2006年から活動するオーストラリア・シドニーのポストロック3人組。Explosions In The Skyに代表される轟音系ポストロックの中に、65daysofstaticを思わせる電子音を用いたアプローチを混合。
これまでに4枚のフルアルバムと数々のEPをリリースしています。世界的なフェスへの出演、また大物バンドがオーストラリアを訪れた際のサポート出演が豊富。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム全4作品について書いています。
アルバム紹介
...and so we destroyed everything(2011)
1stアルバム。全8曲約52分収録。静謐から轟音へというEITSに代表される轟音系ポストロックの流れを汲み、電子音を上手く組み込んでいるのが特徴。
アルペジオ~トレモロの感傷、マーチング・ドラムがもたらす昂揚感、さらにはゲストプレイヤーを招いてストリングスやトランペットが温かい気品を加えています。
曲によってはHammock辺りを思わせる穏やかな陽だまりに浸れ、Caspian辺りを彷彿とさせる轟音系らしい荘厳かつ大きなうねりに巻き込まれる。優雅で煌びやかという形容がしっくりくる中、ドラムを中心にメタル寄りの強度をプラス。
最もインパクトがある#4「a gaze blank and pitiless as the sun」は本作を1曲に凝縮したと感じるほど、全要素がドラマティックに噛み合う11分間。#8では声をコーラスとして使用し、神聖といえる雰囲気がもたらされています。
次作以降ほど電子音が効力を発揮していないですが、静と動の美学に基づいた物語は人々を魅了するはずです。
Love of Cartography(2014)
2ndアルバム。全10曲55分収録。紳士なポストロックはやーめた。筋トレしてクラブ音楽を学んで、あか抜けてきました。
#1「Perfect Detonator」の号砲から65daysofstaticを思わせる電子音とロックの融合ぶり。それをさらにメタル~プログレの強度でビルドアップ。ユーモアと快楽性の高いインストを鳴らしています。
かつての残響レコードが喜んでリリースしそうな音楽性といえば伝わるでしょうか。力強いバンドサウンド、ネオンのごとき光の帯が広がり、ダンサブルな要素が多く盛り込まれる。
少しだけ暗さを感じるシーンもありますが、繊細な音の陶酔感に誘うよりも、昼間だろうと真夜中だろうと関係なく活発なエネルギーでノせてきます。
#9「Something Like Avalanches」はまさに衝撃的な1曲。#5「Great Northen」からは騒々しくなったAlbum Leafのようにも感じます。ポストロックはヒューマンドラマに近いと思ってますが、本作の彼等はアクション映画のよう。
それこそ”クラブでかけよう轟音ポストロック”みたいな標語が似合います。
Made of Breath Only(2017)
3rdアルバム。全10曲約58分収録。 タイトルはメンバーの1人が好きだというCormac McCarthy の小説 “The Crossing” から取られている(MMMのインタビューより)。
作風は暗く濃密なものを目指していたとのことですが、前作が派手にブチあげすぎたということでわりとスマート。静謐よりも優雅な移ろいの中で聴き手の関心を高めていく手法は変わらず。
ポストメタルの重厚に寄せた#4「Tundra」や#9「Glacial」、ピアノが主導権を握る表題曲#6、アコースティックの波紋を広げる#8「Midnight Sun」や#10「Hailstones」など前作とは違ったアプローチがあります。
全体を通すと1stの強化版というイメージが湧く。それでも必要以上に筋肉質な仕上がりといえばそうではなく。ブレンドの音楽としての最適解を聴き定めながら、明媚な風景を脳内に浮かばせるように優美な音色がストーリーをつづる。
クラウトロックのタッチを加味しながら、グルグルと世界を巡っていくような10分間#5「The Edge of Everything」はLong Distance Callingを脅かす構成の上手さがあります。
It’s Here, But I Have No Names For It(2024)
4thアルバム。全8曲約40分収録。EPシリーズをまとめた編集盤を2020年に発表していますが、純然たるフルアルバムとしては7年ぶりです。
タイトルはロバート・メイナード・パーシグの小説『禅とオートバイ修理技術』の一節から拝借し、”すべてのことに常に言葉を探す必要はない”という意味でつけられたそう(Bandcamp参照)。
より簡潔さを好んだ尺(4分台が多め)に落ち着くも、小回りとユーモアが効いたインストゥルメンタルは健在です。リズム隊が叩きだす筋肉質と躍動感が基盤。その上にギターやシンセが光の帯をもたらしていく構造を持ちます。
エレクトロニックな要素が多めではあるのにも関わらず、人力感の方が相変わらず強い。それはゴシック体太字で”エネルギッシュ”と表現したくなるほど。その上でアコギやピアノ、ストリングスの優美さを巻き込みながら組み立てられ、#6「Terror Future」においては歌声の魔力でもってして人々を眩惑する。
聴いていると65daysofstaticというよりはLong Distance Callingの方が近くなっている印象は受けますね、前作以上に。レトロ&フューチャーを往来するような感触を含めて。
NINTENDO64の『F-Zero』のトリビュートだという #2「Super Realm Park」の夜通しダンスロック感は異常ですし、”私たちなりのポストロックとグランジの融合”と話す#3「Ritual Control」も衝撃的。前半のパワフルさとは打って変わって後半の楽曲はシネマティックな音像が台頭。バンドの煌びやかで美しい面が浮かび上がる。このギャップも本作の楽しみのひとつです。
ちなみに個々の楽曲についてはNOIZZE UKにて、ベース/キーボードのAlex Wilsonが解説しているのでチェックすることをオススメします。
活動から18年。以前のような拡張はないにしても、これまで培ってきたものが集約されています。彼等はポストロックと呼ばれることを好意的に捉えている珍しいバンドですが、ポストロックした上で自分たちらしくあろうとする。その姿勢を本作でも貫いている。