2014~15年頃からUKバーミンガムを拠点に活動する4人組。シューゲイザーやドゥーム、スロウコアの影響下にあるサウンドを鳴らし、自らを”Slow Rock”と謳う。2019年に1stアルバム『The Valium Machine』を発表。
その活躍からChurch Road Recordsと契約し、2021年に2曲入りEP『Sundowning / Unconditional』、2024年6月に2ndアルバム『Acts of Harm』をリリース。またArcTanGent FestivalやDunk!Festivalへの出演、BosskやGRIVOといったバンドとの共演も果たしている。
本記事は前述したこれまでに発表されているフルアルバム全2作品について書いています。
作品紹介
The Valium Machine(2019)
1stアルバム。全5曲約43分収録。タイトルはUSスロウコア・バンド、DusterのサイドプロジェクトであるValium Aggeleinの曲「The Valium Machine」に由来(参照:Veil of Soundインタビュー)。
OutlanderはFacebookやBandcampにて”Slow Rock”とシンプルに自称します。ただしシューゲイザーの夢遊、ドゥームの質量、スロウコアの枯れが存在しており、それらの中道に立つのが特徴です。大半のパートをインストゥルメンタルが占めており、曲は長尺で平均して8分30秒を数える。展開で魅せるような感じはありません。ゆったりとした進行の中で浮き沈みを堪能するものです。
聴いているとMogwaiやThis Will Destroy You、Hum、Slint、Codeine、そして同じバーミンガムの巨匠であるJesuといった名前が浮かびます。これ以前のシングル作と大きな違いは、本作からヴォーカルを入れている点が挙げられる。ただし歌唱のほとんどが感情がお亡くなりになったかのようなささやき声。そういった意味でもスロウコアに寄せたポストロック/ドゥームゲイズ的な側面が強い。
Veil of Soundでの発言にある”自然なリバーブを得るために教会でドラムを録音した”ことも手伝った奥行きのある音像がまた魅力的。加えて#2「Threadbare」~#4「Return」までの3曲はもともと1曲21分の構成を3分割しているといいますし(参照:Birmingham Reviewのインタビュー)、タイパにコミットしない断固たる姿勢までもが示されている。
白眉なのはラストを飾る13分の表題曲#5「The Valium Machine」。轟音系ポストロックの要素を強く出しながらも、焦らしの美学を追いつつ瞬間的なカタルシスには加担せず。6分40秒ごろから立ち上がる初期Jesuを思わせる音の壁はやがて静まり、陰鬱な余韻を残して終わっていく。1stアルバムにして悠然とこのニッチなスタイルを貫ける辺り、バンドの肝は据わっています。
Acts of Harm(2024)
2ndアルバム。全7曲約42分収録。2曲入りEP『Sundowning / Unconditional』に引き続いてChurch Road Recordsからのリリースです。
作品のテーマは”平凡さが自分を疲弊させることや、依存症や仕事で疲れ果てることなど、日々の生活でそれを取り巻くものについて“とboolin tunesのインタビューにて回答。問題のある習慣に屈することで得られる短期的な平和と静けさ、それが引き起こす長期的な破壊と苦痛を対比させることを意図した#1「Bound」を始め、現代生活の空虚さ、現実逃避といったことが歌詞に盛り込まれています。
サウンド自体はこれまでの延長上にあるものであり、声に感情のスイッチが全く入らずとも静と動のダイナミクスは有効利用。轟音系ポストロックからの引用は本作でも多いですが、陰鬱と枯れた雰囲気が前作よりも増しており、ぶっきらぼうなdeathcrash的な側面は強まっています。序盤を飾る#1「Bound」にしても#2「Want No More」にしてもスロウコアやシューゲイザーに目配せしながら、Outlander独自のムードを漂わせる。
そういった中で本作は自身が苦手にしている短い曲への挑戦、キーボードの導入といった変化も取り入れられています。これまでになく短い3分台の#4「Orbit」はその筆頭格で、”Mogwai「Ithica」、Low「Murderer」、Duster「Unrecovery」 といった曲からインスピレーションを得て、コンパクトなフォーマットに収めた”と述べる佳曲。ここの引用も含めてNOIZZE UKにはメンバーが楽曲ごとに解説を行っているので、気になった方はチェック推奨。
陰鬱の永久機関の中で聴くスロウロックには、人生の苦さや険しさが含まれる。#7「II: Habituation」の静かで穏やかなエンディングにしても至福の方向性ではありません。心のモヤと向き合うような時間が『Acts of Harm』には流れている。なお本作はWherePostRockDwellsが発表した2024年ベストアルバム20の第16位に選出。
ちなみに2024年11月にPelagic Recordsと新たに契約。これからの活動に注目が集まります。