【作品紹介】Wildernesses『Growth』

 2022年ごろから活動を開始したUKの4人組。オルタナティヴロックやポストロック、シューゲイズを折衷したサウンド、ソングライターを務めるPhillip Morris(Vo,Gt)によるメンタルヘルス専門家としての実体験を中心とした詞がバンドの中核を成す。ArcTanGent Festival 2026への出演が決定している。

 本記事は2026年3月にリリースされた1stアルバム『Growth』について書いています。

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作品紹介

Growth(2026)

 1stアルバム。全9曲約44分収録。Joe Clayton(Pijn)による録音、ミックス、マスタリング。また同氏のFloodlit Recordingsからのリリースとなります。WildernessesはBandcampだと”Post-gaze”、Instagramだと”Atmospheric Alt-Rock”と自らを形容。Soundsphereのインタビューを参照すると、”重くなりすぎない重みを意識したうえで感情に訴えかけるヘヴィさを持つ“というのがバンドのコンセプトにあるという。

 Explosions In The SkyやCaspianの系譜にあたるインストゥルメンタル#1「Sleepless」が本作の始点となっていますが、全体を通すとオルタナティヴロックやポストロック、シューゲイズを折衷する中にThe Nationalを思わせる歌が入る曲がメインです。どちらかといえばAtmospheric Alt-Rockの方がしっくりくる。

 その上でソングライターを務めるPhillip Morris(Vo,Gt)によるメンタルヘルス専門家としての実体験を中心とした詞が作品の礎となっている(IDIOTEQの記事によると、彼は母親の介護をきっかけにレストラン業務からメンタルヘルスの仕事に移ったそう)。日常の病棟で目の当たりにする苦しみやトラウマを通して、人間を深く洞察。この性質を最も表しているのが先行シングルのひとつ#4「English Darkness」です。自傷行為の危険がある若い女性と電話した時の実体験を克明に描き、繊細な曲調と抑制された歌声がやがてディストーションの圧に飲まれていく。

 #2「Happy Hollow」では心地よいギターの反響に乗せて”ただX-ファイルをオンラインで観たいだけ、エイドリアン・チャイコフスキーを夜通しで読みたいだけ“と連呼。また#3「(dread)」や#8「Four Hour Drive」にてLa Dispute寄りのポストハードコアの勢いとポストロック/シューゲイズ要素が混交する。#6「Maintenance」は”私たちが丹念に守り続けている「自分」という姿と、それを手放すことで得られる自由との間の葛藤を描いています“とコメントしており、MVではその二面性を仮面と演者の振る舞いで見事に表現しています。

 最終曲#9「Summertime, 1917」は、第一次世界大戦中の二人の男性兵士による物語を現代の視点から語る。国によって収奪された人生、当時の世界には認められない愛。穏やかなサウンドで表層を成していますが、その悲しみの渦が約110年の時を経て迫り、今を生きる人々に問いかけます。

 全体的を通して控えめで物憂げな雰囲気が漂いますが、シンプルなサウンドの中に繊細さと力強さをにじませ、それぞれの人生経験を慎重に言葉へ落とし込み、受け止める深さが彼らの音楽にはある。2026年に聴き逃してほしくない作品のひとつです。

メインアーティスト:Wildernesses
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Wildernesses Live at the Fortress
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