Long Distance Calling、インストの自由拡大と思慮深いテーマ

  • URLをコピーしました!

 2006年に結成されたドイツ・ミュンスター出身のポストロック/ポストメタル4人組。バンド名は「放浪癖」「未知のものへの遠い呼び声」のような感覚に結びついているとJan Hoffman(Ba)はThe Independent Voiceのインタビューで語る。インストゥルメンタルを基調にメタル出自の重低音、プログレ、サイケデリック、アンビエント等の要素が組み合わさります。また近年では人間とテクノロジーの共存、人類が引き起こす環境破壊と深いテーマに基づいたアルバム制作を行っている。

 15年を超える活動でRock am Ring、Roadburn、Wacken Open Airといったフェスティバルに出演を果たしています。また、20年発表の7thアルバム『How Do We Want to Live?』が本国ドイツチャート上位にランクインしており、セールスでも成功を収めている。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム8枚について書いています。

目次

Satellite Bay(2007)

 1stアルバム。全7曲約58分収録。10分超の曲を2曲含み、平均でも8分を超える長尺曲が揃う。LDCはポストロックというよりかは、ポストメタル寄りのインストを鳴らしています。Pelicanはスラッジ側の重量感があり、LDCはメタル寄りでお膝元であるクラウトロックの要素が加味されている印象。

 メロディック・デスメタルをやっていたというメンバーが2人も在籍している影響でしょうか。God Is An AstronautとMaseratiをメタル武装したようでもあり、特にリズム隊が叩きだすグルーヴがやたらと強烈。クリーントーンを中心に楽曲は物語のプロセスを辿りますが、この頃はアンビエンス担当のメンバーが在籍しており、環境音や声などのサンプリングを用いた雰囲気作りが巧み。

 特にその影響が表れているのが#3「Autora」で轟音ポストロックの形式に落とし込みながらも、虚無感と宇宙を上手く表現。またThe Hauntedの元ヴォーカリストであるPeter Dolvingが参加した#6「Buit Without Hands」では、大陸的で強烈なグルーヴの上を彼の強烈な声と赤子までのサンプリングヴォイスがかき混ざり、異色の空間を生み出しています。

Avoid The Light(2009)

 2ndアルバム。全6曲約54分収録。アルバム・タイトルはPanteraが『ドラキュラ2000』のサントラに提供した曲「Avoid The Light」に基づく。いきなり12分を超える#1「Apparitions」を門番にしてスタートする本作は、前作をスケール・アップしています。サイケデリック、スペース・ロック的な要素が強まり、マッシヴなポストロックを強化

 長尺を活かした優美な語り口からの轟音大爆発、効果的なデジタルエディットによるヘヴィネスの緩衝と表層変化、変わらずの強靭なグルーヴが肝にあります。バンドの代表曲に挙げられる#2「Black Paper Planes」はヘヴィを軸にしつつドラマティックに進行し、#3「359°」は本作中で最も緩急をつけた上でストリングスを投下。#5「The Nearing Grave」にてKatatoniaのVo.ヨナス・レンクスが参加し、ポストロック~サイケな基盤に美しいハーモニーをもたらしています。

 また、メタル度の高い#4「I Know You, Stanley Milgram」は、アメリカの心理学者スタンリー・ミルグラムによるスモールワールド現象を参照。#6「Sundown Highway」は宇宙遊泳から土着的民族音楽へと変遷しますが、そこに根差しているトライバルなリズムは昂揚感を掻き立てます。そんな本作はバンドの初期の名作として評価されています

¥1,733 (2022/08/17 07:46時点 | Amazon調べ)

Long Distance Calling(2011)

   3rdアルバム。全7曲約56分収録。また一段とサイケ、ブルース、プログレの要素が強まっています。クリーンな音色から古色蒼然としたサイケまでを多彩に繰り出すギターに、柔軟でいて強靭なリズムが支える。ポストロック/ポストメタルからはみ出すユニークさがあり、それこそ一癖も二癖もあるって表現したくなります

 #2「The Figrin D’an Boogie」において70年代サイケの影響を還元し、宇宙的なエフェクトとパーカッションが心身に揺さぶりをもたらす。ハードなエッジとシンセによるスペーシーな味付けは変わらずに、本作はモダンな造りの中に懐古的な音色を巧く取り入れています。#3「Invisible Giants」ではブルース~ハードロック寄りのギターが炸裂しているし、#4「Timebends」はポストロックな前半から各楽器がインプロ風に絡み合っていき意識を飛ばしていく。

 ゲスト・ヴォーカリストのJohn Mush(ex-Anthrax)が豪快に歌う#6「Middleville」はグランジめいた雰囲気も漂います。メタル的なヘヴィネスを堅持しながら70年代要素を加え、バリエーション豊かに展開する。ゆえにどんどんと轟音系ポストロックの定型からは外れる。

 バンドの作曲方法に関しては”ジャムセッションから発展し、多くの曲が生まれている”とのことですが、パワフルで変化に富むインストというのを追及し続けています。なお、本作はドイツのアルバム・チャートで36位を記録。

The Flood Inside(2013)

 4thアルバム。全8曲約55分収録。アンビエンス/エフェクト系担当だったReimut von Bonnが脱退。Martin Fischerが専任ヴォーカリスト兼電子音担当として加入。これまで1アルバムにつきヴォーカル曲ひとつという制約から解放され、複数のヴォーカル・トラックを擁する作品となりました(全8曲中4曲)。

 その上でさらに多数ゲストとのコラボがあります。印象的なものでいえば、#1「Nucleus」でドイツのブルース・ギタリストのHenrik Freischlader(ヘンリック・フライシュラダー)が参加し、中盤にて本職の持ち味を存分に発揮する。そして、Anathemaのヴィンセント・カヴァナーが参加した#5「Welcome Change」はモダン+民族音楽的アプローチを基盤としたサウンドに、涼やかなエモーションをもたらしています。

 全体通してもオルタナロック感増し。やはり歌の存在はバンドのイメージを大きく変えます。それに古典的なプログレやブルースのエッセンスも沁みこんでいます。一方で、Reimutが脱退した影響でアンビエント/宇宙空間的要素が薄まりました。代わりに東洋系のメロディや雰囲気が出てきており、冒頭でMastodonかよってツッコミたくなった#7「The Man Inside」は仏教の言葉を引用しています。

 そして彼等の音楽性が集約されたインスト曲#8「Breaker」で壮大に締めくくる。”ポスト”とはそれ以降を示す言葉ですが、LDCは幅広く音楽を取り込んで柔軟に放射する。本作においてその取捨選択は”歌”だったということ。アルバム毎に変化を続けていますが、常にニューモードの姿勢は好奇心の賜物。

Trips(2016)

 5thアルバム。全9曲約50分収録。テーマは”夢の中のタイムトラベル”。前作に引き続き半数がヴォーカル入り曲です。ただ、ヴォーカルのMartin Fischerは脱退して4人編成となり(ただ、電子音で本作に参加)、ゲストとしてノルウェー人のシンガー・Petter Carlsenが歌声を響かせています。

 シンセを軸に4つ打ちのダンスロックを響かせるMaserati感満載の#1「Getaway」、分厚いシンセが被さるエモいUKロック#2「Reconnect」と冒頭2曲で前作との違いを聴かせる。オルタナティヴ・ロック寄りだった前作から比べると、kscope感の増したニュー・プログへシフトしているように感じられます。おそらくそれはヴォーカリストに合わせた曲作りから来てると思われ、Petter CarlsenはそれこそUKロックのヴォーカリストのような声質(前任は完全にオルタナ~グランジ寄りの渋さ)。歌とインストの比重を意識しながら、コンセプトを実現しに行った結果が表れています。

 #3「Rewind」ではAnathemaっていたり、#5「Lines」ではMuseっていたり。エレガントなシンセの意匠を施しながら、強烈なグルーヴと熱いギターソロが炸裂する#7「Momentum」と相変わらず多彩なアプローチが試みられている。 

 それでも、これまでの作品と比べて落ち着いた雰囲気と透明感が増しています。パワフルさよりもしなやかさが勝っており、別の言い方をすれば本作は最もスタイリッシュといえるかもしれません。ラストの#9「Flux」は12分半に及ぶプログレッシヴな旅路で、聴き手の内的宇宙を探るLDCらしい締めくくりです。なお、本作はドイツチャートで最高位23位を記録。

Boundless(2018)

 6thアルバム。全8曲約50分収録。意外ですが、1曲もヴォーカルが入ってない初の完全インスト作品。その背景には「基本に立ち返るということ。私たちは何者なのか?原点とは何なのか?私たちはどこに向かっているのか?」と自問自答して導きだしたそう。また前作参加のPetter Carlsenが正規メンバーではないため、ライヴに帯同することができなかったのもきっかけのひとつ(これらはDISTORTED SOUNDのインタビューによる)。

 原点へ立ち返る。その通りである部分もあれば、そうでない部分もあります。#2「Ascending」や#5「The Far Side」に代表されるBaroness辺りに影響されてそうなヘヴィさが加わり、もともとの持ち味である強烈なグルーヴがさらに活かされる。エレガントなタッチやレトロな感触を残しながら、パワフルで推進力のある仕上がり。端的に表すなら、ワイルドになったイメージが強いですね。

 前2作はヴォーカルを入れる前提での曲作りがどうしても必要でした。しかし、本作はそのストッパーが無いので、ジャムセッションをしながら発展させていく作曲の自由度が高く、良い方向に作用しています。#3「In The Clouds」では懐かしめの電子音とメタリックなリフが旋回。#4「Like A River」は、澄んだギターのループと躍動するリズムによって飛翔するような昂揚感がもたらされていますが、そこにホーンやストリングスが加わって豊かなサウンドスケープを生み出しています。

 ラストを飾る#8「Skydivers」は中盤でブラストビートが入って苛烈な瞬間を生み出していますが、アンビエントで静かに締めくくる。アートワークや#1「Out There」のMVは自分達が4人であることを示し、自分たちにも音楽にも境界線はないことを主張していると言います。これまで培ってきた音楽の幅広さやアイデアによって、以前と違いのある曲を生み出し続ける。原点回帰とそこからの前進が本作で示されています。

How Do We Want to Live?(2020) 

 7thアルバム。全10曲約53分収録。”人類と人工知能(AI)の関係と共存、デジタルの進歩と依存、その対処法について”のコンセプト作。タイトルは直訳すれば、どう生きたいか?。着想は2019年9月にケルンで行われた映画祭の一部でバンドが伴奏を務めたそうですが、その夜に拝聴した”未来と人工知能についての講演”が基となっているそう(guitar.Magazineのインタビューによる)。

 前作はバンド・サウンドをメインとして初めてのヴォーカルトラック無し。初期に近い筋肉質なポストロック/ポストメタル系インストを鳴らしていました。本作はコンセプトを体現するために未来的なタッチを増やす。ゆえに電子音をできる限り融合させています。80年代のSFやプログレっぽい電子音が前面に出ており、ヴォーカル曲をアルバムに1曲入れる初期伝統芸も復活。そして、ストリングスの投下にヴォイス・サンプリング等が組み込まれており、コンセプトアルバムという性質を体現しています。

 本作を最も象徴する楽曲として挙げたいのが、MVが制作された#6「Immunity」。デジタルを共有することで仮想空間での世界中の人々とコミュニケーションできることができる。一方で陰謀論やフェイクニュースなどの悪用もある。この技術的な進歩と危機をMVで表しており、クラウトロック~ポストメタルを橋渡しする音像とともにインパクトが大きい。

 また、もうひとつのMV公開曲の#4「Voices」。初老の男性と男性アンドロイドの生活が描かれていますが(かなり露骨な表現がある)、多様性が強まる時代背景の移り変わり、AIは社会的孤立を埋めるのかを問いかけているように感じられます。これらの表現からもわかる通りに、映像を絡めながらテーマを深く掘り下げる試みが行われている。そして、ラストを飾る#10「Ashes」は電子音とヴォイス・サンプルを主体としたトラックで”人間はウイルスだ。この惑星の癌だ”と主張しています。

 これまでのカタログで最もプログレ色が強く、最もサウンドトラックに近い。ポストロックを出自に多彩なアプローチを強めてきたバンドの懐の深さを改めて思い知る作品です。なお、本作はインストを主体としながらもドイツのチャートで最高位7位を記録。

Eraser(2022)

 8thアルバム。全9曲約57分収録。“人間の手によって浸食されていく自然や生物”がコンセプト。各曲は絶滅に直面している特定の生物を表す、と同時に捧げられています。曲順にあげていくとクロサイ、ヒガシゴリラ、ニシオンデンザメ、ナマケモノ、ワタリアホウドリ、ヒゲナガハナバチ、トラ、そして人間である。

 ブックレットには各曲に登場する絶滅危惧種の推定生息数が記載されています。ナマケモノは種類によっては100匹。まだまだたくさんいるイメージのあったトラは、種類によらず世界で4000匹を数えるほどしかいない。生物多様性を守る上でいかに深刻な状況かを思い知らされます。逆に人間は、2021年発表で世界総人口は78億7500万人にまで増え続けた。何とも皮肉な話です。

 音楽面では前作の反動からか電子音はあまり使われていません。6thアルバム『Boundless』への揺り戻しがあり、本作は完全インスト。ヴォイス・サンプリングもほぼ無くなって、4人によるバンドサウンドをメインにしてゲストによる管弦楽器、少々のエレクトロニクスで構成。前述した絶滅危惧種たちの特徴(鳴き声や行動、生息環境)などをイメージして曲に落とし込んでいます。

 ゴリラに敬意を表す#3「Kamilah」では刻むリフとパワフルなグルーヴからメランコリックで思慮深い世界に飛び込んでいく。ナマケモノについて書かれた#5「Sloth」においては遅いテンポの中でホーン隊が活躍しており、湿り気のあるメロディと多層的に絡んでいます。このように本作は人間の声を必要としていない。代わりに動物たちの声が生々しいサウンドによって表現されているのです。

 一番強烈なのはラストの表題曲#9「Eraser」のテーマは人間。種と環境の破壊、それが最終的には人間の滅亡に繋がることを緊迫した展開で表現。前作の最終曲「Ashes」の”人間こそが地球にとってのウイルス”というのを別の方法で形にしています。それでも厳かな暗黒から微かな希望が最後に鳴らされる点は、バンドの願いであることが伺えます。

 同じドイツのバンドであるThe Ocean(Collective)もそうですが、LDCも音楽を通して教養と内省、問題提起を結びつけていく。方法は違えど前作と同じように人間はどう生きるべきかを問う。その説得力が備わった力作です。

  • URLをコピーしました!
目次