Caspian ‐‐Review‐‐

アメリカ・マサチューセッツのインストゥルメンタル・ロック・バンド。職人技ともいうべき丹念に織り上げる轟音と叙情の交錯が、鮮やかなコントラストを表出する。現在までに4枚のアルバムをリリース。

レビュー作品

> Dust And Disquiet > Waking Season > Tertia > The Four Trees


 

 

caspian2015

Dust and Disquiet(2015)

 ベーシストのChris Friedrichの急逝を乗り越えての3年ぶりの4thアルバム。メンバーは残された4人から、新たに2人加入しての6人体制で彼の分をカバー&パワーアップ。もちろん、Chrisも魂はCaspianに置いてきたはずです。

 轟音と静寂のシンフォニーで導く恍惚。オランダ・サッカーの4-3-3の如し様式美のインスト・スタイルは本作でも根幹にありますが、これまでになかった変化がみられます。ひとつめが歌声を導入したこと。PelicanやRussian Circlesも4枚目で声を取り入れていたので、Caspianもその領域にまできたということなのでしょう。その”声”に求めた活路は見事に花開き、音楽的な広がりへと繋がっています。そして、ふたつめが彼等の歴史の中でも最もヘヴィな作品ということ。身近な人間の死を経験したことで、悲しみが重さとなって表れたのかもしれません。

 わかりやすく変化を象徴する曲が#3「Arcs of Command」で、前述の2つの要素が惜しみなく入っています。鉄壁のアンサンブルで分厚い音の壁をつくり、さらにはenvyばりの叫びが入ることで彼等流のビッグバンを巻き起こしています。これだけ聴くと完全にポストメタルの領域。そして、トライバルなビートの多用に再びヘヴィなサウンドを轟かせる#4「Echo And Abyss」、前曲から一気にベクトルを変えて染みったれた哀愁をアコギの弾き語りのような形で表現する#5「Run Dry」、工夫されたリズムとエレガンスな電子音で装飾された#8「Darkfield」と作品全体のアイデアと振り幅は、過去最高といえるはず。

 しかし、それはこれまでの自分たちの積み重ねの上にあるからこそ成立すること。#2「Rioseco」や#10「Dust And Disquiet」のようなCaspian印の激しさと美しさの芸術に、やはり惚れ惚れとしてしまいます。それに加えて各々の楽曲の色がはっきりと出ている分、アルバム全体を通した流れにも納得がいく。これまでもアルバムを出すごとに進化を示してきましたが、本作においても十分過ぎる成果を示す力作です。

 


 

Waking Season

Waking Season(2012)

 近年のインスト・バンドでは抜きんでた存在感を放つまでになった、新世代轟音ポストロック・バンドの3年ぶりとなる3作目。プロデューサーには、定評のあるMatt Bayles(ex-Minus The Bear)を起用している。

 本作もまた路線として大きな変更も無く、実にCaspianらしい仕上がり。職人技ともいうべき丹念に織り上げる轟音と叙情の交錯が、鮮やかなコントラストを表出する充実の作品だ。丁寧にエレクトロを取り入れることで、麗しさと柔らかな煌きに拍車がかけられ、トリプル・ギターがもたらす荘厳な重みや迫力もまた一層スケールを広げていく。静から動へと展開するといういうMogwaiやExplosions In The Sky以降のお決まりのパターンではあるが、脇目も振らずに自分達のあるべき姿を貫きながら、しっかりと磨きをかける部分に行き届いた手入れが成されている。

 クラシカルなピアノやノスタルジックな旋律が清らかに鳴り響き、やがて湧き上がる珠玉の轟音バーストが天上界へと導く#1「Waking Season」は、まさに彼等らしい一撃。サンプリングされた声を操りながら、重層的なサウンドと共に神秘的な空間を創り上げる#2「Porcellous」~10分を超える大曲#3「Gone In Bloom and Bough」の流れにもまた大きな感動がある。どこまでも響き渡っていくような美しい轟音は、やはり心地よいカタルシスを誘うもの。

 過去最高に重々しいサウンドが襲いかかる#10「Fire Made Flesh」までの全10曲57分は、自身の音楽に対する揺るぎない想いがあるからこその説得力が備わっている。本作もまたクオリティの高い作品であるといえるだろう。

 


 

 

Tertia

Tertia(2009)

   メンバーが1人増えて5人体制となってからは初となる2ndフルアルバム。前作で既に大器の片鱗をみせつけ、ポストロック好きの間では絶賛の嵐となっていたが、本作も期待通り。いや、それ以上のできかもしれない。

 土台となっているのは、愚直なまでに貫き通した轟音ポストロックなのに変わりはない。音の形式にしろ進行にしろ大きな変化はなしで、儚げな叙情を湛えたメロディの五月雨と、まるで嘆き叫ぶかのように爆発する轟音を大胆かつ緻密に行き交う展開で否応なしに引きつけ、目頭を決壊させていくスタイルを前作からそのまま保っている。けれども一段と音の引力とダイナミズムが強まっているように感じられ、前作以上にその世界観が美しく思えるのは、そのコントラストの塗りわけが一層際立ったからだろう。美しさと激しさを兼備したツインギターは迫力を増し、剛・柔の表情がさらに豊かになったベースライン、パワフルな躍動感が強まったドラミングと相まって強烈な磁場を築いている。

 加えて、Saxon Shore的なピアノやグロッケン等の頻度が増えたことで、仄かな彩りと繊細なエモーションを与えていて、神秘的な雰囲気を助長。それに呼応するかのようにドラマティックな展開で心身を昂ぶらせ、魅了していく。そしてまた、絶妙な憂いを孕んだ荘厳なハーモニーがイマジネーションを喚起していくところも良い。己の音風景を熟成していくかのごとく、前半から後半にかけて音に麗しさが宿り、優しく色味をつけていくようなアルバムの流れも個人的には好みである。

 ひとつひとつの楽器の鳴らす音の深い次元での交錯、そしてその深遠な共鳴とハーモニー。カスピアンというバンドの力を再び思い知らされると同時に、多幸感と興奮が天から降り注いでくるかのような作品である。1stと並んでこちらもじっくりと聴いて欲しい。


 

The Four Trees

The Four Trees(2007)

   アメリカ・マサチューセッツのポストロック4人組による1stフルアルバム。ツインギターにベース、ドラムというシンプルな編成なのだが、繰り出される轟音と叙情の鬩ぎあい、そこから紡ぎゆく荘厳な音世界に感覚がすっと引き込まれ、魅了される。彼等の音楽性は、そのような切ない情感が漂う静パートから、轟音が吹き荒ぶ動パートへの移行を基本としていることから、MogwaiやMonoを代表とする轟音ポストロックと呼んで差し支えないだろう。

 メランコリックなアルペジオの調べに硬質なリズムがゆったりと重なり合いながら、憂いや切なさといった負の情感を徐々に巻き上げていき、爆発。大きなウネリが激しさを増しながら混沌とした轟音風景を描き出し、歓喜と昂揚を桃源から運んでくる。どの曲もセンチメンタルな情感を残す一方でしっかりと激しく心身を突き動かすようなカタルシスへと繋げており、早くも話題になったのには納得だ。

 また、時には敬愛しているというシガー・ロスばりの幽玄なムードで包み込み、ISISばりの三次元をのたうつ轟音を駆使し、ドラマティックに世界観を彩るためにこの手のバンドとは一味も二味も違った”聴かせる力”を持っているように思う。独創性という点はやや気迫ながら、破壊力と美意識を持ったサウンドは壮大なスケール感を伴っていて、Explosions In The SkyやThis Will Destroy Youなどとタメを張れるレベルといえる。

 ノスタルジックなメロディのたゆたいが、やがては至福の轟音へと膨れ上がっていく#1、一段と美しいヴェールに包まれる#2、クリアな旋律が暗い地の底を漂うような寂寥感を残しながらも闇を焦がす炎のグルーヴへと発展する#4、パワフルなドラミングが何度も炸裂の瞬間を煽動する#7。それらの佳曲を軸として、しっかりと世界観が構築されている。

 非常に劇的でドラマティックな世界、重層的ながらも繊細な美しさが整然と佇むサウンドスケープはポストロック好きのみならず、数多の人を巻き込んでいける引力を持っているように思う。デビュー作にして確かな力を感じさせる快作。EITSの轟音耽美系が好きな方ははまる人が多そう。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でGrumble Monsterをフォローしよう!

スポンサーリンク


▼ フォローする