ミック・バー(Gt,Vo)、コリン・マーストン(Gt)を中心に2007年に結成されたポストブラックメタル・バンド。ほぼ1年周期ぐらいのペースで作品を発表しており、2023年時点でこれまでに12枚のスタジオ・アルバムと3枚のEPをリリース。
本記事では1st~3rdアルバムの3作品について書いています。
アルバム紹介
Krallice(2008)
1stアルバム。全6曲約61分収録。ポストブラックメタルという言葉が出てくる前段階に登場したクラリス。特徴的なトレモロ地獄といわれるリフの洪水は、すでにこの頃から形になっています。
シューゲイザー的な美麗さや幻想性をまとったトレモロ、ブラストビートを交えながらとかく走りまくるドラムが鬱々とした世界の支配者として君臨。
打って変わって狂気を剥き出しにする金切りスクリームがエモーショナルに残酷を彩っています。基本的には長尺ミニマルな感じで、ヴォーカルよりもインストパートの方が多数派を占め、多少の変化を伴いながら進行していく。
Wolves In The Throne Roomから禍々しさや残忍さをほどよく抜き、森の奥底から運んできたかのような鬱々としたダークネスと神秘性が交わっています。
彼等もまたブラックメタルの中に新しい価値観を芽生えさせた重要な存在。
Dimensional Bleedthrough(2009)
2ndアルバム。全7曲約77分収録。本作からベーシストが新たに参加していますが、前作で見せた凄まじいトレモロの嵐と猛烈なビートを主体としたスタイルに変化はありません。
ヒステリックな感情を巻き上げながら昇華するトレモロによる幻想的黒地獄。少しヴォーカル・パートを減らしていますが、静・動や緩急による展開の妙・ドラマティックな揺り動かしが巧みになっています。
ブラックメタルのエグイ切れ味を意識的に包むように、儚さや悲愴感を打ち出すメロディが独特の中毒性につなげている。
19分にも及ぶラスト#7では鬼気迫るアグレッシヴな作風で、荒涼とした風景を描きながらも、寂寥感あるメロディがドラマティックな美しさを浮かび上がらせる名曲。
苛烈でありながらも、たおやかで美麗である独特の音像はよりミステリアスな魅力を放っています。
Diotima(2011)
3rdアルバム。全7曲約68分収録。トレモロ・リフに生死をかけるスタイルに全く揺らぎません。
激流の如きトレモロが様々なものを巻きこみながら空間になだれ込み、時にメロウさを主張したがるベースがそれに加勢、さらにブラスト・ビートを猛烈に叩き込んで飛翔し続ける。
その音楽軸自体はやはり強烈ですが、本作では力強さと哀感をさらに増しており、今まで以上に緻密な構成を施すことでプログレッシヴに開けていく印象が強い。
メロディックなギターフレーズが細やかに配されたり、ダウナーなパートに突入したり前2作品と比べてもスリリングな起伏に富んでいます。
ブラックメタル方面への推進力を感じさせるヴォーカルの表現力の向上もポイント。特にタイトルトラック#4の泣きの前半から激しさを増してプログレッシヴな構成の中で駆けあがっていく様はシビれます。
伝家の宝刀のトレモロを主体にしたマンネリズムの中で、細かなアレンジと展開を練る事でさらに上の興奮を提供していて本作でもその実力を示しています。