【作品紹介】Ingrina、類を見ない感覚をもたらそうとするポストメタル

 フランス・チュールのポストメタル・バンド。Ingrinaというバンド名は公式サイトにて、”記憶の名であり、この文明が生きている者たちに忘れさせようとする、生命の恍惚感の名である。それはまた、逃避の名でもある“と説明。またMetalorgieのインタビューでは”海や大地、そして揺らめき崩れ去る全てのものとの繋がり、孤独を感じる他に類を見ない感覚のことを指している“とも発言している。

 時期によって異なりますが、現在はトリプルギター、ベース、ドラムの5人編成(2021年以前はツインドラムの6人編成)。2018年の1stアルバム『Etter Lys』ならびに2020年の『Siste Lys』がTokyo Jupiter Recordsから国内盤リリースされています。2026年初頭には3rdアルバム『Nåværende Lys』を発表しました。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム3作品について書いています。

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作品紹介

Etter Lys(2018)

 1stアルバム。全6曲約52分収録。Tokyo Jupiter Recordsより国内盤がリリース。レコーディング、ミックス、マスタリングを含めてセルフプロデュース作となっています。タイトルはノルウェー語で”光の後”という意(DeepLとGoogle翻訳併用)。

 Ingrinaは端的には”ポストメタルとSF”みたいな形容が似つかわしいバンドです。オフィシャル・サイトにあるWORDSというコーナーでは、楽曲の背景となった短編小説を記載(あくまで歌詞ではなく物語)。がんばって解釈すると、”生命がどこにも宿ることができなくなった液状化された世界、それによる変容”を描いているようです。想像力が足りない私からしたら、ちょっとなに言ってるかわからない状態ではある・・・。

 当時のバンドはトリプルギター、ツインドラムにベースを擁する6人体制。CORE AND COのインタビューによるとメンバーはハードコアやパンク、メタルに属すバンドで過去に活動していたことが、彼らの基盤になっている。そのうえで音楽的には思慮深さと重々しさを伴ったポストメタルへと昇華。

 冷ややかなギターフレーズと随所で躍動感を押し出すドラムを筆頭としたオープニング#1「Black Hole」からその姿勢は示され、10分を超える#2「Fluent」では同じフランスのYear of No Lightにも迫る地吹雪に見舞われる。クレッシェンド構造とスケールの壮大さはこのジャンルに根差していますが、ハードコアのエッジが所々で目立つのは前述した彼らの素養があるからこそでしょう。それでも意外とゴリゴリ感は薄く、メロディアスと感じられる時間が長いので聴きやすくはあります。

 また基本的にはインスト主体ながらもヴォーカル入り。しかしながらあまり主張せずに奥のほうに引っ込んだ扱い。ひとつの楽器という形で声が活用されています。ミステリアスな前奏からトライバル風味のリズムを軸にして音量が肥大化していく#4「Resilience」、そして15分を超える時間をかけて無尽蔵な水の支配に降伏するほかない生命体を描く#6「Surrender」と後半はさらに激動。一寸先は闇でも光でもなく水だったという世界線との対峙。デビュー作にしてその作家性をいかんなく発揮しています。

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Siste Lys(2020)

 2ndアルバム。全6曲約35分収録。引き続きTokyo Jupiter Recordsから国内盤がリリースされています。タイトルはノルウェー語で”最後の光”という意。本作は1st EP収録の3曲(#3、#4、#6)に加え、前作の日本限定盤にボーナストラックとして収録された1曲(#1)を新たなアレンジで再録。そこに新曲2曲(#2、#5)を交えてアルバムへと昇華。そういった理由からか本作においては2分~3分台の短尺3曲、7~10分までの長尺3曲と幅があります。

 Ingrinaの作品はテーマが基本的に地続き。”水に翻弄されながら荒れ狂う沼地の生命体から、看守、壁、そして死体が再び姿を現す様子を描いている。自らを閉じ込める文明の氷を破ろうとするこれらの生命たちの物語“と本作について説明(参照:オフィシャルサイト)。聴き手の想像力をこれでもかと試してきよるわけですが、『Siste Lys』においては1曲目にある「Jailers」=看守、それに#2「Walls」=壁の存在が浮かび上がってくる。

 前作に引き続いてトリプルギター+ツインドラム+ベースの6人体制。地殻変動をそのまま楽器で表したかのような迫力と重み、緊張感が続く展開は変わりません。10分30秒を数える#1「Jailers」からポストメタル然とした轟きが圧倒するも、やまびこと思えるぐらいに遠くから聞こえてくるヴォーカルはそのまま。一転して#2「Walls」では全編を覆う霧と静けさが生命体の無力感を表し、ラストのタムによる牽引が”壁”の構築が終えたことを物語っているかのようです。

 #3「Casual」や#5「Now」といった2分台の曲ではハードコア寄りの即効性の高さを示す。しかしながらラストを飾る#6「Frozen」のような凍りつくような静寂、それを打ち破ろうとする爆発的なサウンドの対比こそが持ち味に感じます。2020年11月に本作が発売された頃は、新感染症が全世界で猛威を振るっていたわけですが、Ingrinaが描く今とは別の世界の形が現実にならないとも限らない。

 ちなみにリリース後に”Ingrinaに影響を与えたトップ10レコード”という記事がIDIOTEQで公開されているので、チェック推奨。

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Nåværende Lys(2026)

 3rdアルバム。全6曲約40分収録。5年半ぶりの新作のタイトルはノルウェー語で”現在の光”という意。前作リリースから半年ほどで2人が脱退。ベースは入れ替わり、シングルドラムの5人編成となっています。本作に先駆ける形で3年前に約10分のシングル曲「Ice Flares」をリリース。

 『Nåværende Lys』は三部作の完結編という位置づけ。”生命体が自らの存在を無限にし、それまで彼らを縛っていた境界、壁、監獄を解体することに成功した鮮烈な現在を称える作品である。洪水と監禁という破壊的なサイクルから逃れることで、出現の時が炎の中へと広がっていく。『Etter Lys』で描かれた植民地化の洪水、『Siste Lys』での致命的な監禁、そして「Ice Flares」での出現に続いて、『Nåværende Lys』は最終的に無限に向かって走る生命体に捧げられています”と説明しています(参照:公式サイト)。

 全体を通して以前の作品よりも思考するための余白が各曲に設けられている印象があったり、少し荒ぶるようになったヴォーカルが聴けたり(とはいえ楽器的な扱いなのは変わってない)、#5「Laws」における脈打つような電子音を主体とした楽曲など変化も見られます。ですが、幽玄な雰囲気と炎が燃え盛る時間が代わりばんこの#1「Time」、怒涛の勢いをみせる幕開けから清冷としたギターの音色を重ねていく#2「Out」と序盤からポストメタルの領域に陣取るサウンドは健在です。

 世界洪水化現象、そして看守と壁の登場。一連のフルアルバムで表現してきた状況を本作においては、ジャケットが示すように”炎”が未来への突破口となっていく(参照:公式サイトのWORDS)。こうしたIngrinaの物語のゆっくり解説がYouTubeにあがることは2万年かかってもないでしょうが、バンド名で示す他に類を見ない超越的な感覚を音楽を通してもたらそうとしていることは、本作でも変わりないでしょう。

 中盤に置かれた#3「Loosen」には少々のアコースティックなタッチがドローンの海に交じり、#4「Grips」はBosskに近い表情をみせたりも。ラストは#6「And All The Deadly Frontiers」で過酷なヘヴィさと茫洋とした曖昧さが入り混じるサウンドで10年をかけた三部作を締めくくる。言葉と音を焚べるポストメタル。そのスケールはあまりに壮大です(こちらの動画インタビューを見ると本人たちの理解をも超えていると思われる)

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