2017年結成のヴィジュアル系を出自にデスコア→マスロックへ移行したロック・バンド。バンド名のDIMLIMは薄暗いという意味の“DIM”と、歯車という意味の“LIM”を組み合わせた造語から成る(BARKSのインタビューより)。
幾度かのメンバーチェンジを経て初期は5人組として活動し、2019年からは3人体制へ移行。2022年2月末に解散。それでも2018年の1stアルバム『CHEDOARA』、2020年に2ndアルバム『MISC.』を発表し、シーンに確かな爪痕を残した。
本記事ではフルアルバム2枚について書いています。
アルバム紹介
CHEDOARA(2018)
1stフルアルバム。全12曲約40分収録。18年6月に新しい5人体制に移行。その5人で制作した最初で最後のフルアルバム。人間の”喜怒哀楽”をテーマにしたコンセプチュアルな作品です。
それぞれの感情を紐解くように曲が配置されているという。CHEDOARAというタイトルは、喜怒哀楽からの造語だそうです(激ロックのインタビューによる)。
音楽的には、DIR EN GREY以降のヘヴィネス/エクストリーム化していったV系重低音産業に属すといえます。おどろおどろしさや痛み、ボクの自己嫌悪と世への反発が歌詞に綴られる。
そして、京さんに強く影響を受けたというVo.聖さんの多彩な声が核を成している。グロウル、ホイッスル、ハイトーンのビブラートと圧倒的なクセの強さを表し、凶暴と情熱を曲に吹き込んでいます。
作曲面でいえば本作よりメイン・コンポーザーが烈氏(Gt)に変わったとのこと。デスコアを基本成分にしながら、しなやかにDjentやヴィジュアル系的耽美さが組み込まれる。
デジタルなタッチも有意義に用いながら、時に猛獣のようにうねり、時に蝶のように優雅に舞う。
EP『VARIOUS』はもっと忙しない印象でしたが、本作はクリーン・パートがさらに尊重されたつくりという印象は受けます。色で例えるなら黒と赤の入り混じったパレットが、時たま白に近い灰色の瞬間が訪れるような感じでしょうか。
曲単位で挙げるなら奇形の意を持つ#3「Malformation」が本作では一番好み。Djentの影響下にあるツインギターを下地に、流麗かつメロディアスに仕立てていますが、歌詞を読めば生まれながらにして残酷さを請け負わざるを得なかった少年の苦しみが描かれる。
さらには、母に必要以上に愛を欲する言葉を叫び歌うエクストリームなメタル#5「愛憎につき…」、初期の完成系のひとつといえる音と感情のジェットコースター#9「シガラミ」と強力な曲が揃います。
再び激ロックのインタビューを引用すると、#11「vanitas」が作品のキーとなったと話しています。確かにこのクリーンな音使いや構成は、バンドにオシャレ感と涼やかさが加えている。
これが翌年にリリースされるシングル曲「離人」に繋がり、さらには次作『MISC.』に繋がる種となっていたとは。それでも、ここから『MISC.』への変化は予想がつかないものだと思います。
結成以来に表現してきたエクストリーム・ミュージックはここでいったん完成系を見ます。前述したインタビューで2018年当時のヴィジュアル系シーンに、”音楽が二の次になっている”と喝を入れ、自分たちには信念があると自負する。
その通りに単なるヘドバン煽動事業で終わらせない、表現者としての矜持が『CHEDOARA』には貫かれています。
MISC.(2020)
2ndフルアルバム。全12曲約42分収録。2019年8月にメンバーが2名脱退しており、3人体制へ移行。#1「We’ve changed.NOW IT’S YOUR TURN NEXT」というタイトル通りに高らかな宣言と挑発。
音楽としてはまるでBring Me The Horizonのごとき転身です。ラウドロックの剛と重による武装をやめて、CHONを思わせるトロピカルフレーバーの効いたマスロックへの変化。黒からカラフルへ。インサイドにゴリ押しでダンクばっかしてたのが、華麗な3Pシューターになったような驚きがあります。
グロウルやホイッスルは鳴りを潜め、ヘヴィなサウンドは極限まで削ぎ落す。クリーンを主体に編み上げて淡麗かつ涼感を伴うサウンドへ。随所で顔を出すエレクトロニクスは、煌びやかさよりも冷感に重きを置いた感じで配合され、変化に加担。
これまでのラウド/メタル路線で培った技術や要素は端々に感じるも(特にドラムで)、テクニカルな演奏の基で質を変えて音に染みついています。曲自体は細かく濃厚な密度と忙しない展開にも関わらず、洗練されたお洒落さと軽やかな聴き心地を両立。
でも、間違いなく熱量は上がっています。それはヴィジュアル系特有の歌唱に依るところが大きい。癖の強さとハイトーンで過剰に煽動。逆に聴き手にとっては大きなアレルギー要因でもあるのですが、このヴォーカルの存在感こそが他の差別化/異化の一番の理由でもあります。
サウンドを器用に変化させたのだから、ヴォーカルを薄めて広い間口を確保するという選択肢があった中で、敢えてそうしない。楽器隊の音が引き算されている分、むしろ存在感は際立っています。
本作で1曲あげるならやはり#5「What’s up?」。構造的な軽量化とカジュアル化もさることながら、手数多くスピード感をもたらすドラム、クリーンとタッピングフレーズの絶妙なコンビで攻めるギター(要するに一番CHONっぽい)、本作一のメッセージと熱のこもった歌。何度聴いても新しさと刺激に満ちている。
背後の雑音は払い除けて、自分たちの信じた変化を、自分たちの新たな流儀を貫いて進んでいく。あまりに大胆ですが、これまで培った要素を変質させながら、度肝を抜く作品を創ってしまいました。
変わってしまったという嘆きよりも、遥かに多くの賞賛が本作の良さを物語る。『MISC.』による挑戦はそれほど大きな成果となって表れています。