発表になった時は一部地域にて歓喜の雄叫びが聴こえたことは想像に難くない。あのメルヴィンズがフジロック’09以来の再来日。ツアーとしては実に12年ぶりとなるそう。オルタナティヴ・ロック/ヘヴィロック界隈で彼等の存在感は未だに絶大です。
共演はこちらもヘッドライナー級のHigh On Fire(Vol.5、Vol.14でトリとして出演)。ドゥーム/ス トーナーロックの領域からモーターヘッドのような爆走メタル化を図って進化する怪物バンドである。
この両巨頭だけでもすごいのに、変態生産地として最近注 目を集めるニューヨーク・ブルックリンから登場した激ドゥームバンドのUnearthly Tranceが初来日でヘヴィロック三昧の夜にさらなる燃料を投下。不足どころかお釣りがくるラインナップです。
ちなみにわたくしは1週間ちょい前に買って整理番号が1○番だったこともあり、最前列でヘヴィな宴を思う存分満喫するコースを選択。重音祭を贅沢に味合わせてもらいました。
ライブ感想
Unearthly Trance
18時45分きっちりにUnearthly Tranceが登場。最近のおもしろいミュージシャンが多数登場しているブルックリンから登場したまさかのドゥーム・トリオです。
名前は3年前から知ってる割 に全く音源を聴かずじまいでライヴを見たのだが、かなりヘヴィな音を轟かせていてズシズシ内臓にダメージが来た。鉈のように重たいリフとリズムがゆっくりと這うように鳴らされ、歌はスラッジ寄りの絶叫で絶望を送りこむ。
まるで暗く淀んだ光景を造形する儀式の様なサウンドなのだが、意外とスピーディなパートや叙情的なソロを取り入れたりもしていて、ドゥームという範疇からの脱却も見られる。しかし、威圧感や絶望感は半端なくて三半規管が ひたすら揺さぶられ続けた35分間だった。時間は短かったけれども、今日のラインナップの中では一番にヘヴィと暗黒を感じたアクトであった。
High On Fire
2番手はHigh On Fire。「Speedwolf」を掻き鳴らして始まったショウもドゥーム/ストーナーエンジン搭載の爆裂ロックで牽引する。マット・パイクは9弦ギターを的確に操りながら爆音を奏でながらダミ声で絶叫、リズム隊も加速力と重厚さをエンジンに投下していく。
続けざまの 「Frost Hammer」では問答無用の爆音ロックで全てのものをなぎ倒す。分厚いリフと加速度の高いドラムの刻みが強烈で、どんどんと昂揚感を高めてくれる。この力強さとダイナミックさ、それにアンサンブルの妙。トリオ編成ながら研ぎ澄まされている。
最新作『Snakes For The Divine』ではモーターヘッドへの傾倒やメタル要素を増大した印象があるけど、この日はメルヴィンズを意識してか重厚仕様という感じがしました。ヘヴィで遅めの曲が多くて、うねりまくる「Blood From Zion」やドゥームかつサイケデリックな色彩感がある「Bastared Samurai」辺りを披露。
4thからは勢いのある「Rumors of War」や「Turk」辺りを演奏していたが、3rdからは覚えてる範囲だと1曲も演奏してなかったと思う。近年の彼等を象徴している様な 「Devilution」や「Fury Whip」等もなかったが、扇情性や衝動性はどの曲も強烈に有している。
豪腕だが繊細な音の積み重ねもちゃんと意識されてて、酩酊よりも直情的に感情を煽るこのサウンドは体を突き動かされる。熟練された上での強固なロックの塊。それにマット・パイク先生がMCでニコニコしゃべっていたことに和まされたし、オープンなバンドの姿勢には驚きです。
ラストの「Snakes For The Divine」は出だしから文句なしのかっこよさで観客を煽り続けたのが特に印象に凝っている。不満といえば、演奏時間が45分ほどと短かったこと。いつもトリで来日しているのだから1時間は与えて欲しかったですね。
しかしながら、前身の神バンド・Sleepとはまた別の存在感でオーラを放つHigh On Fireのパワーを体感できた貴重なライヴでした。
Melvins
21時前から始まった大トリはもちろんMELVINS。83年の結成以来、ヘヴィなサウンドとユーモアを織り交ぜた展開でアメリカのヘヴィロック・シーンに大きな貢献を果たした重要なバンドです。わたしはフジロック’09のホワイトステージで目撃しましたが、その痛烈なライヴは今でも焼き付いているほど。
まず出てきた時の格好に驚いたのだが、中世ヨーロッパ的というか森の隠れ家に住んでいそうな民族的な格好し てて驚く。さらにキング・バゾの髪型は間近で見るとヘヴィロックの歴史が全て詰まった威厳すら感じられる(笑)。
まあ、そんな冗談はさておいてライヴは やっぱり強烈すぎて悶絶。フジロックで見た時よりも遥かにダイレクトに伝わってくる地鳴りのような轟音にビリビリと震えを覚え、体中が熱くなる。
ツインドラムが完璧なシンクロで一糸乱れぬ叩きあい、バゾのギターが吠えては歪みまくりのジャレド・ウォーレンのベースも恐ろしい音圧で応戦。それをユーモアを織り交ぜながら絶妙な展開で発展させていく。スタートの「The Water Glass」からメルヴィンズの流儀を感じさせます。中盤からの掛け合いでは陽気に楽しめる。
その後は「Evil New War God」「Amazon」でヘヴィにヘヴィに突き進み、強烈なインパクトを残す。やっぱりメルヴィンズはかっこええと改めて感じた次第である。しかし、バゾ御大のギターって簡素なエフェクターだけであの音出してて、そのことにさらに驚かされてしまった
セットリストに関してはツインドラム編成を取って以降の近作3枚からの曲がほとんど。当然、最近の曲も破壊力とダイナミズムが半端なく「Talking Horse」には痺れたし、陽気なコーラスワークと多彩な展開がライヴだとさらに映える「The Kicking Machine」等はとても魅力的であった。
近作のメルヴィンズは凝ってるけどストレートに響く印象は強い。ただ、やっぱちょくちょく披露されたり古めの曲が盛り上がっていたのは確か。フジロックでも体感した「Anaconda」のグルーヴはやっぱり圧巻だったし、軽妙な蠢きをみせる「Let It All Be」も渋ーく光っていた。
これで「Zodiac」とかヘヴィロック界の宝である「Boris」とかやってたら失禁してたかも(笑)。ラストはフジロックの時と同様に「The Bit」が妖しくヘヴィな衝撃で空間を圧しながら終了・・・かと思ったら、バゾの柔らかなギターストロークをバックに4人のメンバー全員が歌う「Okie From Muskogee」での締めくくり。
ベーシストのウォーレンが客席に飛び込んで客と肩組んで歌うなどの一幕も見られ、ピースフルな空気を充満させての幕引 きとなった。決して音の厚みだけで生き残ってきたわけではなく、エンターテイナーとしてライヴの魅せ方を承知しているのはさすが。わたくしの年齢を越える キャリアを誇ってるのは伊達じゃない。ユーモアとダイナミズムが存分に発揮されたヘヴィロックの重鎮の最高のライヴであった。
ちなみにグッズは色々とあったけど、Melvinsのシャツはなくてポスターが売ってた。最後にMelvinsのCody Willis(左のドラマー)のドラムスティックをちゃっかりとゲット。近くに向かって投げられたのを手伸ばしてしっかりと掴むことに成功。今回のDOJOがより想い出深くなったのであった。