
2004年にアメリカ・ミシガン州グランドラピッズで結成されたポストハードコア5人組。中心人物であるJordan Dreyerが高校在学中に結成。バンド名は、Jordanが高校時代に観たピエール・ド・マリヴォーの戯曲『La Dispute(いさかい)』に由来する。
本記事は1st~3rdアルバムまでの3作品について書いています(以降の2作品も書いているんですが、だいぶ遅れてますので書けている分を先行して公開します)。
作品紹介
Somewhere at the Bottom of the River Between Vega and Altair(2008)

1stアルバム。全13曲約51分収録。2024年に閉鎖されたNo Sleep Recordsからのリリース。UNDER THE GUN REVIEWによるリリース当時のインタビューを参照すると、本作は中国の神話『牛郎織女』をストーリーに取り入れている。日本でいうと七夕の織姫と彦星の話だと捉えてもらえればよいかと思います。天の川のような障害物、男女の失恋・別離をモチーフにしており、3曲は2組の離婚を扱った曲だと説明する(#3、#7、#11の3曲。参照:mvremixインタビュー)。
クリーントーンのギターとスポークンワードで90秒で沸点へ導かれる#1「Such Small Hands」を皮切りに、強烈な衝動をもたらす曲が本作には揃います。しかし、初のフルアルバムにしてLa Disputeの中では一番異質かもしれません。ポストハードコアを基盤に置いていますが、ストレートな軌道を走りつつも変則的な展開を多分に入れ込み、直線と曲線を上手く使い分ける。
その様はマスコアまでいくものではないにしても、場面によってはジャズやメタル、ポストロックといったものとハードコアがセッションしているかのよう。そして、中心に置かれるヴォーカル兼作詞家のJordan Dreyer。彼のスタイルは”語りと叫び”と端的に表現できますが、それらを用いて情熱と緊迫感を生み出している。またコーラスワークの活用も次作以降と比べるとかなり多い。
サウンド面ではAt the Drive-In、Glassjaw、Refused。歌詞ではJoanna Newsomに影響されたと後のインタビューで語っています。本作は前述した中だとRefusedは近い印象があり、#3「New Storms for Older Lovers」は影響を特に感じさせる曲。それにThese Arms Are Snakes的な感触もあったりしますし。
また七夕に関連してか、ジャケットに刻まれた”7″は先のインタビュー内でアルバムの音楽的構成にも登場すると話しています。#4「Damaged Goods」や#12「The Last Lost Continent」で7拍子のパートが登場するのはその関連といえそう(歌詞では”Darling”という単語が良く出てきますが、こちらは集計したら7回ではなく8回でした)。
タンバリンと小気味よいリズムに乗せて爆発的な瞬間を生み出す#2「Said The King To The River」、中間部のキメのフレーズに痺れる#7「Last Blues For Bloody Knuckles」、やや暗めの曲調の中で別れた彼女のことを執拗に思い続ける失恋ソング的な#9「Andria」は印象的な楽曲。そして約12分に及ぶ#12「The Last Lost Continent」は、湿っぽいギターの音色を中心に織り上げ、Jordanの語りと叫びが胸を突いてくる。
2018年には10周年を記念したリイシュー盤がリリース。またイギリスの音楽誌であるRock Soundが2012年に発表した【101 Modern Classics 1997-2012】の53位にランクインしている。

Wildlife(2011)

2ndアルバム。全14曲約58分収録。引き続きNo Sleep Recordsからのリリース。THE DAILY TEXANの記事によると”Wildlifeというタイトルをつけたのは、あらゆるものを包括的に表現できる言葉だからだと思う。私たちはみな、悲劇と変化を目の当たりにする。それは私たちの存在の総和である。“とタイトルについてJordanは述べています。
本作はaの単語から始まる4つのセクションに別れており(#1「a Departure」、#5「a Letter」、#8「a Poem」、#12「a Broken Jar」)、その構成はウラジミール・ナボコフの『青白い炎』にインスパイアされているそう(参照:redefineインタビュー)。ちなみにJordanは他にもカート・ヴォネガット、エドガー・アラン・ポー、トム・ロビンスといった作家からの影響を公言している。
前作と比較するとストレートな曲調が増えています。また、ライブで聴いた時の自然な音を捉えられるものにしようと人工的なリバーヴを一切使わないという制約を設けて制作。高速ドリフトを繰り返すようなスリリングさは減退したものの、歯切れの良いリズムや生々しく性急なギターが感情をブーストさせます。そして血管と喉仏へのダメージもいとわない絶叫、聴衆の興味を引くようなスポークンワードが聴衆を何よりも駆り立てる。
構成を少し簡素化したことで、曲の持つストーリーを伝えることに重きが置かれています。人生における苦悩や悲劇や喪失、それらの対処についてフィクションと実体験を交えながら書かれているそう。そして故郷・グランドラピッズの実在の出来事も混じっている。
#3「St. Paul Missionary Baptist Church Blues」は実在するグランドラピッズにある廃教会、#10「Edward Benz, 27 Times」は統合失調症の息子にナイフで襲われた父親、#11「I See Everything」は7歳の息子を病気で亡くした両親と信仰について描いています。
そしてSpotify再生回数が3000万回を超える代表曲#10「King Park」は、JordanとドラマーのBradが当時に働いていた場所のすぐ近くで起きた銃乱射事件によって、罪のない子供が亡くなったことが題材。こうした痛みと悲劇は遠い出来事ではなく、身近でも起こりうると骨身を削って表現している。
本作はビルボード200にて135位にランクインしており、La Disputeの中でおそらく最も人気の高い作品です。

Rooms of the House(2014)

3rdアルバム。全11曲約42分収録。自身のレーベル、Better Livingからのリリース。またプロデューサーにWill Yipを招いての制作。ミシガン州北部の人里離れた山小屋で曲作りをした後、レコーディングを敢行しています。
NEW NOISE MAGAZINEやVICEのインタビューを参照すると表向きは架空のカップルの話ですが、ある家の部屋や物が持つ歴史や共有された記憶がコンセプト。それをタイトルにも反映している。例えばコーヒーメーカー、ラジオ、本。それらを見たり、触れたりすることで何かを思い出す。このように物や部屋が、そこで起こった出来事や経験を包み込むようになることを描いている(フィクション中心ですが、Jordan Dreyerの家族の歴史が混ざったものではあるらしい)。
前作以上に要素をさらに削いでシンプルな音楽に向かっており、ミドルテンポの曲が多め。5拍子ながらもノリ良く進む#2「First Reactions After Falling Through The Ice」、1stアルバムの雰囲気を思い出す#7「Stay Happy There」といった曲があるとはいえ、ハードコア寄りの激しさは抑えられています。スポークンワードを中心に緊張感を保っていますが、声を荒げる回数は減っている。
代わりに軽快なコード進行やメロディアスな音色が柔らかなトーンと哀感を連れてきます。私が書いた中で最もストレートなラブソングと自身で謳う#3「Woman(in mirror)」、しんみりした曲調が沁みる#6「35」といった曲が新鮮に響きます。そんな中で#8「THE CHILD WE LOST 1963」はポストハードコアとスロウコアを行き交う曲調の中で、Jordanの祖母が流産した時のことを歌詞にしている。
本作は一歩引いたレンズで部屋を映し出す中で、バンドの繊細な領域を新たに掘り起こしています。#9「Woman(reading)」には”君がこの家を出ていくときに所有物を全て持っていくけれども、思い出はこだまする“と記される。カップルの関係が破綻したあとでも部屋や物から記憶が呼び起こされる、そんなアルバムのテーマを最も表しているように感じます。個人的には大崎善生氏の小説『パイロットフィッシュ』の冒頭文を思い出したり。
Jordanは”これは前に進むことについてのアルバム“だと語っていますが、人はそれぞれ固有の記憶や経験を基に生きていく。それを改めて思い直させる作品であると感じます。

Panorama(2019)

4thアルバム。全10曲約42分収録。Epitaph Recordsへ移籍。プロデュースにWill Yipが引き続き携わっています。本作はグランドラピッズから郊外のローウェル(Jordanのパートナーの故郷)へ向かうドライブが基になっている。
後日、追加予定です。

No One Was Driving The Car(2025)

5thアルバム。全14曲約64分収録。Epitaph Recordsから引き続きリリース。タイトルは2021年4月にアメリカ・テキサス州で起こったテスラ自動運転車による2名の死亡事故。この件に関する警察官の発言から引用(参照:GIGAZINE記事)。
後日、追加予定です。
