
UKリーズを拠点に活動するポストメタル・バンド。旧知だったギタリスト2名、Owen PeggとTom Wrightによって2015年頃から始動する。バンド名の由来はThe Metal Cellの動画インタビューを参照すると、初期に制作した楽曲「Black Fire」のスピーチサンプルとして用いたHarry Leslie Smithの2014年の演説(多分この動画です)、そしてスウェーデン人作家であるヨナス・ヨナソンの小説『窓から逃げた100歳老人(The Hundred-Year-Old Man Who Climbed Out the Window)』からとっていると話す(動画の25分辺りから)
セルフタイトルの初期EP『Hundred Year Old Man』ではドローンメタル/ノイズ的な作品が、以降はメンバーの増員をしながらポストメタルと呼ばれる領域に移行。2018年に1stアルバム『Breaching』をリリース。
しかし、2021年9月にバンドの主導的立場にあるOwen Peggが急逝。その影響で一時的な活動休止を挟んだものの、バンドは活動を継続。Owenの遺志を受け継ぎ、2022年6月に2ndフルアルバム『Sleep In Light』を発表しました。リリース以降も動きは活発で、ArcTanGent Festival(2024,2025)やPortals Festival(2023)への出演を果たしている。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム2作品について書いています。
作品紹介
Breaching(2018)

1stアルバム。全8曲約58分収録。結成からまもなくEP『Hundred Year Old Man』をリリースし、2018年1月に本作のプレ版となる3曲入りEP『Rei』を経てのフルアルバム。当サイトではお馴染みといえるぐらい取り上げているMastered by Magnus Lindberg(Cult of Luna)案件でございます。
”当時私たちはISISの『Oceanic』やCult of Lunaの初期2作品に強く影響を受けていたため、ポストロック的な要素のダイナミクスを損なわずに、重厚さを可能な限り濃密に表現することを特に意識した。ギターは多重録音。ミックス内のほぼ全ての楽器にホールの自然なリバーブを大量に用いることで、可能な限り厚みのあるサウンドを実現した“とEverything is Noiseのインタビューで本作について答えています。
初期EPは3人組でSUNN O)))や小文字boris寄りの実験的なドローンメタルをやっていましたが、徐々に増員して本作からは6人編成。インタビューで引用した通りにポストメタルと呼ばれるスタイルへと移行しています(その上でゲスト参加も多数)。構成としては3~4分ほどのインタールード3曲、10分前後の長編5曲から成る。ヘヴィなリフと2人体制による咆哮によって闇への服従を長い時間にわたって余儀なくされますが、その混濁に抗うようにクリーンなメロディや巨大な音の壁をつくりあげて希望や尊厳を保とうとする。
結成初期に制作した楽曲を再構築した#2「Black Fire」は上述したHYOMの特性が詰まっています。ゆっくりとしたビルドアップの中でイギリスの作家であるHarry Leslie Smithのスピーチの挿入、抑圧と解放のプロセスを辿り、人間の感性を慄かせる11分間に仕上がる。#3「The Forest」や#5「Long Wall」、#6「Disconnect」にしてもポストメタル由来の大きな起伏を持つ楽曲で、いずれの曲も山場で痺れるような時間感覚がもたらされます。
発言内容を鑑みた上でいうとISIS(the Band)よりもCult of Luna寄りの剛健さが目立つ。加えて後期Fall of EfrafaやLight Bearerを彷彿とさせる壮大さを感じさせます。静かな灯のように鳴るシンセサイザーや男女のスピーチ・サンプルを用いた雰囲気作りを含め、最終曲#8「Ascension」に至るまでの航海は生半可な覚悟で乗船することを許さない。それでも重みと厚みを増していく暗闇の中、HYOMの音楽は微かな光を手繰り寄せます。
なお本作は、Bandcamp Dailyが2019年5月に発表した記事【A Beginner’s Guide to Contemporary Post-Metal in the U.K.(UKの現代的ポストメタル入門といった意)】の内で言及される6作品のひとつに選出(しかもトップ扱い)。
Sleep In Light(2022)

2ndアルバム。全8曲約80分収録。ミキシングをJoe Clayton(Pijn)、マスタリングは引き続きMagnus Lindberg(Cult of Luna)が担当。大半のメンバーが入れ替わった6人編成として制作されていますが、創設メンバーでバンドを主導するOwen Peggが2021年9月に急逝したことは本作を語る上で決して切り離せません。彼が作曲の大部分を担った上で、残されたメンバーが遺志を受け継ぎ完成に至る。
またリリースインフォによると、タイトルはアメリカで1993~1999年まで放送されたSFテレビドラマ『バビロン5』のエピソード名に由来しています(Owenがお気に入りだったとのこと)。テーマについては“アルバムは孤立と絶望のテーマを扱いながら、現代世界が直面する突然の暗黒時代において、希望と可能性の要素を提示している。喪失と愛、生と死、そしてその間の全てを描いたサウンドトラックである”との説明がなされています。
活動が危ぶまれたほどの大きな喪失感を抱えた上でバンドは決起。前作のスタイルを踏まえた上で本作はさらなる高みへと到達しています。オープニングを飾る#1「A New Terror」の繊細と豪胆な筆致から、表題曲#2「Sleep in Light」でCult of Lunaが紡いだ月の満ち欠けの果てに、ブラストビートを伴って宇宙へ突き抜けていく。そして17分近い大曲#3「I Caught a Glimpse of Myself on Fire」へと繋がります。鎮める静。威圧の動。形勢逆転を繰り返す中で音と感情が11分付近でピークに達し、その後のギター/シンセ/ストリングスの追奏が深い余韻をもたらします。
アルバムの半分近い約38分を占めるここまでの3曲だけでも、ポストメタルの偉大なる先人達へ迫っていることを実感します。それでいてより包括的な音像がつくり込まれている。前作よりも稼働率が高まったシンセサイザーが空間に光彩と拡がりをもたらしたのを始め、#4「Seldom」では初期のドローン/ノイズの召喚、#6「Stone Sail」 のツインペダルによる強襲、#7「Monoanime」におけるピアノの厳かなタッチと濃霧のごとき音響など。こうした多彩さを搭載し、数多の静かなセクションを有しながらもHYOMは徹底的に肉体的で感情的な音楽であることを手放してない。
最終曲#8「Livyatan」ではスラッジメタルの圧を強めた容赦ないサウンドから、共演経験もあるスイスのポストメタル・バンドのE-L-Rを客演に迎え、鎮魂と追悼のムードを深めて作品を締めくくる。約80分を擁する『Sleep in Light』は、死者と生者が魂を擦り合わせて壮絶な体験を約束する傑作です。
