
2024年版に続き、2025年も継続して同内容のものを新たに定期更新していきます。2025年版は読んだ本一覧とし、基本的には読了したものを全部載せていきます。近い内容のことはX(旧Twitter)に書いたりしますが、ここでしか書かないこともあるので、お時間あるときにお読みいただければ幸いです。
”読書のお供に”なんて言うつもりもありません。こういった本を読んでるんだと知っていただければ十分です。
2025年読んだ本一覧①
宇都宮直子氏『渇愛』

被告人は現代社会がつくってしまった的な擁護ムーブに終始する本かと思ったら、中立的な立場で書かれた読み応えあるノンフィクションでした。
著者が被告人と24回にわたって面会し、対話を続けたこと。被害者の沈痛な思いを始め、被告人の支援者、そして被告人の母からの言葉。こうした丹念な積み重ねを通して事件の背景や人物像が浮かび上がってくる。最終的に著者の思いは、被告人が罪を理解し、償っていくことですが、それがよもやこんなに遠いとであるとは。
映画化の話はなくなったようですが、その際に監督を引き受けていた小林氏の「これは男女の問題ではない。弱い立場にある、困難を抱えている人を型にはめる方法を流布したのであれば、悪だと私は考えます(p229)」という言葉が印象に残る。

田中慎弥『孤独に生きよ ~逃げるが勝ちの思考~ 増補改訂版・孤独論』

15年の引きこもり経験がある芥川賞作家・田中慎弥氏。著者の小説は『完全犯罪の恋』だけ読んでます。本書で一貫した孤独の状況に身を置いてこそ力を出せる/活路が見出せるみたいな著者の言説。それは私も同じように感じるから理解できる部分です。
しかしながら、氏のようにインターネットを隔絶し、パソコンやスマホの電子機器は所有すらしておらず、今でも原稿は手書きという極端さには至っていない。RehacQの動画だとそういった極端な状態にしないと、他の才能豊かな書き手には書けないと仰ってましたが、書いて生きて行くためにそこまでする。これぞ狂気だなと。
本を読め。本を一冊読んでいる間は生きていられるという言葉もまた印象的。それに古典を読んだ方が良いというのは近藤康太郎氏にも通ずる。オススメの一冊です。
みずから積極的に手を伸ばしてつかんだ言葉でなければ、充分な用をなしません。 日々意識しないと、言葉は本当に目減りして、やがて枯渇してしまうのです。 するとどうなるか。言葉はわたしたちの考える素です。行動を決めるのも言葉です。 枯渇すれば、能動的に活動することがままならなくなる。 何度も述べてきたように、それは思考停止を意味する状態であってあなたは望まない環境に閉じ込められても、それに抗えない奴隷となります。 言葉は本来の自分を保つための武器なのですから、ゆめゆめ疎かにしてはいけません。
『孤独に生きよ ~逃げるが勝ちの思考~ 増補改訂版・孤独論』より引用

ReHacQに出演された時の動画がおもしろいですよ。前後編ともに45分ありますが、作家論にしろ人生観にしろ良い。孤独だけど、人間ひとりじゃ生きられないともはっきり言っている。
佐々木敦『書くことの哲学』

帯にある”書ける自分に変わっている”よりも、書くことに対してこんなにも考えなきゃいけないのかと畏れが増すような。書くマインド・セットについての記述が多い気がしますが、個性とはクセの集積という点は大事にしようと思いました。うちのブログは一応、文体とかセレクトとかで他にない個の要素が強い音楽ブログにしようというのはあるんですけどね。それに誰も書いてないところを書いていますし。
どんぐりの背比べ的な状態から頭ひとつ抜け出すには、もちろん最初から非凡な才能に恵まれているなら別ですが、残念ながらそうではなくて、それでも自分が作り出したものを他の人たちが作ったものから差異化したいのならば、 個性を、すなわち何らかの意味での個別性・特殊性を、ユニークネスを獲得する必要があります
『書くことの哲学』より引用

レジー『東大生はなぜコンサルを目指すのか』

本書では”成長教”と表現されているほどで、読んだら成長という言葉を禁じられた気になりますが、前著の『ファスト教養』と同じく現代社会の風潮を理解できるような一冊かと。安定するために成長する。目的はわかるが、そこにどういった主体があるのかはよくわからない。漠然と社会に駆り立てられてそうなっている気がする。
”我々は必要以上に成長を促されるベルトコンベアに載せられている。それに対して自分のキャパシティーを超えて無理に適応しても、待っているのは心身の疲弊である(p210)”。地に足つけて生きる。自分にとっての大切なことを見つける。その難しさはSNS時代に余計に上がっている。
ゴールイメージからやるべきことを定義して、そこに高速のトライアンドエラーをかぶせることで「売れる」もしくは「バズる」アウトプットを磨いていくのが今の時代に最適化したミュージシャンのあり方である。この背景にあるのは、音楽業界の「IT産業化」だろう
『東大生はなぜコンサルを目指すのか』p165より
IT産業化というのはあらゆる指標が数字になることでもある。フォロワー数、インプレッション、リポスト数、再生回数・行動の結果が数値として提示され、それを追いかけて改善するのが当たり前になる。これは言い換えると日々の成長が見えやすいということでもあり、この構造に最適化した人々は数字を伸ばす中毒に陥っていく。「売れる曲といい曲”はイコールなのか?」といった問いは昔から存在するが、そんな疑問を挟む余地がないくらい現在の音楽業界では数字の力が強くなっている。この状況を飲み込めるかどうかが、今の時代に良いミュージシャンとして名を馳せられるかの分岐点となる(p166)
『東大生はなぜコンサルを目指すのか』p166より

周司あきら『男性学入門』

男性学とは、男性の当たり前を問う学問です(P4)
この系統の本はそこそこ読んでますが、本書は上記にある通り基本的なところを学べます。男らしさ、男性史、メンズリブ、家父長制などなど全6章に渡り、改めて男性について考える。
①男性の制度的特権(男性の加害者性)
②男らしさのコスト(男性の被害者性)
③男性内の差異と不平等性(男性の多様性)
p116においてこれら3つの視点を持つことが重要だと述べていますが、意識していくことだなと思ってます。ジェンダー的な表現は当ブログでも気を付けていますがね(いろんなことを本なり映画なりニュースなりで知っていかないと、このブログは書けないです)
特定の男らしさがもてはやされるときには、実はその裏で、これまで通り男性にとって都合のいい仕組みが維持されているのではないかと、注意深く観察しなければいけません。
『男性学入門」』P48より
