その感覚を思い出させてくれる『Less』に敬意。

メインアーティスト:deathcrash
¥1,000 (2026/01/11 20:58時点 | Amazon調べ)

Somersaults(2026)

 3rdアルバム。全10曲約41分収録。『Somersaults』は宙返りを意味する。”このアルバムは大人になっていく過程や、思春期の夢を諦めるという経験から生まれたものです“とベーシストのPatrick Fitzgeraldはリリースの際にコメントしています。#2「NYC」では”30歳、キャリアなし、本当に心配だ バンドをやっていても何の助けにもならない“と歌っていたりしますし。そんな人生に対する戸惑いとは反対に肯定する詞も登場しており、現実の中で揺れ動く心情がつづられている。

 一聴してすぐに感じられるのは、本作では以前の作品よりもヴォーカルを重視した作品になっていること。MAGNETのインタビューによると、”The Jesus and Mary ChainやHave a Nice Life等のサポートアクトを務めた際に大きな会場でのライヴを経験したことによって、観客を巻き込んでいく重要性を感じた。そのため歌やコーラスが自然と増えた“と話している。同時に削ぎ落された以前までの作風と比べ、装飾された音と親密さが加わっています。

 冒頭の表題曲#1「Somersaults」からその趣向は表れており、ハーモニクス風の音色と渋い歌声による静かな立ち上がりからコーラスや電子音に彩られていく。続いてのシングル曲#2「NYC」や#3「CMC」でも足し算志向を継続。ビターな味わいだったこれまでからするとまろやかに中和されており、インディーロックという言葉をあてはめてもおかしくないほど。今回は声を荒げることもしていませんしね。#5「Bella」の口ずさめることで得られる幸福感もとても新鮮。

 持ち前のダイナミクスにしても#6「The Thing You Died」や私が参加した2023年12月の来日公演で披露していた#8「Stay Forever(Giant Swanと表記されていたりしますが)」等で発揮。SlintからMogwaiまでを駆け抜ける抑制と爆発の妙味はここぞという場面で効いています。彼ら特有のそっけないムードは引っ込んではいない。かといって必要以上にキャッチーでもない。ラストを飾る#10「Marie’s Last Dance」におけるパッと視界が開ける音響と控えめな歌声が溶け合う。厳選から拡張への道を辿り始めた本作を見事に締めくくっています。

メインアーティスト:deathcrash
¥1,800 (2026/09/01 15:59時点 | Amazon調べ)

プレイリスト

目次