
ベルギーの古都メッヘレンを拠点に活動する3人組、Pothamus(読み:ポタムス、参照:Veil of Soundの動画インタビュー0:20秒辺り)。2013年に始動。音楽と形而上学を融合したスラッジ/ポストメタルを体現し、反復を基調とした儀式的なサウンドで非日常をつくりだしている。
本記事は2025年2月にリリースされた2ndアルバム『Abur』を含む、フルアルバム2作品について書いています。
作品紹介
Raya(2020)

1stアルバム。全6曲約50分収録。”音楽と形而上学を融合した”と自身を説明していますが、先行シングル3つのセルフライナーから察すると、本作は神話ならびに生命/時間の循環をテーマにしているようです(本作についてのインタビューは発見できなかった)。
#1「Orath」は地球創成期を表し、#2「Viso」は人類の誕生、終曲#6「Varos」は死。それらを同郷のAmenra、大御所のSwansやNeurosisといったアーティストの影響下にあるサウンドで表現しています。
スラッジ経由のヘヴィさと空間に余白を残すアプローチ、クリーンなヴォーカル(Amenraのコリンっぽい)とドラッグテストに引っかかりそうな呻き声を使い分ける。そしてトライバルという形容詞を浮かべるパーカッションの多用。それらを長尺の中で反復し、少しずつの展開を持って精神と肉体が昇り詰めていく感覚を聴き手に味合わせます。酩酊ではなく、覚醒。人間の原始的な欲求を引き出す作用がPothamusの音楽にはある。
16分を超す表題曲#5「Raya」は一定のリズムパターンを土台にギター、ドローン、声を様々に重ねながら強烈な昂ぶりをもたらすものです。重低音のパワープレイに頼るものではない、繰り返しの美学。その献身と修道。
体験型の音楽を探求し、その音楽が聖も邪も孕んだ儀式として機能いている。先人達の知恵を借りながらも1stアルバムの時点でPothamusはかなり独創的です。

Abur(2025)

2ndアルバム。全6曲約47分収録。Pelagic Recordsと契約してのリリース。Chiaran Verheyden(Psychonaut、Hippotraktor)がミックスやマスタリングを担当しています。
2020年12月にリリースされた1stから約4年のインターバル。この理由についてはVeil of Soundの動画インタビューでリズム隊が基本的に一緒に作業してリズムのベーシックな土台を作り、そこにギターやドローン等の要素を付け加え、その音から詞やコンセプトを構築していくので時間がかかるとのこと。また本作は前作で培った音楽/コンセプトを微細に探究していったとも話す。
コンセプトでいえば『Abur』はすべての生命の深い相互関係を象徴していて、存在とは織り成されたものであり、個々の糸が全体に寄与しているという古代の考えに基づいていると説明(参照:Faebookページ10月22日の投稿)。
トライバルなリズムの上に様々なレイヤーを重ね、長尺で表現するスタイルはそのままです。冒頭のアトモスフェリックなアプローチを経て推進力のあるドラムとうねるベースが牽引し、デスボイスとクリーンなコーラスがスピリチュアルな体験へと誘う#1「Zhikarta」からしてPothamusらしい。
ここに主な追加要素としては、メイン・コンポーザーであるドラムのMattiasが新たにヴォーカル参加したこと。さらにインドの民族楽器であるシュルティボックスを#3「De-varium」と#5「Ykavus」にて使用して東洋的な響きのドローンを加えたことが挙げられます。それらはある種の奇妙さとハーモニーの充実へと繋がっている。
しかしながらコンセプチュアルでありながら音楽をアカデミー化するわけでもなく、非日常体験を促す音楽であることは貫いています。表題曲は長ければ長いほど良いという縛りでもあるのか#6「Abur」は、ミニマリズムとダイナミクスの妙で構築された15分。時間という概念すら忘れさせる没入感がある。
