KCHC(柏シティ・ハードコア)の代表格だったヌンチャクの元ヴォーカリストでもある向達郎が、2002年初頭に新たに結成したバンド。
2005年にセルフタイトルの1stアルバム『kamomekmaome』を発表し、ハードコアとプログレッシヴロックの痛烈な合体を果たす。07年の2ndアルバム『ルガーシーガル』では曲自体をコンパクトにしながらもその衝撃はさらに増幅。以降の2作品でも彼等は前進を続けています。
本記事ではkamomekamomeのオリジナルアルバム4作について書いています。
日本語詞のハードコアとして、彼等の存在感は貴重。2013年リリースの4th『BEDSIDE DONORS』以降はアルバムは出てませんが、2022年にSWARRRMとのスプリット作を発表しました。
アルバム紹介
kamomekamome (2005)
全10曲約67分収録1stフルアルバム。プログレッシヴ・ロックとハードコアの混合体。ヘヴィなリフから滑らかなメロディまでを操るギターに、うねりまくるベースと複雑精微なリズムをものともしないドラム、どこか病んだ詩が変幻自在の混沌世界を生み出します。
10分を超える2曲を保有し、頭3曲以降はわりと長尺曲が多いのも本作だけの特徴。静と動をくねくねと行き交う構成もさることながら、ハードコア譲りの激情と破壊力が楽曲の根底を支配。
ストリングスで情感を出したり、アコギで穏やかで落ち着いた空気が流れたり、いきなり4つ打ちが飛び出したりと次々と変遷していくフックを効かせまくった展開には本当に舌を巻く。しかもそれはどこまでも広くて奥深い。本当に何が飛び出してくるかわからない。
底知れぬ資質、卓越したテクニックが奇怪に歪んだ、それでいて音から豊かな風景を連想させてくれる。特にプログレシッヴな感性を光らせた中盤#4~#6辺りなんて、次々と情景を切り取って貼り付けていくもんだから、気付くと置いてきぼり。
雑多な要素を巧く混在させて破壊と美を見事に体現した作品であり、既に貫禄は十分という完成度です。
ルガーシーガル(2007)
約2年半ぶりとなる2ndアルバム。10曲約38分とスッキリとコンパクトな仕上がりとなっているのが前作からの大きな違いでしょう。長距離ランナーから短中距離への転向。バンドの性質的にもこの転向は完全に合っています。
圧倒的ブルータリティを背に猛進するハードコア、あくまでストレートな音象が表立っています。その上でキャッチーと取れるほどのメロディラインが所々で顔を出し、変拍子が裏で暗躍するという濃厚なスパイスが効きまる。
曲自体を短くしながらも多彩さと複雑さをギュッと押し込んでおり、エモーショナルな螺旋に飲み込まれていく。3,4分前後の曲にこれだけ感情を凝縮しまくっていて凄まじい。
猛り狂う炎が豪快に燃え広がっていく#1「メデューサ」、緩急を効かせたエモチューン#2「クワイエットが呼んでいる」、独特の鋭さと勢いが特徴的な#3「スキンシップ編」、#6「震度OM」辺りがとてもカッコよい。冒頭からベースがリードし続ける#8「化け直し」はライヴ定番曲のひとつ。
このストイックな佇まいには脱帽だし、ジェットコースターにでも乗っているかのようなスリリングな展開は病み付きになります。2ndアルバムにして研ぎ澄まされた感性が見事に発揮された秀作。
Happy Rebirthday To You(2010)
各地で絶賛された『ルガーシーガル』に続いての約2年半ぶりとなる3rdフルアルバム。一時的に脱退していたSWITCH STYLEのベース&絶叫コーラスの中瀬賢三氏が復帰しての制作。
百花繚乱プログレの重々しい大海源である1st。メシュガーよろしくの大胆ビルドアップを図った2nd。本作ではさらなる切磋琢磨がラウドで情緒的に、また直情的な疾走感を伴うことで作品を上塗りしています。
大地を力強く踏みしめながら全速力で走り、過剰なまでのドラマ性を伴って耳を劈く爆撃のようなサウンドは、局面を変幻自在に打開しながら大きな一撃としてぶちかまされます。
瞬間瞬間に込められた徹底的にエモーショナルな音を放出しながら、多彩なフックを入れてアグレッシヴに展開していく。その1曲1曲の密度はあいかわらず恐ろしいぐらに濃い。けたたましい咆哮から情緒的に歌いあげる部分まで、とかく感情を奮い立たせることに長けた向井氏のヴォーカルの圧倒的な存在感。
そこに中瀬氏の絶叫コーラスが壮絶に交わることで、パンク的な熱が見事な形で反映されています。荒涼とした世界に悲哀と虚無の雨を降らせながら核心を突くかのような日本語詩も、心の闇をあらぬ角度から抉り出していく。とてもリアルで美しい。ラスト#10「Happy Rebirthday To You」は、ハードコアの福音ですらある。
苛烈だが、ただ過激なだけじゃない豊かな情緒が本作には宿ります。人間の神経を直に刺激する多彩な感情表現。彼等がもたらした決死の10曲35分の本作は、ハードコアの新たな指標となりうる可能性を持っています。
BEDSIDE DONORS(2013)
3年ぶりとなる4作目。結成から10年以上が過ぎ、そろそろ腰据えて落ち着いてくるかと思えば、とんでもない。前作から再び加入したベースのKENZO氏とのツイン・ヴォーカル体制を完全体に持っていき、捻りの効いた変則性を保ちながらも、ハードコアの直情的な表現と衝撃力が追及されています。
殺傷性と叙情性の両刃使いによる複雑な構成がドラマ性を加速させる#1「ナイーブレターズ」に始まって、壮絶なハードコアを轟かせる#2「例え言葉は冷静に」、理性をぶっ飛ばす獰猛なリフとリズムの応酬#3「頭の中お大事に」と電光石火の如き序盤の速攻に早くもKO寸前。
ズバッとコーナーに投げ込む剛速球、切れ味の鋭い変化球を巧みに投げ分けるのに加え、緩急と展開の妙は流石。それに聴き手を捩じ伏せる熱量と苛烈さは、過去最高レベルと感じます。向達郎氏の詩世界も変わらずに独創性の塊。言葉のひとつひとつが刃のごとく突き刺さる。
疾走感の中にナイーヴな情緒が乗せられる#4「劇団ノーサンキュー」、シンプルなタイトルの割にマスコアばりの構成で切れ味抜群の#5「氷」も鮮烈。やはり、高い演奏力に裏打ちされた楽器陣のアンサンブルは際立っているし、曲の密度は恐ろしいぐらいに濃い。
その中で、#7「BEDSIDE MANNERS」や#9「瞬く街」といった曲ではしなやかなメロディが彩っており、ハードコアの突進性と上手く調和している。
ハイライトともいえるBRAHMANのTOSHI-LOW氏、SLANGのKO氏、元FC FIVEのTOMY氏がコーラスとして参加した#10「手を振る人」では、クライマックスにふさわしいテンションで突き進む。まさに嵐のような衝撃でこの界隈のファンにとっては堪らない締めくくり。kamomekamomeは決して裏切らない作品を届けてくれます。