
アメリカ・フィラデルフィア州を拠点に活動するブラッケンド・スクリーモ5人組。2019年にRichie DeVonを中心としたスタジオ限定ユニットから始まり、その後にバンドへと移行。専任のヴァイオリニストを擁し、ブラックゲイズとリアル・スクリーモが組み合わさったサウンドを演奏している。
ちなみにRichie DevonはWill YipのStudio 4で働くレコーディング・エンジニアです(参照:Riff Worshipの動画インタビュー12分30秒辺りからWill Yipとの仕事について話している)。
本記事は2025年5月にリリースされた1stアルバム『A Pain Bloomed From My Lungs』について書いています。
作品紹介
A Pain Bloomed From My Lungs(2025)

1stアルバム。全9曲約45分収録。マスタリングをMagnus Lindberg(Cult of Luna)が担当。海外メディアでは”ブラッケンド・スクリーモ”と表現されている新鋭のデビュー作です。その形容は納得するところで、『Roads to Judah』までの初期DeafheavenとRespireの混血といったイメージが近い。
トレモロやブラストビートを軸とした波状攻撃に、ヴァイオリンがその上を優雅に滑空する。そこに思想を吐露するようなクリーンボイス、スポークンワード、唸り声を組み合わせて楽曲のダイナミックさや感情を際立たせています。厳かで上品な立ち上がりから一気にフルスロットルで駆け上がる#1「Redux」から衝撃を約束。
続く#2「The Shallow Drowned Lose Less Than We」にしてもブラックゲイズ、リアル・スクリーモ、ポストロックの要素を適切にまとめあげており、豊かな起伏の中に思慮と興奮の両時間が訪れます。それに#5「Lyla」は、後半に進めば進むほどVampilliaを引き合いに出したくなりますしね。
バンドの肝といえる爆発的なアプローチと静かなセクションの対比、ならびに連動。後者には2分前後のインタールード3曲も含まれ、クラシカルなモチーフが強まったり、エレクトロニックやピアノを用いたりと変化を加えています。それでもバンドの持つフィジカルな性質は勝っている。その点がブラックゲイズよりもハードコア的な気質の方が強く感じられる要因でしょうか。
また、Bandcampの説明によるとアルバムのテーマには喪失、家族、移民、混血といったアイデンティティにまつわるものを挙げている。昨今の世界情勢から移民の部分はフォーカスされており、そういった主張を鑑みるとRepsireは最も近しい存在に思えます。なかでもスペイン語で歌われる#3「Al Cerro Ancon」は、バンドのルーツが垣間見れるのと同時に、行き場のない感情を叫びと演奏にぶつけているようで力強い。
ラストを飾る#9「Septiembre」の穏やかなギターとストリングスの幕引きも、温かさよりも切実な響きで心に迫ってくる。出自ゆえに生活が刻々と揺れ動く中、引き下がるわけにはいかない。覚悟が据わった音が本作で鳴っています。
