孤高の日本産ハードコア、envy

 1993年から活動を開始した前身のBLIND JUSTICEを経て、1995年に始動した3人組(+サポートメンバー3名)。長らくは 深川哲也、河合信賢、飛田雅弘、中川学、関大陸 という不動の5人で活動。2001年に発表した2ndアルバム『君の靴と未来』を始めとした作品、並びにライヴ活動において日本のハードコアを牽引する存在として世界的に活躍しています。

 日本ではSONZAI RECORDSを主宰し、海外ではTemporary Residence LTD、Pelagic Recordsと世界各国のレーベルから作品をリリース。

 しかしながら、2016年にバンドの核である深川の驚きの脱退。それから4人編成+ゲストヴォーカルという形で活動するものの、2018年2月に飛田と関の2名が追い打ちをかけるように脱退してしまう。終わりもよぎった中で、その後に深川が復帰。さらにはサポートメンバーとして、yOshi(killie)、滝(9mm Parabellum Bullet)、ロッキー(heaven in her arms)が加わった6人体制が始まります。

 2020年に復活作となる7thフルアルバム『The Fallen Crimson』をリリース。2021年にはフジロックへ10年ぶりに出演を果たしました。そんな彼等の作品について。オリジナルアルバムを中心に追った記事です。以下からどうぞ。

目次

Breathing and dying in this place(1996)

 前身のBlind Justiceを経て、新たに”envy”として活動し始めた5人組の1st EP(もしくはフル?)。既に活動が30年に迫るぐらいになってきた存在。ゆえに、大半の人が本作を聴くと「envyにもこんな時代があったのか」と驚く作品でしょう。わたしは「Insomniac Doze」がスタートだったので、本作を聴いたときは、本当にビックリしたものです。

 瞬間最大風速をずっと記録し続けているような全9曲約16分。まさしく電光石火のハードコアで蹂躙しにかかっている。1~2分台に収まった(1分未満の曲もある)楽曲は、小細工なしだし、グラインドコアかとも思えます。今のトレードマークである詩読はないし、メロディもあまり配していません。

 球種は真っすぐしかないけど、その剛速球で捩じ伏せる形。音質があまり良くないのも手伝って黒々しさと重みを持ったリフが鋭く鳴り、リズム隊は加速度を与えていく。そして、当時の若さゆえか憤怒をぶちまけるような絶叫。聞き取れはしませんが、歌詞は基本的に英語詞です。

 ニューヨーク・シティ・ハードコアに大きく影響を受けたと言いますが(本作ではないが、Constatine Sankathiのカバーをやっていたりする)、ここで聴けるのは、まるで整理されてない生身の男達が丸腰で戦場へ向かう音であり、剛球のハードコア。MogwaiやISIS(the Band)といったバンドの影響でポストロック~ポストメタルのエッセンスを集約させ、壮大な作風へと後にシフトしていきますが、この頃の向こう見ずの精神、闇雲に突っ走る姿勢は異質。彼等の原点を知る上で重要な一枚です。

From Here To Eternity(1998)

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 全11曲約34分収録の1stアルバム。深川哲也、河合信賢、飛田雅弘、中川学、関大陸(敬称略)という17年ほど続いた5人編成は本作から。前作よりも幾分かは叙情性が組み込まれ、曲も3~4分台のものが増えました。変化があったとはいえ、猛進型ハードコアという印象は強いです。激情系と言われるように蒼さと焦燥感に駆られ、エモーションを過剰に発露して突っ走る。

 深川さんの咆哮は悲痛さと若さを滲ませ、楽器陣はハードコア・マナーに則って、ハイハットのカウントを合図に全力疾走スタイル。#6「Crusaders」の向こう見ずの走り、さらには#8「Black Past」のようにD-Beatみたいなのをみせるし、立ちふさがるものは全てぶっ飛ばす姿勢は、何よりも強い衝動を生んでいます。

 しかしながら、ギターはメロディをもたらすようになり、楽曲自体も粗削りながら緩急をつけるようになりました。前作みたいに”走っていないと死ぬ”というスタイルでは無くなっています。現在の音楽性へと移行する片鱗をみせる初期の名曲#1「Limitation(限りあるもの)」、それに加えて#7「For Who You Died」、#9「Grey Wind」などは次作の金字塔『君の靴と未来』に繋がっていく素養が詰め込まれています。

 歌詞も日本語詞に変更。内向的かつ負の情感をぶつけており、ボク・キミの最小世界を示しながら、うつむき気味の心を捉えていく射程を持っています。あまり希望的なことは書かれてません。それが余計に衝動的なサウンドを加速させているし、人間味を感じさせます。

 #11「444 Words」は語りだけのシークレット・トラックとして収録。「地上より永遠に」という言葉で締めくくられる本作は、envyとして本格化していく兆しを見せたものと言えるかもしれませんし、この熱情に生涯やられる人がいても不思議ではありません。最もハードコアな時期のenvyを体感したいあなたに。

君の靴と未来(2001)

 ハードコアの過去も現在も未来も繋ぎ続ける大名盤2ndアルバム。SLAYERでいうところの『Reign in Blood』であり、Convergeにおける『Jane doe』であり、バンド自体が本作と紐づけられるほどの完成度を誇ります。国産のハードコア・レジェンドとして世界的な存在にしている理由のひとつが本作であり、日本の激情系ハードコアとして真っ先に上がる1枚。その背負ってしまった宿命を背に、envyは今日までずっと闘い続けています。

 #1「ゼロ」における予兆から、一気に激流に飲み込まれる#2「さよなら言葉」で撃ち落とされた人間は、世界中に何人いることやら。ポストロック的な要素の混合が始まり、初期衝動というには随分と洗練されてきたとはいえ、どこを切り取っても非常に感情的であり、魂ごと震わせるハードコアの勢いと衝動性は変わっていません。

 詩読やメロディの配分による整理。そういった絶妙な構成、アンサンブルを用いながらもenvyでしかあり得ない激情と激流の連続で心の芯から燃やされます。

 無鉄砲な#3「静寂の解放と嘘」の躍動感と解放感、#4「左手」の薙ぎ倒す瞬発性、#5「切望と議論の揺りかご」の歌と絶叫の使い分け、#9「堕ちてカゴへ」の叙情性。どの曲にもドラマが見え、迫真のヴォーカルと演奏が余計に感情を揺さぶります。

 ラストは組曲のように流れる#10「足跡の光」~#11「君の靴と未来」で締めくくる。美しいクリーンギターの螺旋の中で“45億年を超える恐怖” は “音による解放”をもたらします。全てが掻き鳴らされた後に静かに響くアコースティック・ギターのエンドロールは、ここまでのハードコアを反芻する時間として存在。こうしてゆるやかな最後を迎えます。

 彼等は心血を注いで表現しつくしました。己のハードコアを。20年以上経った今も全く色褪せず、むしろ輝きを増していくハードコア名盤を完成させたのです。本作を初期の到達点として、彼等は次作以降にはっきりと新たなアプローチへと向かいます。

 ちなみに『君の靴と未来』は、leave them all behind 2012で全曲演奏されています(かつてこちらのサイトでレポ書いてます)。今のところ最初で最後。思えばあの日は共演にGODFLESHとDeafheaven、さらにenvyが君靴完全再現。もはや二度と起こらないような伝説の夜でした。またこんな日が来ることを願っております。

a dead sinking story(2003)

 Mogwaiが運営するRock Action Recordsから海外リリースもされた2年ぶりの3rdアルバム。全9曲63分収録。前作『君の靴と未来』においての「静寂と解放と嘘」、「足跡の光」~「君の靴と未来」辺りの延長上にあると感じる曲が多いです。

 わかりやすく言えば、ポストロックの配合比が高くなったこと。叙情性にウェイトがかかり、楽曲は長尺化。電子音やポエトリーリーディングも増えました。何より驚くのが、この時期は高杉さんというギタリストを含めた6人編成なんですよ。

 #1「Chain wandering deeply(深く彷徨う連鎖)」からして特徴を表しています。8分30秒の尺、静と動の雄大なコントラスト、ドラマティックな流れ。今でもライヴのオープニングで演奏されることの多い曲ですが、バンドのこれからを示す曲としてインパクトを与えます。曲の後半は詩読を加えたExplosions In The Skyのごとし。

 前作を超えるためには、新たな方法を模索しての実践・変化。もちろん、以前からそういった要素は表出していました。ポストロックの隆盛、ISIS(the Band)によるポストメタルの真の勃興といった背景もある。それらと共振しつつも、ハードコアで在り続ける矜持は、所々で示しています。今でもライヴの定番曲として君臨する#6「Go mad and mark(狂い記せ)」はその象徴。中間部の “サヨナラから始まって 約束の待つときが来る 地の果てで知る 後戻りできないことを” でいつもいつも奮い立たされるのです。

 さらには#9「灰に残る意思」で”音と共に眠りにつく”人の一生を表現した12分の物語に涙する。大きな変化があったがゆえに評価は分かれますが、これからを見据えた変化に賞賛の声は多い。

Insomniac doze(2006)

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  3年ぶりとなる4thフルアルバム。全7曲で約58分収録。わたしが最初に聴いたenvyのアルバムです(2007年3月に行われたConvergeとの来日共闘ツアー期)。ついに#5「The Unknown Glow」で15分の曲に挑戦するなど、時間をかけてゆったりとした展開で紡がれる静寂と轟音。そんな彼等のサウンドは資生堂の広報まで届き、なんと#1「Further ahead of worp」は、エビちゃんこと蛯原友里さんと共にマキアージュのCMを彩りました。

 前作をさらにポストロック手法で深堀しましたってのが本作です。ハードコアの要素は全作品中で一番薄い。走るようなことはあまりしてませんし、丁寧に丹念に物語を描き出すことに尽力している印象。だからか逆に静と動の振れ幅は一番大きい。

 何よりも轟音がハードコア的じゃなくてポストロック的な文脈なんですよね。ISIS(the Band)は共鳴する存在ですが、やっぱりちょっと違うかなと。ギターの精妙な絡みと空間的な拡がりは心地よく、深川さんの叫びも大らかで労るようです(苦手な人は苦手だと思いますが)。

 叙情的なメロディの裏でボソボソと囁いたのちにドラマティックに爆発する#3「Scene(風景)」は対比の美しさを表し、#7「A warm room(暖かい部屋)」はじっくりと温めて温めてエモーションと轟音を発露する。この2曲は現在でもライヴ定番曲として披露される回数が多いので、抑えておくべき曲です。あとは冒頭で述べた#1「Further ahead of worp」の白光に包まれる感覚がたまらないですね。

 雲で覆われた灰色の空の隙間から降り注ぐ僅かな光、このジャケットが本作を象徴しています。トレードマークである轟音でさえ慈しむよう。envyが一番モグビー(Mogwai+envy)してた頃。初期ファンがハードコアな彼等が恋しいという気持ちはわからなくもないですが、わたしは最初に聴いたアルバムということもあってちょっとした思い入れを持っています。

Recitation(2010)

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 4年ぶりとなる5枚目のアルバム。3作目にあたる『a dead sinking story』からはMogwaiやISISに共振していくかのように、轟音と静寂のコントラストを生かしたポストロック/ポストメタルに傾倒していき、前作『Insomniac Doze』では俄然スケールアップを感じさせる内容で存在感を大いに示していました。

 本作ではその路線を集約しつつ、過去のハードコア要素との結合をスムーズに断行。ジャケットのようにちょうど真ん中で分断する闇と光が束ねられています。ポジティヴな印象は変わらずに強いのとハードコア要素がだいぶ戻ってきたことでの安心感があります。

 切なく鳴らされるアルペジオは温かく響き、ポエトリーリーディングは鼓膜から優しく入って心の澱をほぐす。そして、ここぞで爆発する絶叫とバンド・アンサンブル、その一音一音の連鎖、密なる結合が全てを一閃し圧する轟音へと導く。さらに心の淵を抉る情緒的な詩が添えられる、この辺りは最近のenvyのトレンドといえるでしょう。その軸はブレません。曲調の拡がり、全体を通しての物語性の高さ。

 誕生を思わせる優しく激しい#2「Last Hours of Eternity」、徐々に希望を浮かび上がらせていく#5「Light and Solitude」、ちょいとLUNA SEAの「TONIGHT」っぽくもあるポジティヴな疾走感が心地よい#6「Dreams Coming To An End」、Monoを思わせる寒々しさを纏いながらハードコアでテンポよく駆ける#10「A Breath Clad in Happiness」といった多彩な曲調が目立つ。

 なかでも、恐ろしいほどにどす黒い奈落に引き摺られていくスラッジメタル#11「0 and 1」にはかなり驚かされました。静と動の王道パターンを駆使するきらいがあった彼等だが、そうした色づけ・肉付けがジャケットのような白と黒、光と闇のコントラストを一層浮かび上がらせている。そして、ライヴ定番曲でMVも制作されている#8「 Worn heels and the hands we hold 」の“今日を精一杯駆け抜ける君に 鼓動刻む明日は来る” にまた生きる意味をもらう。

 人間の最も重々しい位置から始まり、ここまでの温かな表現力を開花させたそんな新たなenvyの一面が爆発したのがこの『Recitation』といえるかもしれません。川のせせらぎのような繊細さ、大海源のような雄大さと力強さに慈愛が加わった音色に心は傾く。美しいメロディと轟音で満たしていく本作。新旧どちらのファンをも掴みとれるはず。ちなみに#1「Guidance」では女優の奥貫薫さんが語りで参加しています。

Atheist’s Cornea(2015)

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 今や世界からもその存在を認められる日本のハードコア・バンド、約5年ぶりとなる6thフルアルバム(2015年リリース)。前作の『Recitation』はハードコアに回帰している部分もあれど、ポストロック要素が先行して温かみと光属性を強めていました。本作でもはっきりしているのは「繰り返す このエンヴィズム」の円熟研磨。

 言うなれば、激情系ハードコアとポストロックの錬金ではありますが、これまでの全てを糧にしてコンパクトに結晶化した全8曲44分は、シーンの最前線に立ち続けるハードコアおじさん達の凄みに溢れています。

 まずは、結成から22年を経てもなおハードコア続行中を印象づける#1「Blue Moonlight」~#2「Ignorant Rain at the End of the World」の一気攻めの轟き。初期の『From Here To Eternity』に収録されていてもおかしくない、パンチ力とスピード感には血が騒ぐ人も多いでしょう。

 何十年か振りに宝刀を抜いた感すらある、この始まりには思わず面喰らいました。そして、これらの疾走ハードコアにベテランの味ともいうべき哀愁が乗ってる辺りに、今の彼等が表現されているように感じます。

 以降は、近年のenvyの真骨頂であるポストロック的な側面の強い重厚さと壮大さを持った楽曲へとシフト。某ガンダムとは全く関係がない#3「Shining Finger」では、SUNNY氏がキーボード・アレンジで参加することでリリカルな側面を強化。また、sgt.の成井さんがストリングスで加勢する#4「Ticking Time and String」では、ズッシリと来る重い轟音シンフォニーからメルヘンチックな世界へと移行。ここ数年、年を追うごとに熟成されてきた詩読やメロディからは、より温かみや日本情緒を感じさせますが、それは特に#5「Footsteps in the Distance」に表れていると思います。

 さらには、現在のenvyが120%凝縮されて美点をフォーカスした#7「Two Isolated Souls」が作品のハイライトといえる輝きを放ち、「暖かい部屋」と並ぶほどに温かみと希望で満たしていく#8「Your Heart and My Hand」で締めくくります。

 通して聴いて一番に感じるのは、集大成のような貫禄を備えていること。目新しい要素は無いですが、envyのenvyたらしめる要素をとことん磨く。それが結果として、盟友であるBORISが昨年にリリースした『NOISE』同様に、この『Atheist’s Cornea』にてキャリア総括型の逸品を作り上げた印象に繋がっています。まさにハードコアが奏でる8つの絶景。

The Fallen Crimson (2020)

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 冒頭にバンド紹介で書いた激動の時代を乗り越えての5年ぶり7thアルバム。楽曲にもありますが、#6「HIKARI」というタイトルが象徴するように、希望と光を感じさせる歌詞が増量。お得意の静・動コントラストも変わらずに息を呑むほどに雄大でありますが、本作に至っては温かみと包容力をこれまで以上に感じさせます。ややダークな印象を残すのは#3「A faint new world」ぐらい。サポートメンバー3名と歩幅を合わせて、ベクトルは光属性へ確実に向かってます。

 ゴタゴタがあったからこそ、美しさと温かさと強さを兼ね備えた音になるのでしょうか。前作でも集大成の貫禄と書きましたが、本作はさらに進んだエン美学の結晶(あまり上手くいえてないな・・・)。ここまでかというヴォコーダーの多用、#2「Swaying leaves and scattering breath」ではサビで心地よく歌うという逆発明(滝さんのコーラスもある)、さらには#4「Rhythm」にて女性ヴォーカリストのAchikoさんをゲスト起用。表現方法を増やし、驚きの要素が随所に配しています。

 とはいえ、何があろうとenvyなんです。人が変わろうが、脈々と受け継がれるものがある。サポート・メンバーがメンバー以上に理解者である手練れだというのもありますが、トリプルギターのアンサンブルと復帰した深川さんの声。聴いてて、もはやenvyでしかない音像と納得させられます。

 この6人で最初につくったという#8「Dawn and gaze」は2018年に発表され、バンドの未来を照らしました。ラストを締めくくる#11「A step in the morning glow」では、儚き創造を繰り返すアルペジオともの悲しげな詩読の果てに訪れる音塊に飲み込まれる。

 4thアルバム『Insomniac Doze』よりも深まる慈愛と光。ハードコア云々よりも誰かにとっての優しさや支えになる音楽、それがenvy。そんなバンドであり続けるからこそ、envyを絶対に卒業することはできないんだと確信します。失いもした、傷つきもした、解散寸前。それでも激動のメンバー変遷を経て、新要素を盛り込みながら産み出した本作は、揺るぎない存在感を証明しています。

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