メインコンポーザーであるGt&Vo担当のSO氏のソロ・プロジェクトとして2012年12月に誕生。その後に共同制作者として学友であった歌唱・歌詞担当の川光俊哉氏、ベースのマタロウ氏(19年に脱退)を加えて活動。
”Thinking Man’s Metal from JPN”を掲げ、ISISやCult of Lunaといったバンドに影響を受けた1st EP『ランタナカマラ』を発表します。その後はバンドとしての活動を本格化させ、ライヴも行うようになっていく。
2021年末にメンバー交代・追加の発表があり、Kensuke氏(Ba)、Hamaguchi氏(Gt)を迎えた4人体制へ移行していたことを明かします。2022年11月に1stフルアルバム『灯台へ』をリリース。ポストメタルという括りから解き放たれたロック・サウンドへとモデルチェンジしました。
制作に注力しているためライヴの本数は少ないですが、自主企画の”plant”で Heliostropeや明日の叙景と共演。2019年には韓国のブラックメタル+ヴィジュアル系バンド、Madmans Espritのサポートを務めています。
本記事では1st EP『ランタナカマラ』、1stフルアルバム『灯台へ』の2作品について書いています。
アルバム紹介
ランタナカマラ(2016)
1st EP。全5曲約23分収録。”Thinking Man’s Metal From JPN“を掲げるバンドの初作です。ISIS(the Band)、envy、Meshuggah、Toolといったバンドからの影響を公言するメインコンポーザー・SO氏を中心に曲の根幹を制作。
舞台脚本家兼小説家として活動する川光俊哉氏が歌唱・歌詞を担当する。当時のベーシストはマタロウ氏が在籍しての3人体制でした。
本作の5曲を大きく分類すると1分強の導入曲(#1と#3)、7~8分の長尺ポストメタル(#2と#5)、約4分のハードコア+メタル(#4)の3種。ポストメタルに紐づけられるとはいえ、静から動へ橋渡す構造よりもテクスチャーへのこだわりが感じられます。
どの曲にも定型化しない”拡がり”がもたらされ、アルペジオの連なりから細かなプログラミングとシンセの厚いレイヤー、リズムの組み込みまでが丁寧に練られる。
さらに邦人フィルターを通した創造物であることを明確化している日本語詞。詞というよりは詩という言葉が適すのは、川光氏によるものです。
全体通して死について表現している印象ですが、定かではありません。ポストメタル寄りの楽曲(#2と#5)では花の名前が意識的にピックアップされているのも特徴。
また彼の歌唱はenvyを彷彿とさせるハードコアに根差したスタイル。暗く読み上げる詩の朗読、熱情を込めた叫びの対比が感情と曲の振り幅を大きなものとしています。
heaven in her armsの「声明」のオマージュかとも感じる#1「図書館の葬列」を冒頭に、代表曲と謳う#2「鳳凰木」がCult of Lunaからヒントを得た近未来感あるポストメタルを奏でる。
容赦ない雨風のように刻みのリフと絶叫で畳みかける#4「アルビノの流星雨」は、激しいとはいえ本作で最もコマーシャルな曲といえそう。
ラストを飾る#5「華燭に抱かれた天文台」ではポストメタルの波動にどこかゴシックメタルのような雰囲気が落とし込まれている。
2017年に本作のリリース・インタビューを弊ブログで敢行。SO氏によるセルフ・ライナーに勝る言葉は無く、全5曲の連奏と連想の構造を丁寧に解説していただいています。ぜひとも読んで作品に浸ってほしい。
灯台へ(2022)
1stフルアルバム。全8曲約38分収録。まとまった音源としてのリリースは実に6年ぶり。SO氏と川光氏以外のメンバーは交代しての4人体制(ドラムはex-GraupelのJulien氏がサポート)。
2019年1月のリリースとなるシングル曲#4「ネオンテトラ追放」の変化は驚きが大きく、それに至った詳細は激ロックのインタビューで語られています。
本作は「ネオンテトラ追放」の趣向を継承するもの。ポストメタルは概念に押しとどめ、ヴィジュアル系イズムが侵食。そしてプログレッシヴ・メタル~Djent、ハードコアにオルタナやアニソン感が調和する。
象徴すべきは“口ずさめるようになった”ことでしょうか。SO氏による歌が本格的に軸となり、川光氏による朗読&叫びと共鳴することで新たな層へと波及する魅力を創出しています。
キャッチーさと疾走感は#6「サバンナ」を除いて意識づけられる。展開過多でも滑らかな加速が昂揚感を失わせない。また鍵盤や電子音のエディット、シンフォニックなストリングス・アレンジが前作よりも目立ちます。
それでも馴染みやすいロックへの安易なトリミングではなく、ポストメタル由来の重低音、メタル的な煽情性にギターソロがでフックとして機能。変種の邦ロックというポジショニングも担える存在感があります。
鮮烈なネオンのごとき光彩としなやかな強度が合致する#2「地平線」や#5「灯台へ」、メロスピ化したLUNA SEAと評された#7「ユニコーン倒壊」とユニークな曲が揃う。
唯一の長編である#6「サバンナ」はポストメタルを意識して制作した曲だそうですが、近年のVampilliaとLa’cryma Chrtistiのマリアージュのようでもある。SO氏の声質は、ラクリマのTAKAさんに似ている気がするのは私だけでしょうかね。
歌詩に目を向けると、オープナー#1「ポルピタポルピタ」に”新しい天文学の胎動を聞け 物語は始まる“というキーワードが出てきます。天体/天文から派生していく物語らしく、全8曲の中で星や光、月などの言葉と関連語が頻出する。
思えば前作の締めくくりが#5「華燭に抱かれた天文台」であり、EPからの連続性を伺わせます。さらには日本語が並ぶ中でディエス・イレやストレイシープ、マザーグースといった言葉がポンと入ってくる巧みさ。川光氏にしか出せない味があります。
#3「ウタカタ」にはChildren of Bodomっぽいキーボードが入り、#7ではSEX MACHINEGUNSのAnchangを思わせるシャウトも登場。もっとあるだろう小ネタを探していけることも本作の醍醐味のひとつでしょう。ただ、どこかにあるように思えてどこにもない音楽に昇華しているオリジナリティがあります。
何よりもBandcampの声明が今のlantanaquamaraを物語っている。”We formed as a Post Metal band, But now we are just a Rock band = わたしたちはポストメタルバンドとして結成されたが、今はただのロックバンドだ“と。