
2005年から活動を開始したイタリア・ジェノヴァ出身の3人組。DJとして活動していたMorgan Belliniのソロプロジェクトとして始まるも、徐々にメンバーを増員してトリオ編成へ。バンド名は元ルームメイトの名前とオランダの元サッカー選手のファン・バステン(ACミランでも活躍)の名前を合わせたものだとEchoes and Dustのインタビューで回答している。
2006年にリリースした1stアルバム『La Stanza di Swedenborg』は、Arctic Droneが2025年4月に発表した【50 Essential Doomgaze Albums】に選出されていたりする隠れた名作。2015年ごろから活動を休止しましたが、2023年におなじみのメンバー3人で再集結。2026年5月に約15年ぶりとなる3rdアルバム『Yes』をリリース。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム3作品とEP2作品の計5作品について書いています。
作品紹介
Vanessa Van Basten(2005)

1st EP。全6曲約31分収録。リリース当時はMorgan Belliniのソロ・プロジェクト(しかしながら、次作から正式メンバーとなるStefano Parodiがベースとしてクレジットされている)。ギター、シンセ、プログラミング、声、アートワーク、録音にいたるまで大部分をBelliniが担当しています。
VVBはポストロック、ポストメタル、そして当時の言葉にはなかったドゥームゲイズの境界を行き来するインストが主体。The God Machine、Swans、Justin K Broadrick(GODFLESHの方が濃いらしいけど、Jesuが強めに感じる)からの影響を基にして、ディストーションの剛とアコースティックの柔が音楽の幹を成します。
冒頭を飾る#1「Concetto D’Incidente/L’Enigma Dell’Ora」から8分の長編ですがその性質が表れており、加えてシンセサイザーの装飾が湿っぽい雰囲気をもたらしている。続く#2「La Scatola」ではJesuにより近づいたディストーション・ギターが強烈です。
もうひとつの特徴にあげられる映画マニアゆえのセリフサンプルの引用が関心を引きます。本作では『デューン(1984年の方)』、『鏡 Zerkalo』、『マルホランド・ドライブ』を使用(参照:Discogs)。”デモEPの頃、私たちは最小限の言葉によるメッセージを加える必要性を感じた。そこでサンプリングをヒントとして使い、インストゥルメンタルの時間の後にリスナーを現実に戻すことにした“とDistorsioniのインタビューでその理由を説明している。
轟音系ポストロックの方法論を持ち寄る中で、アコースティックの音色とプログラミングの効果音が彩る#3「She Took Me To The Restaurant」もまた印象に残る楽曲です。3章構成で約11分にまたがる#4~#6「Metempsicotica」ではスピーチサンプルを導入部として機能させるPart1(#4)、危機迫る性急な序盤からメロディアスに展開されるPart2(#5)を経て、重苦しいサウンドが支配的なPart 3(#6)へと移り変わる。黎明期の作品とはいえ、VVBの表現したい核はすでに確立しているように感じられます。
La Stanza di Swedenborg(2006)

1stアルバム。全8曲約40分収録。ベーシストのStefano Parodiが正式加入。デュオ編成となって初のフルアルバムにして代表作です。
タイトルは、ラース・フォン・トリアー監督のテレビドラマシリーズ『キングダム』からで、表題曲#1「La Stanza di Swedenborg」にて引用されている。”すべての霊魂は、私たちが「スヴェーデンボリの部屋」と呼ぶ中間領域にいますが、あなたはそこに長く留まることはありません。あなたは向こう側、光の方へと旅立つのです“というドルッセ婦人の言葉。ちなみにスヴェーデンボリは18世紀のスウェーデンの神学者/思想家です。
1st EPからの流れを引き継ぐギター主導のインストが主体。ディストーションとアコースティックによる交互の響きを基調にピアノ、デジタル処理、スピーチサンプル等を組み合わせて清濁軽重を併せ持つ音楽が鳴っています。補足しておくと前EPも本作もドラムマシンを多用しているとのこと(参照:Distorsioniのインタビュー)。
DJだったのが影響しているのか、全体としてまとまりを重視するよりかは散文的なつくり。轟音系ポストロック、アンビエントドローン、簡素なアコースティックまで様々な楽曲を披露しています。40秒で完結するファニーな#2「Love」という変化球があったりしますしね。マイルドJesuな音響の上にBellini自身の歌声を披露する#3「Dole」、グロッケンシュピールとシンセで神聖な雰囲気を生み出す#5「Ⅱ Faro」といった曲も用意されています。
しかしながら、VVBがほかのポストロックと呼ばれるバンドと違うのは、アコースティック調がもたらす清涼感やなつかしさを上手く組み込んでいること。中間に置かれた#4「Giornada de Oro」はその情緒を最も生かした楽曲(ソロとして出てくるのは先だけどMark McGuireっぽい)。#6「Floaters」は肉体の老いと時の流れをテーマにしており、ロビン・ガスリーのギター作品にインスパイアされているそう(参照:Facebookの投稿)。
ラストを飾る#8「Good Morning Vanessa Van Basten!」は良い朝を迎えるには暴力的すぎないかというほどリズムが走り、楽器の音が消えた後に怪電波のような音が脳神経に不快な信号を送る。光の方へ旅立つことができるのか心配になってくるぐらいに。なお本作は、Arctic Droneが2025年4月に発表した【50 Essential Doomgaze Albums】に選出されています。
Psygnosis(2009)

2nd EP。全2曲約23分収録。ドラマーのRoberto Della Roccaが加入してトリオ編成となってからの初作品。私の1番好きな作品ですし、入門としてあげたい作品です。
これまでとは違ってリハーサル室で一緒に曲作りをしたという本作は、生々しいバンド感のある作風となったのが特徴。この時期はライヴ依頼が殺到していた影響も大きようです。微妙に声は入っているものの、98%ぐらいがインストでPelicanとExplosions In The Skyの合成獣を思わせる趣。
9分を数える#1「Tutto avanti all’indietro」からリズムの身体的な力強さを感じさせ、そこに電子音の煌びやかなアレンジや叙情的な旋律が添えられる。5分50秒辺りから急にエンジンがかかり、ハードコア/メタル寄りの推進力と重厚なリフがもたらす緊迫感はこれまでになかったものです。
さらに白眉なのは13分30秒に及ぶ表題曲#2「Psygnosis」。マーチング風味のドラムを基盤にアコギが軽やかに揺らめき、電子音のエレガントなタッチを加えてドラマチックに移ろう。明暗・濃淡・静動を表現する音のグラデーションが実に見事であり、Pelicanの長編Versionとなる「Match Into the Sea」にも比肩する素晴らしい1曲となっています。
Closer to the Small / Dark / Door(2010)

2ndアルバム。全9曲約52分収録。JesuやGrailsといったアーティストのリリース経験もあるRobotic Empireからの発売。アートワークには、ポーランドの画家であるズジスワフ・ベクシンスキーの絵画を引用している(ちなみに氏の絵画はdownyのようにすべて「untitled」だという)。
そのRobotic Empireによる情報インフォには”アコースティックやクラシック楽器を用いたトラックは、エンニオ・モリコーネが指揮を執るMogwaiを彷彿とさせ、プログラミングを主体としたトラックは、Swansのメンバーが地中海系の少女(GODFLESHやJesuをこよなく愛する)に深く恋に落ちた姿を想像させる“という過剰説明が掲載されていたりします。ん!? 例えがハイパー過ぎてわけがわかりません。
本作では『Psygnosis』のようにライヴを目的とした構築された長編曲ではなく、初期のプロジェクトっぽい作風に戻っている印象です。アルバム全体でひとつのテーマを物語ったりはせず、各楽曲はそれぞれ独立。雰囲気も風景も次々と移り変わるインスト集という感じでしょうか。とはいえ、じわじわと大音量化していくのが正義なポストロック的な手法とはやはり少し違う。
初期のCaspian的なムードを保ちながら後半に聖歌のようなコーラスが入る#1「Porzellangasse」がスタート地点。そこからNadjaばりの容赦ない重低音が鳴り響く#2「Putana」や#7「Scolopendra」、Belliniが子供を思い出しながら作ったというアコースティック主体の#5「Domio ’95」といった曲が並ぶ。曲単位でもアルバム全体でも、息苦しさと息抜きを天秤にかけながら差配して構成。9分の長編となる「Fuck The Best, Take The Rest」ではデリケートなタッチから危機を覚える轟音までかまし、スピーチサンプルも取り入れられています。
サックスを導入した#3「L’Uomo Che Comprava Il Tempo」、アコギとハーモニカが中心となる#6「La Selva Dell’ Orba」を含めインストを基本にしている以外は、ポストロックかくあるべしという方向性を定めようとはしない。Distorsioniのインタビューでは”私の個人的な見解では、ポストロックとはスタイルや規範を超越する絶対的な自由を意味します“と述べていますが、こうした自由さは本作でより発揮されてます。
Yes(2026)

3rdアルバム。全6曲約41分収録。2013年にHemelbestormerとのコラボ兼スプリット作品、2015年にThe Cureのカバー作品となるEP『Disintegration EP』を発表していますが、フルアルバムとしては約15年ぶりとなります。2015年から眠りにつきましたが、2023年におなじみの3人で再集結し、2年をかけて本作を制作。”タイトルを『Yes』としたのは……そう、我々が最も得意とすることを再びやり始めたからだ“とBandcampにて説明しています。
終わりを終わらせた先に、なじみ深い領域の音楽が鳴っている。特色であるディストーションとアコースティックの相互作用、スピーチサンプルによる雰囲気づくり、ピアノや電子音の貢献。そして、Belliniの控えめな歌声。オープニングを飾る#1「Dying in my Bed」からVVBが帰ってきたという思いを実感する内容です。
極端な変節はありませんが、JesuやNadjaよりもCaspianやIf These Trees Could Talkの方が音楽的には近くなった印象。以前ほどのゴリゴリ感は薄め。しかしながら、本作においてはStefano Parodiのシンプルだが迫力のあるベースラインがやたらと目立ち、久しぶりに肉体派なインストを披露している#2「Spittincotton」ではその傾向が表れている。
タイトル的に1stに収録された「Giornada de Oro」への回答とも呼べるだろう#3「Giornata de Legno」では、生命線であるアコースティック・ギターが清涼感のある演出を施すも、後半に重厚なベースが倦怠感を連れてきます。そして、Caspian的なポストロックの麗しい意匠から柔らかな轟音へと導かれる#4「Heartheaven」へと続く。
アルバムの要となるのは、ショートVersionが先行公開された#5「La Vita è La Droga Della Morte」。同曲は”人生は死の麻薬である”という意味を持つ13分を数える長編曲で、”VVBらしい純粋なスタイルで紡がれた、ヘヴィ/ポスト/ゲイズの長い旅である“と自身で説明しています。ここでは透き通るメロディ、脅威的な音圧、映画からと思われるスピーチサンプル、厳粛なストリングスが表れては消え、奈落と天国の両方を覗き見ることになる。
ラストを飾る#7「Nicaragua」は鳥のさえずりとアンビエンスの組み合わせから、5分30秒辺りからサッカーのハイライトがサンプリングされ(5分43秒辺りでファン・バステンと言っているように聞こえるのでそう推測)、暴走列車のようにメタル度を増した痛快なクライマックスへと向かう。1stアルバムから20年。ポストロックにこだわってきた3人の再生。『Psygnosis』がリリースされた2008~09年辺りから聴いてた私からするとその事実がうれしい。耳で聴き、目でも聴く感覚を持った作品を相変わらずに生み出している。
