【アルバム紹介】wombscape、ハードコアをアートへと昇華する気概と音

都内を中心に活動するポストハードコア・バンド。メインコンポーザーのRyo氏の世界観を具現化したアート性の高いサウンドで、独自の道を切り拓いている。2015年9月に完全自主制作の1stミニアルバム『新世界標本』をリリース。

本記事はこれまでに発表した2作品の感想を書いたものです。

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アルバム紹介

2nd DEMO(2011)

 負の感情があぶり出す絶景。都内を中心に活動するカオティック・ハードコア・バンドが発表した2曲入りの2nd Demo作。weeprayやjuki等と親交が深く、またライヴ活動も精力的に行っています。

 デモ音源ということもあって2曲のみの収録となっているが、バンド自身のポテンシャルを示すには十分な作品です。一聴して、まずはそのハードコアを突き抜けるその悲痛さと破壊力を持つ音が鼓膜に襲いかかる。

 カオティック・ハードコアにも接近する変則的な展開から、ポストロックのような叙情性と飛翔感を携えており、激烈なサウンドの中にもその美しさが妖しげな光を放つ。

 悪夢にでもうなされる様なカオティック・サウンドを展開する#1「蝕の刻」は、冒頭から非常にインパクトが大きく、ボストン系の前衛的ハードコアの要素を軸にしながらも後半ではギアを落とし、悠久の闇へと沈澱していく。

 ひねくれた展開を見せる演奏隊もさることながら、全身から感情を絞り出すように叫び続けるヴォーカルがとても印象的。4分弱というコンパクトな中で、相当な狂気を詰めこんだ楽曲に仕上がっている。

 対して9分を超える大曲となった#2「嗚咽する空の内側に」では、ポストロックをベースとした叙情性が楽曲を大いに引き立てており、階段を一歩一歩着実に上がっていくかのようにじっくりと展開していく。引き合いにEITS等も出されるようだが、やたらと虚無感を帯びたメロディが負の情感と哀切を深めていく様は彼等の個性。

 終盤にきてエモーショナルに歌い上げる様は、堂々とした魅力を感じるし、孤独感が襲ってくるようなアウトロもまた良い。個人的にはこの曲の方が好み。

 対照的ともいえる2曲が収録されていますが、基盤には狂性と陰りを持ち、ハードコアを押し広げようという気概も見えます。

新世界標本(2015)

 東京を拠点に活動するポストハードコア4人組の完全自主制作の1stミニアルバム。前回のデモ作が五輪1回分の4年前だから、ずいぶんと時を経てのリリース。

 端的に説明すれば、作詞作曲からアートワークと手掛けるVo.Ryo氏の脳内世界の具現化だが、興味深い作品となっている。

 音楽的にこれまでの延長上にある感じと捉えている。その上で混沌具合に拍車がかかってるなあというのが第一印象。暴・狂・変・美・快・奇・哀・悲・愛が様々に交錯しながら全7曲約24分をかけた『新世界標本』の創生。その全てに意味があり、その全てに表現者としての感情が宿る。

 無軌道な暴走で病的かつスリリングな衝動をもたらす#3「真っ白な狂気」、本作中で最も混沌とした表題曲#4「新世界標本」など強烈な楽曲を核にして作品は進められていく。ただ、この1ページ1ページをめくるにつれて五感に重く響いてきます。

 かつてのデモ音源と比較するならば、俯瞰した視点で作品を描いているかなあという感じを受けるでしょうか。怒りと激しさにエネルギーに力を注ぐ形から、美的表現の洗練。ただひたすらにドラマティックな#6「正しい愛が正しい絶望に変わるまで」なんて、彼等からこんな曲が生まれてくるとは思いもしなかった裏切りの1曲でしょう。

 そこからさらに静謐な表現で余韻を残す#7「叙文」も驚き。しかし、これらが1本の線として繋がってひとつの物語を成す。その複雑で奥深い表現は十二分に個性的であるなあと。

 Converge以降の一大事業であるハードコアをアートへと昇華するという作業に、このバンドも挑んでいると勝手ながら思っています。それでも、『新世界標本』という大それたタイトルは聴いてると妙に納得する。

 「ざまぁみろセカイ、震源地はここだ」と言わんばかりの主張が存分に表れている作品かと思います。

お読みいただきありがとうございました!
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