完全インディペントなイベントとしてアメリカ・イギリスで音楽ファンの心を掴んでいるAll Tomorrow’s Parties。ただ、これは本家のATPとは違って姉妹イベントである「I’LL BE YOUR MIRROR」というものになります。主宰者バリー・ホーガン自らが試金石と評してはいるが、彼が吟味したアーティストが並ぶというものに変わりなし。
大目玉に10何年ぶりに活動再開のGodspeed You! Black Emperorを据え、Dirty ThreeやFuck Buttonsが脇を固めて、日本からも世界で活躍するBoredomsにBorisといったメンツを揃えています。チケットも時間はかかったが(速攻で売り切れると思ってたけど)ソールド・アウトを記録。新木場駅ではチケット譲ってください難民が登場するなどのにぎわいも見せるほどでした。
ちなみにわたくしは往復高速バスでの移動。朝8時に乗って13時15分ぐらいに東京着いて、ディスクユニオンを廻ってたら開演が過ぎていた・・・。会場の新木場STADIO COASTへはBoredomsが演奏を終える10分前ぐらいに到着。そのままバーの方をちらっと覗き、グッズも確認し終えてBoredomsを5分だけ拝見した。
彼等の公演が終わって、随分と客がいなくなったのが幸いしてよく見える位置を確保(階段を上がって2段目にせりあがった所と書けばいいのか)した後は一切動いてない。というわけで屋外にあるステージ2の灰野敬二氏、envy、MELT-BANANAはみてないのでご理解を。それに会場では一切飲まず食わず、トイレも行かずにひたすらライヴだけみるというストイックな楽しみ方。独りで見に来た人間がやる全然推奨できないイベントの楽しみ方で体を苛めた 。それでも素晴らしいアクトの共演に心は充実した気持ちです。
BOREDOMS
先陣切って登場はまさかのBOREDOMSだったのですが、自分の到着が遅れてしまい5分ぐらいしかみれなかった。凄い人でごった返していて、モニターでしか様子は拝見できなかった。円で囲むように6台のドラムがあって、真ん中で山塚EYEがストレンジに叫びまくっていた。それで終わり。その狂騒に放り込まれることなく、私は部外者のまま入り口付近でとどまってましたとさ。後からの感想を見てるとやはり予想通りに素晴らしかったらしく、彼等をちゃんと見なかったのはとても後悔していおります。
Boris
2番手は世界のBorisです、そしてエイベックスから3月にメジャーデビューが決まったBoris。4月にはさらにアルバム2枚投下。見るのは何気にあの恵比寿轟音祭りの”leave them all behind”以来で約2年ぶりだったんですが、今日のBorisはそこそこ。この日も栗原ミチオ氏を含む4人体制。
1曲目が『Farewell』で大仰に幕を開け、ギターノイズの壁と声が重なり合っていくスタートはなかなか心地よかった。続いてが新曲の「フレア」という曲だったみたいですが、疾走系ギターロックともいうべきもので新境地。”アニソン”仕様ともいわれてる曲で新鮮でした。だってBorisがこんなポップな曲をやってるんですよ。
続けざまの「Statement」は鉄板のナンバー。そして、「虹が始まる時」のWataさんの淡々とした歌声と色っぽいギターで妖しげなムードをつくりろうそくの火であぶってくる ような感じを覚えたし、最後の「” “」における重厚かつサイケデリックな世界はさすがでした。開始まで30分押したのはかなり印象が悪かったと思うし、機材トラブルも起こってたけど、世界を相手に戦う尖鋭的なサウンドの末端は示せたんではないかと思う。
Autolux
これまた20分押して(この時点で50分押し)、AUTOLUXが登場。多分、今回の中では一番誰?と思われているだろうLAの3人組。揃いもそろって美形揃いで、曲も丹念なアンサンブルが光ります。客入りはBorisの時と同じくらいでそんなに多くない。
繊細なギターフレーズや瑞々しいキーボードに、紅一点ドラマーのCarla Azarが迫力あるドラミングでかっちりと曲を締めあげ、見事に展開していく。エッジの立ったサウンドで牽引しつつもそこに自然の息遣いがある歌が潤いを与えるので、すっと耳に入ってきます。繊細で端正という表現が似合う音楽だと思います。その上で芯の太さや力強さも曲から感じた。
シューゲっぽい歪みのある空間を所々でつくりながらも、透徹とした輝きに満ちているのは不思議。最後はスタッフが詰め寄っていってバンドに耳打ちでもう終わりと伝えて、途中で打ち切り。転換に時間がかかったとはいえ、さすがにあの終わり方はないと唖然とした。
Fuck Buttons
こちらはさくっと転換を終えてのFuck Buttons。ノイズによる表現力を追及しているUKブリストルの2人組がいよいよ襲来。たくさんの機材を前にお互いに向かい合って位置取り、ライヴはスタート。「Surf Solar」から心地よいノイズに美しいメロディが交錯しながら、これまでになかったフロア感覚とダンス的要素を会場にもたらしていきます。
サンプリング・ヴォイスが聴こえてきた時の歓声は大きかったし、強烈なノイズが降ってきた時は拳を上げて歓喜を表現。暴力的なノイズ・シャワーが持ち味とはいえ、 躍動感のあるリズムと掛け合わせて巧くデザインし、カラフルで昂揚感あるフロア・チューンに仕上げていく辺りがおもしろい。ここまでノせてくれる とは予想以上だったし、さらに意外とHoly Fuckのようにライヴ感のあるサウンドに昇華されていて、フロアタムを使用して大いに盛り上げる場面もみられた。
「Rough Steez」→「Olympians」と続き、ラストの「Flight Of The Feathred Serpent」ではトライバルなビートでアげていく。観客のノリもかなり良くて来日を望まれたアクトだったということがひしひしと伝わってきた。
Dirty Three
めちゃくちゃ早く転換が終わってダーティ・スリーがいよいよ開演・・・の前に通訳を連れ、肩を組んでヴァイオリニスのウォーレン・エリスが前説でしゃべ るしゃべる。ですが、演奏に入るとその陽気な雰囲気がガラッと変わり、一部の隙もない荘厳な世界が開けていきました。
一応、『Cinder』というアルバムだけ聴いていますが。あまり聴いてないのでこの日はそこからやったかどうかはわからない。しかし、クラシカルなヴァイオリンの旋律に、柔らかいギター、きっちりと打ち込まれるドラムが見事にひとつの物語を紡いでいく様には引き込まれました。
バーンと弾けていく感じではないですが、強弱のアクセントと曲の持つ陰影を浮かび上がらせ、 様々な情景を喚起させて造形の美へと集束。聴き手を昂揚させ、感動させ、その存在感を示していました。ウォーレンはなぜか馬のように足を 蹴りあげながら演奏したり、客席に突入を試みたり、オーディエンスにフレーズを歌わせたりというパフォーマンスもみせ、その緊張感あるサウンドからは想像もつかない聴衆への歩み寄りをみせました。
そして、曲が終わるごとに通訳と肩を組んでのMC。「次の曲はダンサブルな曲なので7分間、裸になって踊ってください」とかも言ってて合間にこんなに笑わせてもらったのもいい思い出。サーストン・ムーアに「世界最高のライヴ・バンド」と言わしめたというのも伝わるライヴでした。
Godspeed You! Black Emperor
先に結論から言えば、”壮絶”であった。伝説とまで言われた存在を体感できるなんて、もはやないと考えていただけにその姿を確認し、音格別の時間に身を委ねることができました。
スクリーンに映し出される”Hope”の文字をスタートに、8人という大所帯のアンサンブルが、悲喜こもごもの物語の数々を描き出していく。ヴァイオリンが泣き、ギターがうねりを上げ、リズムが重く響き、静かで深淵な空気から動的な遷移でじわじわと音圧を上げる。そして、聴き手を忘我の境地へ。
壮大なクライマックスにおける昂揚感は本当に至福。溢れだす哀しみの向こう側に美しさを感じ、そして混沌の向こう側から希望が差してくる。彼等の鳴らす音自体に映像性を備えていますが、スクリーンに映し出されていくモノクロの映像も音とシンクロしながら、感情的に訴えかけることでさらにエネルギーを増幅。再結成とはいえ、ここまで凄いとは驚く他なく、存在自体が神格化されてたのも頷けるほどでした。
吹雪の様な轟音は凄まじいですが、ピンとはった緊張感が一向に緩むことなく手に汗を握らせる。曲間もひたすら細部まで音を感じ取り確かめなが ら、次の曲へと集中力を高めていました。どこまでもストイックに突き詰めることが、あんなにも切なくて重々しくて激しい音へと繋がる。この手の音楽はいろいろ体感してきましたが、ISISや Mogwai、MONOとはまた別の感動がありました。
GY!BEは深く強い闇と世紀末の様な重い世界、そしてあらゆる人の悲しみ、得体の知れぬ神秘性が音に詰まっているよう。しかし、帰りの夜行バスに乗り遅れる危険が大きかったので、最後の曲の途中でフェードアウト。押すのはまあ仕方ないにせよ(30分ぐらいならありえるといえばありえる)、新木場という立地では早めに出ざるを得なかった・・・。でも、満足しています。
-set list-(setlist.fmより)
01. Hope Drone
02. Moya
03. Gathering Storm
04. Monheim
05. Albanian
06. World Police and Friendly Fire
07. Dead Metheny
08. BBF III
GY!BEは最後の曲の途中で後にしたことを後悔(ついでに到着に遅れてBOREDOMSが全然見れなかったことも)しているが、期待以上のイベントでした。このメンツを集めてソールドアウトしたことに意味がある。試金石というが、収穫は大きい。本当に贅沢な一夜。ただ、 その分の改善点も多いことも事実。とにかく定着を願いたい。そして本物のATP上陸にも期待したい。おそらく今日集まった方々も同じ想いだろう。早くも次に向けての妄想が尽きない。